著者
戸島 洋一 松田 俊之 河井 良智 服部 万里子
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.188-192, 2005-09-30 (Released:2010-07-21)
参考文献数
13

当院では抗菌薬適正使用推進のため2001年末に採用注射用抗菌薬を整理し, 第4世代セフェム薬を3剤から1剤に, カルバペネム薬を3剤から2剤に削減, ペニシリン薬とキノロン薬を追加した. その前後2年間ずつにおける注射用抗菌薬使用量と多剤耐性グラム陰性菌の検出数, 緑膿菌の耐性率を調べた. 注射用抗菌薬の使用数は整理前後の2年間ずつの平均で比べると約11%減少した. 第1世代セフェムの使用数は増加, 第3+4世代セフェムは16,810本/年から11,043本/年へと34%減少, カルバペネム約は27%減少した. 多剤耐性グラム陰性菌の検出数はB. cepaciaなどが減少傾向を示した. 緑膿菌のイミペネム耐性率は有意に減少したが, 多剤耐性緑膿菌検出数は減少しなかった. 削減されなかったメロペネム, セフォゾプランに対する緑膿菌の薬剤感受性は変化がなかった. 以上より, 採用抗菌薬の整理 (削減) は抗菌薬総使用数の減少をもたらし, 多剤耐性グラム陰性菌の検出数は増加せず, 残された薬剤の緑膿菌に対するMICは変化がなかったことより, 今回行った採用抗菌薬のコントロールは意義があったと考えられる.
著者
樫山 鉄矢 戸島 洋一 溝尾 朗 今橋 正令 安田 順一 藤田 明 渡辺 明 鈴木 光 木村 仁
出版者
The Japanese Respiratory Society
雑誌
日本胸部疾患学会雑誌 (ISSN:03011542)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.1175-1179, 1992-06-25 (Released:2010-02-23)
参考文献数
7

症例は84歳の女性. 背部痛で発症. 頚部のリンパ節腫大と, 胸部X線写真上両側肺野に多発する腫瘤様陰影を認めた. 経皮肺生検では壊死が強く, 特異的な所見が得られなかったが, 気管前のリンパ節生検にて diffuse large cell lymphoma と診断された. 脳梗塞による全身状態の悪化のため化学療法等の治療を行えなかったにもかかわらず, 左頚部のリンパ節および肺内の病変の大部分は自然に退縮した. 患者は後に, 汎発性腹膜炎のため死亡. 剖検では, 悪性リンパ腫の全身諸臓器への播種を認めた. 大部分の肺内の病変は瘢痕化していたが, 壊死組織の中に腫瘍細胞の残存が認められた. 小腸粘膜の腫瘍が壊死に陥り, 穿孔していた. 入院後の全経過は約6ヵ月であった. diffuse large cell lymphoma の自然退縮はまれであり, 若干の考察を加えて報告した.
著者
川村 ひとみ 坂本 拓也 斎藤 寿哉 諏訪 真知子 服部 万里子 熊澤 美紀子 遠藤 洋子 戸島 洋一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.210-213, 2019-05-25 (Released:2019-11-25)
参考文献数
4
被引用文献数
1

タゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)とバンコマイシン(VCM)の併用療法が他の広域抗菌薬とVCMの併用療法と比べ,急性腎障害(AKI)を引き起こすことが海外で報告されている.そこで,AKI発症リスクについてメロペネム(MEPM)との併用療法と比較検討した.AKI発症率はTAZ/PIPC+VCM32.0%,MEPM+VCM 7.9%と有意な差を認めた.多変量解析ではAKI発症のリスク因子としてTAZ/PIPC使用のみ有意な因子(オッズ比6.77,95%CI:1.43-32.09)となった.TAZ/PIPC+VCM併用療法ではVCMトラフ値に関わらず腎機能を注意深く監視する必要がある.
著者
高村 智恵 横江 絢子 穴澤 梨江 相澤 豊昭 河野 正和 酒井 俊彦 戸島 洋一
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学 (ISSN:02872137)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.219-222, 2015-03-25 (Released:2016-10-29)

