著者
戸倉 清一 西 則雄 金子 元三
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1985

種々のキチン誘導体を合成し医用材料として使用するための基本的性質及び抗凝血性等の人為的コントロールについて研究した。種々の部分脱アセチル化キチンの中で70%脱アセチル化キチン(DACー70)が比較的長期間免疫アジュバント活性を示すのに対し陰イオン性の(80%置換)カルボシメチルキチン(CMーキチン)が短期間の免疫アジュバント活性を示したこの脱アセチル化キチンのアジュバント活性はカルボキシメチル化や、O,Nースルホン化等の化学修飾により消失させることが出来たことより生理活性の人為的コントロールの可能性が示唆された。CMーキチンのアジュバント活性も脱アセチル化やスルホン化で消失できた。DACとCMーキチンの免疫賦活能について研究の結果、脱アセチル化キチンはマクロファージ活性化後Tー細胞系を、CMーキチンはBー細胞系を活性化させる二つの経路が明らかになった。さらに、カルボキシメチルキチンは高い生体内消化性を示すのでハプテン特異性抗体産生について研究した。CMーキチンに医薬を結合させたフロイント完全アジュバントで乳化して皮下注射するとハプテン特異的抗体の産生が確認されバイオセンサー等への応用が考えられている。一方、フロイント完全アジュバント無しでは医薬徐放性担体として働き1回の標準的皮下注射で約120時間にわたり医薬の血中濃度を一定範囲内に維持できることを見出した。また、CMーキチン60を部分脱アセチル化(約10%)した後N,Oースルホン化し特にグルコサミン残基のCー3位もスルホン化するとヘパリン様活性も示すことを見出した。このヘパリノイド活性は天然へパリノイド活性の約1/3でネズミ静脈中への注射でも毒性を示さないことからキチンヘパリノイドとしての将来が期待できる。さらに、CMーキチンのカルシウム特異吸着能と3価の鉄イオンによるゲル化能についても医薬徐放性の面から研究を行っている。
著者
戸倉 清一 西 則雄 西村 紳一郎 ソモリン オイン
出版者
The Society of Fiber Science and Technology, Japan
雑誌
繊維学会誌 (ISSN:00379875)
巻号頁・発行日
vol.39, no.12, pp.T507-T511, 1983
被引用文献数
25

キチン及び化学修飾したキチン誘導体を繊維化し,それらのひっぱり糸質及びリゾチームに対する受容性を調べた。部分脱アセチル化キチンの繊維は特に湿強度の点で最もすぐれていた。一方,カルボキシルメチル(CM)基やジヒドロキシプロピル(DHP)基のような親水的なアルキル基を導入すると繊維強度は低下したが,リゾチーチの作用は受け易くなった。また, N-アセチルグルコサミン残基のC<sub>6</sub>水酸基を修飾する限り,かさ高いアルキル基を導入してもリゾチームの作用を受け易くなる事がわかった。顕微鏡による観察で,リゾチーム受容性の増大は繊維表面の親水性増加によりおこる事が明らかとなった。
著者
岡本 芳晴 南 三郎 松橋 晧 指輪 仁之 斎本 博之 重政 好弘 谷川 孝彦 田中 吉紀 戸倉 清一
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.739-742, 1993-10-15
被引用文献数
17

イカ甲キチンより精製したポリN-アセチル-D-グルコサミン(キチン)の犬における組織反応を観察するために, 1群にはポリエステル製不織布(NWF)にキチンを含浸させたもの(キチン群)を, 他群にはNWFのみ(対照群)を, 1頭あたり背部皮下4ヶ所に移植した. 移植後2, 4, 8, 18日目に移植片を採材し, 肉眼的ならびに組織学的検索を実施した. キチン群において移植したNWFは漸次器質化され, 18日目には完全に器質化された. またこの時, NWFへの明瞭な血管新生を認めた. 一方, 対照群においては器質化は不完全であり, NWFへの血管新生も認められなかった. 組織学的にはキチン群において移植後2日目に対照群に比較してNWF周囲に単核球および多形核白血球の集簇が顕著であった. またキチン群において移植後4日目にNWF周囲に血管に富んだ結合組織が観察された. しかしながら対照群では, このような所見はこの時期においてはみられなかった. 以上の成績より, キチンはNWFへの単核球および多形核白血球の遊走を高め, 血管新生を伴うNWFの器質化を促進させることがわかった.
著者
戸倉 清一 田村 裕 浦上 忠 宮田 隆志 木船 紘爾 前田 睦浩
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

これまでLi DMAc、蟻酸、これらより穏和な溶媒系(塩化カルシウム二水和物飽和メタノール)を見つけた。さらに、この溶媒系がキチンの脱アセチル化誘導体キトサン酢酸塩紡糸に際して凝固液になることも見つけたので溶解の機構についてカルシウム以外の他のイオンについても検討した。キチンの溶解挙動をさらに詳細に検討したところ、カルシウム、メタノール、水の組成がキチン溶解に大きく影響していることが判った。キチン溶液が延糸性を示すことから、メタノールとアセトンの混合溶液でを凝固浴としてキチン繊維の紡糸を行った。α-キチンの場合、0.1mm径の30穴ノズルを用い、新たに考案したV字型凝固浴に押し出し回転ローラーで巻き取った。繊維にはカルシウムが残存しているので、メタノール中で充分洗浄して脱カルシウム操作を行った後、風乾して直径約40μmのα-キチン繊維を得た。β-キチンの塩化カルシウム2水和物飽和メタノール溶液はα-キチン溶液よりも遙かに粘度が高いため、シングルノズルを用いさらにエアギャップを設けることで繊維化が可能であった。塩化カルシウム2水和物飽和メタノール溶液に溶解させたキチン溶液に水を加えた際に析出した物質は含水率が約96%と高度に膨潤したヒドロゲル状であった。また、キチン溶液にメタノールを加えることでもゲル状物質が得られた。しかしこの場合、ゲルを得るには水の場合よりも多くのメタノールを必要とし、さらに透析によるカルシウム除去に長期間かかることより、メタノール媒体中でキチンの溶解状態が異なることが示唆された。さらにキチンヒドロゲルからは容易にフィルムを調製することができた。これはバインダーを含まないキチン100%から成るフィルムであり、生体適合性、生体消化性に優れていることからバイオマテリアルとして有望であると考えられる。