著者
丹生 健一 志水 賢一郎 大津 雅秀 石田 春彦 菅澤 正 石橋 敏夫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

目的:甲状腺疾患は食生活や人種により発生頻度や病態が異なることは良く知られているにも関わらず、日本人のret/PTC遺伝子発現に関する報告は、これまでのところ、ほとんどない。本研究では、日本人の各種甲状腺疾患におけるret/PTCの有無を調べ、病理組織・臨床的事項との相関を検討し、本邦の甲状腺疾患におけるret/PTCの意義を研究した。対象と方法:東京大学附属病院耳鼻咽喉科および神戸大学附属病院耳鼻咽喉科において治療が行われた日本人の各種甲状腺疾患の手術標本を用いて免疫組織染色手法によりret/PTC遺伝子の有無およびp53遺伝子の過剰発現を調べ、得られた結果を、病理組織像ならびに臨床的事項と比較検討した。結果:対象となった症例は濾胞腺腫19例、濾胞腺癌2例、分化型乳頭癌40例、低分化型乳頭癌6例・未分化癌4例、髄様癌2例であった。Ret/PTC遺伝子は、分化型乳頭癌40例中14例に認められたが、他の組織型には全く認められなかった。一方、p53遺伝子の過剰発現は、分化型乳頭癌の中では1例にしか認められなかったが、低分化型乳頭癌6例中2例、未分化癌4例中4例に認められた。臨床的事項との関係を検討したところ、ret/PTC遺伝子は40歳以上34例中12例に認められたが、40歳未満の6例には一例も認められなかった。病期分類との関係では、T分類、N分類、いずれとも相関は認められなかった。一方、慢性甲状腺炎を合併した症例では9例中4例(44%)、慢性甲状腺炎を合併しなかった症例では31例中8例(26%)にret/PTC遺伝子が認められた。考察:ret/PTC遺伝子は日本人の甲状腺乳頭癌においても35%に認められた。低分化型や未分化型には全く認められないことから、分化度の低い乳頭癌では発生機序が異なると考えられた。
著者
柴 裕子 志水 賢一郎 藤田 彰
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.124, no.10, pp.1392-1397, 2021-10-20 (Released:2021-11-01)
参考文献数
9

地域の耳鼻咽喉科診療所は, 在宅療養中の嚥下障害患者の診療を受け持っている. 耳鼻咽喉科医がその嚥下障害診療を継続していくには, 言語聴覚士等専門職による嚥下障害のリハビリテーション (嚥下リハビリ) が必要となる. 一般に在宅での嚥下リハビリには介護保険を活用するが, 介護保険要介護認定を受けていない, あるいは要介護認定を受けていても給付枠が十分でないため, 嚥下リハビリを付加することが困難な場合も少なくない. このような場合に筆者らは介護保険主治医意見書を作成し対応してきた. 介護保険主治医意見書を作成した8症例のうち要介護認定された7症例では, 嚥下リハビリのみならず生活援助や身体介護に介護保険を活用した. 課題としては, 主治医意見書を作成したものの期待した要介護度が得られない場合があること, 誤嚥性肺炎等の全身状態悪化や胃瘻造設の場合には入院や施設入所となることが多く, 診療所耳鼻咽喉科医のかかわりが難しくなることも分かった. 今後耳鼻咽喉科医による在宅嚥下障害診療を推進していくには, 自ら介護保険主治医意見書を作成し, 積極的に介護保険を活用していくことが重要と考えた.