背景.良性石綿胸水は職業性の比較的高濃度の石綿ばく露により生じる疾患と考えられているが,疫学的調査が十分ではなく,その実態については不明な点が多い.症例.76歳男性.職業性の石綿ばく露歴はないが,小児期よりかつて操業していた石綿工場近隣に居住しており,工場周辺でよく遊んでいた.健診で右胸水貯留を指摘され経過観察をしていたが,胸水の増加を認めたため入院となった.胸水は血性,滲出性でリンパ球優位であり,確定診断のため局所麻酔下胸腔鏡検査を施行した.胸腔鏡検査では壁側胸膜にプラークを認めたが,腫瘍を疑う所見はなく,発赤部の生検でも悪性細胞は検出されなかった.上記より良性石綿胸水と診断してフォローしているが, 2年以上経過した現在でも悪性腫瘍の出現はない.結論.近隣ばく露が原因と考えられる良性石綿胸水の1例を経験した.良性石綿胸水は比較的低濃度の石綿ばく露でも発症し得るため,原因不明の胸水の鑑別診断には当疾患も念頭に置き,職業歴のみならず,居住歴も聴取することが重要である.
著者
戸島 洋一 服部 万里子 坂本 拓也 松田 俊之 熊澤 美紀子 遠藤 洋子 山本 武史
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.161-166, 2011 (Released:2011-08-05)
参考文献数
8

アンチバイオグラム(抗菌薬感性率一覧表)は各施設や地域で分離される病原細菌の抗菌薬感受性を累積して示したレポートであり,感染症のエンピリック治療を開始する際の重要な情報源である.通常一定期間に院内で分離された菌はまとめて集計されるが,菌種によっては診療科や検体種類によって感受性に大きな違いが存在する可能性がある.今回われわれは,分離数が多く,耐性菌が治療上問題となりやすい緑膿菌について,診療科間,検体種類間,外来・入院間での13種類の抗菌薬の感性率の差について検討した.2009年に分離された緑膿菌株数(1人1株)は369株(外来患者から83株,入院患者から286株)で,30株以上検出された診療科は5科であった.5診療科間で抗菌薬の感性率に有意な差が認められた抗菌薬は3剤であったが,4つの検体種類間(呼吸器・泌尿器・消化器・膿浸出液)では13種類中11の抗菌薬で有意な差が認められた.呼吸器検体,膿浸出液検体の感性率が高く,泌尿器検体,便検体の感性率が低かった.外来・入院間ではすべての抗菌薬の感性率が入院由来株で低かった.尿路由来検体と呼吸器由来検体の緑膿菌の感性率の違いは大きいため,治療に当たる際は検体種類別に層別化されたアンチバイオグラムが有用であると考えられた.また診療科間の感性率の差は主に検体種類の差によるものであり,診療科別アンチバイオグラムの必要性は低いと考えられた.
著者
戸島 洋一 山崎 琢士 徳留 隆博
出版者
The Japanese Respiratory Society
雑誌
日本胸部疾患学会雑誌 (ISSN:03011542)
巻号頁・発行日
vol.34, no.8, pp.904-910, 1996-08-25 (Released:2010-02-23)
参考文献数
7

小柴胡湯による薬剤性肺炎の2例を報告した. 症例1はC型肝硬変の61歳男性で, 内服開始約50日後, 発熱, 下痢, 呼吸苦で発症, 来院時PaO2 26Torrと著明な低酸素血症を呈した. 画像は上肺野優位のびまん性粒状影, すりガラス影でステロイドパルス療法に反応せず, 人工呼吸も施行したが消化管出血を合併し, 入院45病日に死亡した. BALFではリンパ球および好中球比率が増加, 死亡時の肺組織は硝子膜形成を伴わない胞隔の肥厚, II型肺胞上皮細胞の腫大を示した. 症例2は68歳男性で, 内服開始約80日後に咳, 呼吸苦, 発熱で発症, PaO2 61Torr, 両下肺野に不規則な浸潤影を認めた. BALFではリンパ球 (CD8+) の増加, TBLBでは肺胞腔内へのフィブリン, 好中球の滲出 (一部は器質化) の所見を得た. ステロイドの反応は良好で約40日で軽快退院した. 両症例とも小柴胡湯に対する末梢血DLSTが陽性であった. 症例2は小柴胡湯による薬剤性肺炎として典型的であったが, 症例1のような劇症型は稀である.