著者
広瀬 浩二郎
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-24, 2002

大本教の出口王仁三郎は,日本の新宗教の源に位置する思想家である。彼の人類愛善主義を芸術・武道・農業・エスペラントなどへの取り組みを中心に,「文化史」の立場から分析するのが本稿の課題である。王仁三郎の主著『霊界物語』は従来の学問的な研究では注目されてこなかったが,その中から現代社会にも通用する「脱近代」性,宗教の枠を超えた人間解放論の意義を明らかにしたい。併せて,大本教弾圧の意味や新宗教運動と近代日本史の関係についても多角的に考える。
著者
広瀬 浩二郎
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.379-398, 2005

本論文においては「介護」を障害者と健常者の関係と定義し、「介護の人類学」構築の可能性を探る。具体的には戦後60年間の視覚障害者と日本社会の関わりに注目し、「介護」概念の変遷を追う。「平家物語」の創造、伝播に象徴されるように、日本の宗教・芸能史のなかで盲人たちは大きな役割を果たしてきた。江戸時代以後、彼らは主に按摩・鍼・灸、あるいは筝曲を生業とした。近代の盲教育にあっても、中世の当道(琵琶法師の座)以来の伝統的職業を死守していくことが最大の目標とされた。「決められた道」を持つことが他の障害者には見られない視覚障害者の特徴であり、その「決められた道」からの脱却が第二次大戦後の盲青年たちの"見果てぬ夢"となった。"見果てぬ夢"は視覚障害者の高等(大学)教育への進出という形で発現した。本論文では、1950〜60年代を「大学の門戸開放」期、70〜80年代を「入学後の学習環境の整備」期、90年代以降を「卒業後の就労支援」期と位置付け、各時期の「介護」状況を示す団体として「日本盲人福祉研究会(文月会)」「関西SL(スチューデント・ライブラリー)」「視覚障害者文化を育てる会(4しょく会)」の活動を取り上げる。障害者=「特殊」、健常者=「普通」という図式は、少数者を差別、排除する近代化過程の必然の帰結だった。視覚障害者は「奮闘」「懇願」することから"見果てぬ夢"の実現をめざし、彼らの社会参加を求める運動は晴眼者の「同情」により受け入れられていった。70年代以後には「権利」を主張する障害者とそれを「支援」する健常者により、「特殊」を「普通」に変換する「バリアフリー」が進展した。本論文では「バリアフリー」の次なる課題、21世紀の「介護」を創出する新しい概念として「フリーバリア」を提唱したい。