著者
柴 裕子 志水 賢一郎 藤田 彰
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.124, no.10, pp.1392-1397, 2021-10-20 (Released:2021-11-01)
参考文献数
9

地域の耳鼻咽喉科診療所は, 在宅療養中の嚥下障害患者の診療を受け持っている. 耳鼻咽喉科医がその嚥下障害診療を継続していくには, 言語聴覚士等専門職による嚥下障害のリハビリテーション (嚥下リハビリ) が必要となる. 一般に在宅での嚥下リハビリには介護保険を活用するが, 介護保険要介護認定を受けていない, あるいは要介護認定を受けていても給付枠が十分でないため, 嚥下リハビリを付加することが困難な場合も少なくない. このような場合に筆者らは介護保険主治医意見書を作成し対応してきた. 介護保険主治医意見書を作成した8症例のうち要介護認定された7症例では, 嚥下リハビリのみならず生活援助や身体介護に介護保険を活用した. 課題としては, 主治医意見書を作成したものの期待した要介護度が得られない場合があること, 誤嚥性肺炎等の全身状態悪化や胃瘻造設の場合には入院や施設入所となることが多く, 診療所耳鼻咽喉科医のかかわりが難しくなることも分かった. 今後耳鼻咽喉科医による在宅嚥下障害診療を推進していくには, 自ら介護保険主治医意見書を作成し, 積極的に介護保険を活用していくことが重要と考えた.
著者
和田 祥枝 北詰 浩一 鈴木 隆之 藤田 彰 清水 誠一郎
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.284-289, 2013-03-30
参考文献数
15

65歳男性。健康診断で白血球増多を指摘されて受診,白血球,LDH, sIL-2Rの軽度上昇を認めた。画像検索では明らかな所見なく,骨髄検査では核小体不明瞭な小型の異型リンパ球を多数認め,T細胞系の表面マーカー陽性,染色体検査は正常核型であった。以上よりT細胞前リンパ球性白血病(T-PLL) small cell variantと診断,経過観察となった。白血球増多を指摘されてから約34か月後,頸部リンパ節の急激な増大と,白血球,LDH, sIL-2Rの急速な上昇を認め,入院となった。骨髄穿刺および頸部リンパ節生検では,これまで検出できなかったinv(14)(q11;q32)を含む複雑な染色体異常を示し,画像上全身のリンパ節腫大と肝脾腫を認めた。入院4日目に脾臓破裂を合併し,経カテーテル動脈塞栓療法を行うも救命できなかった。本症例は,緩慢な経過ののち急激な悪化時にT-PLLに特徴的とされる染色体異常を認めた。またT-PLLの剖検症例は貴重と考えられ報告する。
著者
藤田 彰典
出版者
京都文化短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

大黒屋杉浦は, 三郎兵衛を襲名し, 貞享年代(1684〜87)近江国高島郡から京都に出て呉服の仕入店を, 江戸には営業店をそれぞれ開店し, 江戸では「十組諸問屋」仲間に, 京都は「呉服店廿軒組」に所属するなど, 京都店・江戸店とも営業の発展をみて, 有数の呉服店(豪商)に成長していった.明治以降も, 呉服商大黒屋三郎兵衛店の営業は発展していくが, 大正12年(1923)には資本金20万円の株式会社杉浦商店を設立する. そして東京を本店に, 京都を出張所に変更したことから, 京都店は休業状態となって昭和31年(1956)に処分されたが, 東京店は大三株式会社の社名をもって今日に続いている.その大黒屋杉浦は, 4代の杉浦三郎兵衛利喬が, 石田梅岩の門に入って「心学」をきわめ, 石門心学を経営理念とした特色ある商家として注目される. 研究の成果としては, 1.大黒屋杉浦は江州の琵琶湖西岸を出身地とする武家に系譜を持つ近江商人であった. 2.杉浦家は代々子供に恵まれなかったことから, 分家による同族の拡大はみなかったものの, 同郷の坂江家一族との血縁的関係をもって同族団の成立をみた特徴がみられる. 3.そのためか, 店員のほとんどは江州高島郡の出身者でしめられ, 別家制度が充実をみていた. 4.ことに大正7年(1918)の店員規定は, 現代雇用制度の先駆的内容をうかがわせる. 5.それも, 大黒屋杉浦三郎兵衛店が, 江戸時代から石門心学を店の経営理念としてきたことによるものであって, 鴻池や小野組の豪商, 三井や住友などの財閥の経営とは趣を異にするものがある.以上, 大黒屋杉浦は, わが国商家経営の一つの特色を示しているが, 家憲及び石門心学の実践, 別家制度等については, 今後引続いて検討を深めていく必要がある.