著者
綾部 園子 阿部 芳子 市川 朝子 下村 道子
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.163-168, 2011-04-05

4種類の麺試料,『水麺』(小麦粉と塩水),『かん水麺』(小麦粉とかん水),『卵麺』(小麦粉と卵水)と『卵かん水麺』(小麦粉,卵水とかん水)の糊化特性を,β-アミラーゼ-プルラナーゼ法(BAP法)と全反射型赤外線吸収スベクトル分析法(FT-IR/ATR法)で測定した。FT-IRスベクトルの1,025cm^<-1>付近のピークの高さは,糊化小麦粉の比率が増すにつれて顕著に増加した。この波数の吸収度は,澱粉の糊化によって水和したOH基の増加を反映する。FT-IR法とBAP法の糊化度の間に高い相関関係があったが,BAP法による値はFT-IR法によりもわずかに高い値であった。これは,残留タンパク質の量と測定方法の違いによると考えられた。1日保存後では,FT-IR法とBAP法,破断応力,破断エネルギーと有意な相関関係があった。これは,麺の水分が内部に移行して,硬さが均一化していることが影響すると考えられた。
著者
清原 玲子 山口 進 潮 秀樹 下村 道子 市川 朝子
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.294-299, 2009-10-20
被引用文献数
1

我々は揚げ物,炒め物に独特のコク,うま味の一因として,加熱調理に伴って生成する油脂酸化物の影響を考えた。そこで本研究では油脂酸化物の味への影響を調べるため,主にヒトでの官能評価によって以下のことを明らかにした。リノール酸,リノレン酸,ドコサヘキサエン酸,エイコサペンタエン酸,アラキドン酸(AA)の5種類の脂肪酸を35℃24時間酸化させ水で抽出し,それぞれ醤油希釈水に添加したところ,添加無しに比べて有意に醤油の味が強まった。なかでも酸化AA水抽出物の添加作用が最も強いことが示された。AAを数%添加した植物油で調整したコロッケ,炒飯,野菜スープは有意にうま味,コク味,後味などが強まり,嗜好性も高まる傾向がみられた。以上より,油脂酸化物が食品の味を強める作用を持つこと,また植物油にアラキドン酸を添加することで,油脂調理食品のおいしさを向上できることが示唆された。
著者
市川 朝子
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

小麦粉濃度15〜20%でつくられるクレープやお好み焼きなどは、調理過程でグルテン形成を抑制する副材料が多量に加えられる。このような状態下でのグルテンの形成機構に閧する研究は未だに明らかにされていない。そこで本研究はまず、小麦粉に砂糖、鶏卵、牛乳、バター及び少量の食塩を加えてつくるクレープ生地を対象として、各々の材料と調製方法が仕上がり性状の及ぼす影響について検討した。その結果、調製時に良く攪拌し生地を均質にすることはクレープを軟らかく、引っ張りによるのびを良くし、しかも'ねかす'操作を省くことを可能とした。また、加えたバターはクレープの硬さや伸びに関与し、更に生地中に形成されたグルテンがバターによる、油っこさ'をマスクし、生地の硬さを軟らかくしかも伸びやすくすると推察した。次に加水量を小麦粉の0.5〜5倍量に変化させ生地中に形成されるグルテン量を比較した。加水量が増えると共にグルテン量は減少し、3倍以上になると激減したが、5倍量でもグルテンは形成されていた。また、材料として牛乳、バター、砂糖を用いると形成されるグルテン量は減少した。次に、加水量の異なる生地から得られる、'グルテン'の構造、すなわち単位分子量の大小について検討した。抽出したグルテンを0.5%SDS-2メルカプトエタノールに溶解した液を20万分子量分画フィルターでろ過し、高速液体クロマトグラフィーによるペプチド分析を行った。その結果、各々の生地から単位分子量の異なるペプチドが4〜6種類検出された。この組成比はアミノ酸1単位前後の分子量の小さなものが30〜50%を占めた。割合は加水量の多い(3〜5倍)生地の方が、加水量が少ない(0.5〜2倍)生地に比べ多かった。加水量1〜2倍からの組成にはアミノ酸230単位前後の高分子ペプチドが十数%含まれていた。以上の結果から、加水量の違いは、グルテン形成機構に質及び量いずれにも影響を及ぼすことが示された。