- 著者
-
海津 正倫
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.2, pp.164-178, 1987-12-30 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 10
- 被引用文献数
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50
75
ベンガル低地の沖積層について,ボーリング柱状図の検討や堆積物の粒度分析などをおこない,沖積層の層序を明らかにするとともにその区分・対比をおこなった.さらに,珪藻分折結果や14C年代測定結果などにもとづいて堆積環境の変遷や地形変化について考察した. 本地域の沖積層は粒度組成の顕著な変化によって細分され,下位から,最下部層,下部層,中部層,上部層,最上部層の5部層に分けられる.このうち,ブラマトラ=ジャムナ川氾濫原において深度約40~90m(現海面下約30~80m)に発達する最下部層は最終氷期最盛期頃に堆積した砂礫層で,日本における沖積層基底礫層に対比される.最下部層をおおう下部層は礫を若干混入する砂層で,その上部は褐色を呈している.これは,一時的に陸上において風化作用を受けたものと考えられ,この下部層の堆積以後に,海面底下にともなう不整合が形成されたと考えられる. 下部層と中部層の境はベンガル底地の各地においてかなり明瞭である.中部層以上の堆積物は細粒で,粘土,シルト,シルト混り砂等から成る.また,上部層や最上部層中には比較的顕著な泥炭の堆積も認められる.これらの各部層においては顕著な粒度組成の変化が認められ,ベンガル低地における地形変化や堆積環境の変化が反映されていると考えられる. 下部層以上の各部層の堆積時期は,下部層がおよそ12,000年前頃まで,中部層が10,000(あるいは8,000)年前頃まで,上部層が6,000(5,000)年前頃までの各時期に堆積し,最上部層がおよそ5,000年前頃以降に堆積したと考えられる.この間,12,000~10,000頃の問におこった一時的な海面底下期をはさんで海水準はいわゆる「シェパード曲線」的な海面変化曲線を描いて上昇し,現在に至っている.また,上部層下部の堆積期には比較的顕著な海域の拡大が認められ,中部層や上部層中部には比較的顕著な粗粒堆積物の堆積期が認められる.さらに,粘土やシルトなどの細粒堆積物の堆積した最上部層の堆積期には,ベンガル低地全体に水域が広がるような排水不良の状態が出現したと考えられる.