著者
伊藤 輝代 秋野 恵美 平松 啓一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.130-135, 1997-02-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
11
被引用文献数
25 26

腸管出血性大腸菌O157感染症患者に投与する最も適切な抗菌剤を検討するため, MIC及び抗菌剤存在下でのベロ毒素の放出を測定した. 供試薬剤として経口剤ABPC, CCL, CFDN, FOM, NFLX, NA, KM, MINO, DOXY, TCを用いた. 11株中2株が, ABPC, TC耐性であったほかは, いずれの薬剤にも感受性を示し, MIC値の上では, 殆どすべての薬剤が有効であった. 薬剤存在下でのベロ毒素の放出を測定した所, 薬剤の添加により毒素の著しい放出をもたらすグループ (ABPC, CCL, CFDN, FOM, NFLX, NA) と, 殆ど無添加の場合と変わらないグループ (KM, MINO, DOXY, TC) に大別された. 細胞壁合成阻害剤 (ABPC, CCL, CFDN, FOM) の場合は殺菌に伴ってVT1, VT2ともに菌体より放出された. キノロン系薬剤 (NFLX及びNA) の場合は, VT2のみ菌体より放出された. これに対して蛋白合成阻害剤 (KM, MINO, DOXY, TC) の場合は, VT1は薬剤無添加の場合と同様に, 測定に用いた逆受身ラテックス凝集反応の検出限界以下であり, VT2も薬剤無添加の場合と同等, あるいはそれ以下であった. この結果は, 蛋白合成阻害剤を使用すれば, 腸管出血性大腸菌O157感染症に於て, 毒素を放出させることなく, 殺菌あるいは増殖を抑制することができることを示唆している
著者
伊藤 昭 崎村 雄一 森本 正一 網中 眞由美 堀 賢 平松 啓一
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.352-357, 2008-09-30 (Released:2014-11-12)
参考文献数
11

インフルエンザから地球規模で瞬時に拡大するような未知の感染症に至るまで, 感染症に対する病院での万全を期した備えの必要性はますます高くなっている. 特に外来領域は, 病院に対して外部からの感染因子が持ち込まれる入口であることから, 感染症疑い患者に対する迅速なトリアージによる振り分け, 感染制御に配慮した環境作りが求められる. ここでは, 順天堂医院の医師, 看護師を対象にアンケート調査を行い, 外来領域の使用実態, 建築空間の感じ方, 感染制御に対する考え方, 環境・設備機能の改善点を抽出した. 診察室や処置室において感染対策上で問題を感じていること, 外来初診患者の適切な振り分けによる待ち時間の短縮を図ること, 感染症患者専用の診察待合や隔離スペースが必要との回答が得られた. また, 国内・海外の従来事例の比較検討においては, ある程度の隔離スペースを保持するものの, 動線の区分や感染症発生時期以外に有効に運用されているかどうかなどについて不明瞭なケースも多いことが分かった. このような結果から, 感染制御に配慮した外来領域の計画や建設, 環境整備が必要と考えて, 感染制御に最適なトリアージモデルプランを提案する. 通常時から感染症発生時, さらに大流行時といったフェーズ毎にフレキシブルに運用可能な診察ユニットを配置し, 清潔・汚染区域や人・物の動線分離を明確に設定, 感染制御に適した建築・設備面の仕様を示す. 本トリアージプランを実践することは, 機能性, フレキシビリティー, 省スペースといったデザイン上のコンセプトをかたちにするのみでなく, 病院建築において常時, 効率的な運用を図るという観点からも重要であると考えられる.
著者
関根 美和 馬場 理 片山 由紀 平松 啓一
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.232-242, 2011-06-30 (Released:2014-11-11)
参考文献数
21

黄色ブドウ球菌の全ゲノム解読は, 同菌のほ乳類主要組織適合遺伝子複合体: Major histocompatibility complex (MHC) 様分子をコードする遺伝子を4つ見い出した. この遺伝子産物 (MHC1-4) はヒト免疫機構に何らかの影響を及ぼしているものと考えられ, MHC3 (extracellular adherence protein: Eap) についてはフィブロネクチンやフィブリノーゲン等血漿タンパクと黄色ブドウ球菌表面の接着に関与することや, 血管内皮細胞上に存在するInter-Cellular Adhesion Molecule-1 (ICAM-1) に結合し, 好中球の遊走を抑制することがよく知られているが, ほかのMHC様分子も含め, それらの生理的機能には不明な点が多い. 本研究ではMHC1-4の生理的機能を網羅的に追求すべく, 市中感染強毒型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (community-acquired MRSA: CA-MRSA) であるMW2株から, 4つのMHC様分子の遺伝子それぞれの単一-4重遺伝子欠損変異株を作成した. この変異株を用い, 野生株と対比してヒト血球細胞に対する応答性を調べ, さらにマウスに対する感染実験を行った. その結果, MHC1はリンパ球分化増殖および炎症性サイトカイン産生を促進し, また, MHC3はリンパ球分化増殖を抑制し, 樹状細胞上のHLAおよび補助刺激因子であるCD86の発現, およびINF-γ産生を抑制していることが明らかになった. また, 野生株と比較して, 1-4をすべて欠損した株は3倍以上貪食されやすく, ほかの単一欠損株に比べても2倍近く貪食をされやすかった. 一方で好中球による殺菌活性に差はみられなかった. これらの結果から, MHC様分子は貪食からの回避に関与するのに加え, 宿主の獲得免疫系の応答にも影響を与えていることが明らかとなった.
著者
須藤 哲長 寺井 洋子 三枝 早苗 椿下 早絵 佐々木 崇 平松 啓一
出版者
日本獣医皮膚科学会
雑誌
獣医臨床皮膚科 (ISSN:13476416)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.79-83, 2011 (Released:2011-10-07)
参考文献数
21
被引用文献数
1

小動物臨床の高度化にともない広域抗菌薬が広く用いられるになり,メチシリン耐性 Staphylococcus pseudintermedius(MRSP)が犬に世界的に蔓延している。小動物皮膚科領域においてもMRSPは臨床上深刻な問題となっている。本研究では,日本国内の健康な犬104頭のMRSPおよびメチシリン耐性S. aureus (MRSA)の保菌調査を行い,二次診療施設(大学付属施設)を受診した病犬102頭の保菌率と比較した。健康犬および二次診療受診犬の鼻腔内MRSP保菌率はそれぞれ4.8%,21.6%(p<0.001)であり,二次診療受診犬で有意に高かった。二次診療受診犬は当該施設受診までに相当の抗菌薬選択圧を受けていることが示唆された。健康犬のMRSP保菌率は海外の報告とほぼ同等な結果であった。一方,MRSA保菌率は,健康犬で0%,二次診療受診犬で1.96%と両者に有意差はなかった。どのような抗菌薬選択圧下でもMRSA保菌率が有意に上昇しないことから,犬はMRSAのレゼルボアにはならないことが示唆された。
著者
平松 啓一
出版者
日経サイエンス
雑誌
日経サイエンス (ISSN:0917009X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.12, pp.30-35, 2000-12

人類の感染症に対する戦いは,暗く長い歴史を刻んできた。20世紀初頭になって,ドイツの科学者エールリッヒ(Paul Ehrlich)の脳裏にひらめいた「選択毒性」という概念が,この戦いの歴史に新しい局面をもたらし,人類に初めて勝利の美酒を味あわせることになった。