著者
渡辺 達徳 宇野 重規 嵩 さやか 飯島 淳子 岡部 恭宜 北島 周作 宇野 瑛人 姥浦 道生 伏見 岳人 犬塚 元 水野 紀子 坂田 宏 島村 健 巻 美矢紀 稲葉 馨
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

「人口減少社会」に関する基礎的・横断的研究の遂行という本研究の目的に沿って、平成29年度は、前年度に個別研究班が行った分析をもとに、海外研究者を含む学外の研究者を招いた研究会を開催することを通じて、全メンバーによる意見交換、研究進捗状況の確認と今後の課題を共有することに努めた。研究会において特に注目したテーマは、東日本大震災における社会資本の役割、私人間における障害を理由とする差別の禁止、個人の自立を支援する行政の法的統制などである。その上で、それぞれの個別研究班において、上記の研究会において得られた知見をも組み入れつつ、平成29年度に予定された研究が以下のとおり進められた。すなわち、基礎理論班においては、前年度までの検討を展開させ、人口の概念の再定位を検討した上で、人口減少社会を論ずるための理論的枠組みを提示するための検討を行った。また、制度班においては、人口減少社会への対処としての食い止め策と課題対応策との関係を整序し、体系的な制度設計の方向づけを試みた。さらに、政策班においては、前年度に行われた研究をもとに、人口減少社会の問題の所在と構造を把握した上で、問題の進行状況や問題の所在を異にする諸都市の特性をも十分に考慮に入れながら、条件不利地域・地方都市・三大都市圏という類型化を意識しつつ、フィールドワークも含めた研究を進めた。各研究者による研究成果は、後掲「研究発表」のとおりである。
著者
巻 美矢紀
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

研究の最終年度として、理論及び実践(解釈論)にわたり、これまでの研究成果を公表した。理論に関しては、リベラリズムの公私区分に対する、フェミニズム、共同体論、共和主義、討議民主主義、ラディカル・デモクラシーなど、左右両派からの批判をふまえ、公私区分の再構成を試みた。具体的には、公私区分は公私の相互関連性を看過している、人格の分裂を強いる、ア・プリオリの私的領域は人民主権を侵奪するとの批判をふまえ、人民主権の制度化にとって公私区分が不可欠であることを明らかにするとともに、とりわけドゥオーキンの法・政治道徳理論をてがかりとして、人格の統合に配慮しつつ、公私の境界線を漸進的に変動させる公私区分論を提示した。さらに公私の相互関連性にかんがみ、「領域」の公私区分とともに、井上達夫が提唱する「理由」の公私区分を、憲法学においても導入する必要性を主張した。また実践に関しては、理論的研究成果をふまえ、私的領域の中核に位置する自己決定権について、アメリカの議論を中心にドイツの議論も参照しながら、自己の基底的信念にもとづく最終的判断権を留保して人格の統合を確保することが、自己決定権保障の趣旨であることを明らかにし、日本国憲法の解釈論に示唆を与えた。さらに、このような意味で決定的に重要な自己決定権の貫徹を阻止しうる存在として、家族という憲法上の法制度保障について考察し、両者の緊張関係を指摘しつつ、人格の根源的平等性を尊重すべきことを論じた。