- 著者
-
巻 美矢紀
- 出版者
- 千葉大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2004
研究の最終年度として、理論及び実践(解釈論)にわたり、これまでの研究成果を公表した。理論に関しては、リベラリズムの公私区分に対する、フェミニズム、共同体論、共和主義、討議民主主義、ラディカル・デモクラシーなど、左右両派からの批判をふまえ、公私区分の再構成を試みた。具体的には、公私区分は公私の相互関連性を看過している、人格の分裂を強いる、ア・プリオリの私的領域は人民主権を侵奪するとの批判をふまえ、人民主権の制度化にとって公私区分が不可欠であることを明らかにするとともに、とりわけドゥオーキンの法・政治道徳理論をてがかりとして、人格の統合に配慮しつつ、公私の境界線を漸進的に変動させる公私区分論を提示した。さらに公私の相互関連性にかんがみ、「領域」の公私区分とともに、井上達夫が提唱する「理由」の公私区分を、憲法学においても導入する必要性を主張した。また実践に関しては、理論的研究成果をふまえ、私的領域の中核に位置する自己決定権について、アメリカの議論を中心にドイツの議論も参照しながら、自己の基底的信念にもとづく最終的判断権を留保して人格の統合を確保することが、自己決定権保障の趣旨であることを明らかにし、日本国憲法の解釈論に示唆を与えた。さらに、このような意味で決定的に重要な自己決定権の貫徹を阻止しうる存在として、家族という憲法上の法制度保障について考察し、両者の緊張関係を指摘しつつ、人格の根源的平等性を尊重すべきことを論じた。