著者
市川 玲子 望月 聡
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.80-90, 2014-12-20 (Released:2015-01-07)
参考文献数
44
被引用文献数
4 1

これまでに,幅広い類型のパーソナリティ障害(PD)が自尊感情の低さと関連することが示されている。本研究では,PDと3つの様態の自尊感情(特性自尊感情,状態自尊感情によって測定される自尊感情の変動性,および自尊感情の随伴性)との関連を検討した。大学生・大学院生66名に対し,質問紙への回答と携帯電話を用いた継続調査への回答を求めた。対象者は,質問紙ではPD特性,特性自尊感情,随伴性自尊感情に関する項目に回答し,継続調査では状態自尊感情の項目に7日間回答した。結果から,特性自尊感情と境界性・依存性・回避性PD特性との負の関連,演技性PD特性との正の関連が示された。また,境界性PD特性は自尊感情の変動性との正の関連を示した。本研究の結果から,特性自尊感情は幅広い類型のPD特性と関連する一方で,自尊感情の変動性は境界性PD特性と特に関連するものであることが示唆された。
著者
市川 玲子 望月 聡
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.131-145, 2013-11-30 (Released:2013-12-04)
参考文献数
27
被引用文献数
7

DSM-IVにおける複数のパーソナリティ障害(PD)の合併診断の頻度の高さが問題視されている。本研究では,依存性をその診断基準の一部に含み,複数の先行研究でオーバーラップが示唆されている境界性・依存性・回避性PD傾向間の共通点および相違点を数量的に検討した。調査対象者は,大学生・大学院生216名であった。PD傾向の測定には,日本語版SCID-II(高橋・大曾根訳,2002)および中澤(2004a)の大学生用PD傾向尺度(10PesT)における境界性・依存性・回避性PDに関する項目を用いた。結果から,これらのPD傾向は,自分の判断や考えに自信がなく,他者の目を気にするがあまりに自己開示を抑制する点でオーバーラップしていることが示された。また,境界性・依存性PD傾向のそれぞれに特有の特徴も明らかにされたが,回避性PD傾向特有の特徴は本研究からは明らかにされなかった。これらの結果から,境界性・依存性・回避性PD傾向の背景にある特性および潜在因子の特徴について考察を行った。
著者
市川 玲子 村上 達也
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.112-122, 2016-11-01 (Released:2016-09-13)
参考文献数
35
被引用文献数
2 3

パーソナリティ障害(PD)は対人関係機能の障害によって特徴づけられ,その根底にアタッチメント・スタイルの影響が指摘されてきた。先行研究において,境界性・自己愛性・演技性・依存性・回避性PDと不適応的なアタッチメント・スタイルとの関連や,これらの精神的健康への影響について明らかにされているが,媒介プロセスについては検討されていない。そこで本研究は,不安定的なアタッチメント・スタイルが,これと関連するPDを媒介して精神的健康に及ぼす影響について検討することを目的とした。調査対象者は298名の大学生であり,各PD傾向,2次元から構成されるアタッチメント・スタイル,抑うつに関する項目に回答した。共分散構造分析と媒介分析の結果,境界性・回避性PD傾向が2種のアタッチメント・スタイルと抑うつの間を媒介することと,演技性PD傾向は見捨てられ不安と抑うつの間を媒介して抑うつの低さに寄与することが示された。
著者
市川 玲子 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.228-240, 2016 (Released:2016-08-08)
参考文献数
39
被引用文献数
3

自己愛傾向と対人恐怖心性は, 自己愛性パーソナリティ障害の下位概念との近似性があり, 共通して恥の感じやすさとの関連が考えられる。本研究は, 特に恥が喚起されやすい他者の面前での失敗場面において, 自己愛傾向と対人恐怖心性の高低による5類型間の, 自己呈示欲求(賞賛獲得欲求, 拒否回避欲求)が失敗経験後に生じる感情(恥, 敵意, 抑うつ)に及ぼす影響の差異を明らかにすることを目的とした。大学生を対象とした質問紙調査を実施したところ, 368名が分析対象者となった。分析の結果, 失敗場面は2因子に分類され, “自分の失敗場面”と“他者からの指摘・叱責場面”が抽出された。そして, “他者からの指摘・叱責場面”では, いずれの類型においても失敗経験後の恥が抑うつに寄与するが, 自己愛傾向のみが高い誇大型と, 対人恐怖心性のみが高い過敏型において特に拒否回避欲求が恥に強く影響していることが示された。これらの結果から, 自己愛傾向か対人恐怖心性のいずれかが高い類型では特に, 他者の面前での失敗経験後の恥は評価過敏性の影響を強く受けており, 失敗を自己全体に帰属することで自己評価が著しく傷つけられ, その結果として抑うつが強く喚起されることが示唆された。
著者
市川 玲子 村上 達也
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.112-122, 2016
被引用文献数
3

