著者
廿日出 里美
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.65-86, 2011-06-10

保育サービスの多様化が進み,保育実践にかかわる組織やそこで働く人々が相互に知を創造していく資質や能力を理解し,それを支援することが求められている。この研究の目的は,そうした実践知の刷新が何によって引き起こされるか,子どもが対象となるサービスの職業人に求められる知の再構成を保育者養成という現場の日常から明らかにすることである。本稿では,まず,制度に媒介された保育者養成,保育をめぐる市場とイデオロギー,学校教育および職場活動のなかでの保育者養成の内的矛盾について述べた後,保育と演劇という異職種間の提携によって編み直された学習活動の軌跡を振り返り,実践知の創造を支援する道具となる(1)知の体系,(2)相互作用としての質問,(3)状況の変化,(4)「その場」に即応する現場力,(5)学ばれたことと未解決の課題を具体的に例証する。さらに,公共ホールがアーティストを学校に派遣するアウトリーチと保育者養成の授業科目のなかに芸術における学習活動を位置づける立場の違いについて考察する。三年計画で実施された保育者養成校での演劇ワークショップは,保育の仕事で求められる実践課題の対象や動機と重ね合わさり,参加者の身体をとおして背後にある理論が実感されている。「学習活動の動機は,現実への理論関与である」とエンゲストローム(Engestrom)が指摘するように,「芸術における学習」は,知の循環を引き起こすひとつの契機になる。
著者
森 楙 七木田 敦 青井 倫子 廿日出 里美
出版者
広島大学
雑誌
広島大学教育学部紀要. 第一部, 教育学 (ISSN:09198660)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.181-186, 1992-03-27

本研究の目的は, 行事場面における保育者の行動特性を組織的観察法を用いて明らかにすることにあった。結果から, 次の3点が明らかとなった。(1)自由遊び場面に比較して, 行事場面では保育者の働きかけは「支配的」になりやすく, 幼児の「依存的」な反応も多くなる。(2)保育形態として設定保育を取り入れている園は, 自由保育を取り入れている園よりも行事場面ではより「支配的」になりやすい。(3)行事場面にも, 幼児の創意工夫が生かされるような保育者の配慮があれば幼児の自立性が出てくるので, 行事の内容及び進め方を工夫する必要がある。行事の教育的意義を保育に生かすために, 親との提携は必要不可欠である。そのため親の行事に対する考え方を明らかにすることは, 従来の幼稚園・保育所主導の行事を再考するうえで有効であると考えられる。今後, この点を実証的に検討していく予定である。The purpose of this study was to analyze the mutual interactions between teachers and children in annual events activities of nursery school (y#ochien) comparing with play activities.A systematic observation method was adopted in this research. The authors especially devised two kinds of observation categories to check (1) active behaviors of a teacher on young children, (2) responsive behaviors of the teacher to their active behaviors. Annual events, including with "the short trip", "Onigiri (rice ball) party", "Mochitsuki (rice-cake making)", "Yakiimo (baked sweet potatoes)", and "presentation of singing songs, dancing, and operetta. etc.", were conducted to observe the behaviors of the teacher and children.The following are the main results;1. Compared with play activities, the teacher's behaviors were inclined to directive in events activities. In some events activities that had less strict in schedule, the teachers behaviors were inclined to supportive.2. Supportive behaviors of teacher, such as praise, suggestion, approval, etc, fostered the independent, supportive behaviors and active interactions among children in events activities.3. Some modifications of the content of events activities, such as less restricted environment and more freedom in schedule, will draw out and develop children's independent and spontaneous behaviors.
著者
廿日出 里美 Satomi Hatsukade
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.50, pp.141-148, 2022-02-28

本研究の目的は、来るべきAI時代に備えてAIとは異なる生身の人間の「感覚力」に着目し、人とかかわる職に就く人々に向けた研修プログラムを開発することにある。これまでの研究においては、人称の身体感覚を手がかりに、パフォーミング・アーツのワークショップにおける長期的フィールドワークを通して、対人関係専門職に就く人々を想定した感覚力の拡張を目指すプログラムの開発及び検討を行った。本論では、人称の身体感覚を拡張するワークのなかでも、①自己の境界と溶解の身体感覚、②認識主体と認識対象との一体化、③自己や周囲との対話的なやりとりに着目し、対人援助職の専門家の養成や研修で重視すべき身体感覚について、関連する研究の動向や過去に行った実践的な取り組みに照らし、考察する。
著者
廿日出 里美 Satomi Hatsukade
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.49, pp.125-136, 2021-02-28

本研究の目的は、来るべきAI化時代に備えてAIとは異なる生身の人間の「感覚力」に着目し、人とかかわる職に就く人々に向けた研修プログラムを開発することにある。大量の情報を瞬時に処理することに長けたAIは将来、職場でどのように活用され、人々の関係性にどのような変化をもたらすか、現時点での将来像を予測しておく必要がある。昼寝などの睡眠時の乳幼児の安全・見守りや送り迎え時の保護者対応、絵本の読みかたり等の業務にAIが登用された場合、そこで働く専門職の意味合いや養成、ならびに、研修内容にも大きな影響を及ぼすと考えられる。経済中心の原理や従来の仮説検証型の自然科学的方法とは異なる未来像を描く方途として、本論では人称の身体感覚を手がかりに、パフォーミング・アーツのワークショップにおける長期的フィールドワークを通して、対人関係専門職に就く人々を想定した感覚力の拡張を目指すプログラムの検討を試みる。