著者
松本 和也 宮田 隆志
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.125-142, 2014-04-25 (Released:2014-04-25)
参考文献数
91

刺激応答性ゲルは,温度やpHなどの外部環境変化に応答して体積変化を示すことから医療分野や環境分野に利用できるスマートマテリアルとして注目を集めている.最近では,疾病などのシグナルとなる生体分子を認識して体積変化する刺激応答性ゲル(生体分子応答性ゲル)も報告されるようになり,ドラッグデリバリーシステムや診断システムなどを構築するためのスマートバイオマテリアルとしての利用が期待されている.このような生体分子応答性ゲルを創製するためには,標的生体分子に対する分子認識とそれによってネットワーク構造変化する応答機能とを連携させなければならない.そこで,これまでは生体分子認識による高分子網目の親水性・疎水性の変化や荷電状態の変化に基づいて生体分子応答性を示すゲルが報告されてきた.最近では,可逆的に結合解離する分子複合体をゲル内の動的架橋点として導入することにより生体分子応答性ゲルが合成されており,タンパク質や糖類をはじめとしたさまざまな標的生体分子に応答するゲルの設計が試みられている.本報では,抗体の抗原認識能などの生体分子機能を利用することによりデザインされた生体分子応答性ゲルについて,国内外の関連研究とともに筆者らの研究を概説する.
著者
戸倉 清一 田村 裕 浦上 忠 宮田 隆志 木船 紘爾 前田 睦浩
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

これまでLi DMAc、蟻酸、これらより穏和な溶媒系(塩化カルシウム二水和物飽和メタノール)を見つけた。さらに、この溶媒系がキチンの脱アセチル化誘導体キトサン酢酸塩紡糸に際して凝固液になることも見つけたので溶解の機構についてカルシウム以外の他のイオンについても検討した。キチンの溶解挙動をさらに詳細に検討したところ、カルシウム、メタノール、水の組成がキチン溶解に大きく影響していることが判った。キチン溶液が延糸性を示すことから、メタノールとアセトンの混合溶液でを凝固浴としてキチン繊維の紡糸を行った。α-キチンの場合、0.1mm径の30穴ノズルを用い、新たに考案したV字型凝固浴に押し出し回転ローラーで巻き取った。繊維にはカルシウムが残存しているので、メタノール中で充分洗浄して脱カルシウム操作を行った後、風乾して直径約40μmのα-キチン繊維を得た。β-キチンの塩化カルシウム2水和物飽和メタノール溶液はα-キチン溶液よりも遙かに粘度が高いため、シングルノズルを用いさらにエアギャップを設けることで繊維化が可能であった。塩化カルシウム2水和物飽和メタノール溶液に溶解させたキチン溶液に水を加えた際に析出した物質は含水率が約96%と高度に膨潤したヒドロゲル状であった。また、キチン溶液にメタノールを加えることでもゲル状物質が得られた。しかしこの場合、ゲルを得るには水の場合よりも多くのメタノールを必要とし、さらに透析によるカルシウム除去に長期間かかることより、メタノール媒体中でキチンの溶解状態が異なることが示唆された。さらにキチンヒドロゲルからは容易にフィルムを調製することができた。これはバインダーを含まないキチン100%から成るフィルムであり、生体適合性、生体消化性に優れていることからバイオマテリアルとして有望であると考えられる。