<p>パーソナリティ障害(PD)は対人関係機能の障害によって特徴づけられ,その根底にアタッチメント・スタイルの影響が指摘されてきた。先行研究において,境界性・自己愛性・演技性・依存性・回避性PDと不適応的なアタッチメント・スタイルとの関連や,これらの精神的健康への影響について明らかにされているが,媒介プロセスについては検討されていない。そこで本研究は,不安定的なアタッチメント・スタイルが,これと関連するPDを媒介して精神的健康に及ぼす影響について検討することを目的とした。調査対象者は298名の大学生であり,各PD傾向,2次元から構成されるアタッチメント・スタイル,抑うつに関する項目に回答した。共分散構造分析と媒介分析の結果,境界性・回避性PD傾向が2種のアタッチメント・スタイルと抑うつの間を媒介することと,演技性PD傾向は見捨てられ不安と抑うつの間を媒介して抑うつの低さに寄与することが示された。</p>
著者
市川 玲子 望月 聡
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.86, no.5, pp.434-444, 2015 (Released:2015-12-25)
参考文献数
56
被引用文献数
2 3

Personality disorders (PDs) are considered mental disorders due to a pathology of self (Lynum et al., 2008). In order to capture the multi-levels of self-concept, we investigated both explicit and implicit self-esteem. This study aimed to understand the relationships among borderline, narcissistic, and avoidant PDs and the discrepancy between explicit and implicit self-esteem. Eighty-five undergraduates and graduates completed a questionnaire and self-esteem implicit association test measuring implicit self-esteem. The questionnaire included items about PDs and explicit self-esteem. The results of hierarchical multiple regression analyses indicated that borderline and avoidant PDs could be explained by a large discrepancy between two levels of self-esteem when implicit self-esteem is relatively higher than explicit self-esteem. On the other hand, narcissistic PD was not related to each level of self-esteem individually or the discrepancy between these self-esteems. These results suggest that borderline and avoidant PDs are related to discrepancies among multi self-concepts, but narcissistic PD cannot be explained by discrepancies in self-esteem.
著者
市川 玲子 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.228-240, 2016
被引用文献数
3

自己愛傾向と対人恐怖心性は, 自己愛性パーソナリティ障害の下位概念との近似性があり, 共通して恥の感じやすさとの関連が考えられる。本研究は, 特に恥が喚起されやすい他者の面前での失敗場面において, 自己愛傾向と対人恐怖心性の高低による5類型間の, 自己呈示欲求(賞賛獲得欲求, 拒否回避欲求)が失敗経験後に生じる感情(恥, 敵意, 抑うつ)に及ぼす影響の差異を明らかにすることを目的とした。大学生を対象とした質問紙調査を実施したところ, 368名が分析対象者となった。分析の結果, 失敗場面は2因子に分類され, "自分の失敗場面"と"他者からの指摘・叱責場面"が抽出された。そして, "他者からの指摘・叱責場面"では, いずれの類型においても失敗経験後の恥が抑うつに寄与するが, 自己愛傾向のみが高い誇大型と, 対人恐怖心性のみが高い過敏型において特に拒否回避欲求が恥に強く影響していることが示された。これらの結果から, 自己愛傾向か対人恐怖心性のいずれかが高い類型では特に, 他者の面前での失敗経験後の恥は評価過敏性の影響を強く受けており, 失敗を自己全体に帰属することで自己評価が著しく傷つけられ, その結果として抑うつが強く喚起されることが示唆された。
著者
市川 玲子 望月 聡
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.86, no.5, pp.631_1-631_1, 2015-12-25 (Released:2016-02-06)

心理学研究第86巻第5号掲載の市川 玲子,望月 聡著,“パーソナリティ障害と顕在的-潜在的自尊感情間の乖離との関連”論文につきまして,p440のFigure 2,Figure 3に印刷の段階で誤りがございました。お詫びし,訂正させていただきます。
著者
市川 玲子 外山 美樹 望月 聡
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.142-155, 2015-03-31 (Released:2015-04-04)
参考文献数
35

本研究の目的は,境界性・自己愛性・演技性・依存性・回避性パーソナリティ障害特性(PD特性)における自己認知,被拒絶感および他者からの評価に対する欲求間の関連性について検討することであった。質問紙調査を行い,大学生362名を分析対象者とした。仮説を基に共分散構造分析を行った結果,被受容感がPD特性と自己認知との間を部分的に媒介しており,自己認知もPD特性と被受容感・被拒絶感との間を部分的に媒介していた。一方で,被受容感の低さはPD特性と他者からネガティブに評価されたいという欲求との関連を媒介していることが示された。これらの結果から,被受容感の低さがPDにおける不適応的な対人相互作用に強く関連していることが示唆された。
著者
市川 玲子 望月 聡
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.96-100, 2014-12-20 (Released:2015-01-07)
参考文献数
13

Personality disorders (PD) include biases of cognition about the self or others in the general diagnostic criteria. Although the relationships between PDs and self-esteem have been clarified, the relationships of PD traits and evaluation affect about others have not been studied. This study examined relationships of PD traits and assumed competence in 304 undergraduates and graduate students. The results showed that individuals with the assumed type of competence had higher scores for borderline and obsessive-compulsive PD traits than other PD traits. The results suggest that maladaptive personality traits involve not only negative self-cognitions but also negative cognitions about others.