著者
湯口 聡 森沢 知之 福田 真人 指方 梢 増田 幸泰 鈴木 あかね 合田 尚弘 佐々木 秀明 金子 純一朗 丸山 仁司 樋渡 正夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D0672, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】 開胸・開腹術後患者に対して呼吸合併症予防・早期離床を目的に、呼吸理学療法・運動療法が行われている。その中で、ベッド上で簡易に実施可能なシルベスター法を当院では用いている。シルベスター法は両手を組み、肩関節屈伸運動と深呼吸を行う方法で、上肢挙上で吸気、下降で呼気をすることで大きな換気量が得られるとされている。しかし、シルベスター法の換気量を定量的に報告したものはない。よって、本研究はシルベスター法の換気量を測定し、安静呼吸、深呼吸と比較・検討することである。【方法】 対象は呼吸器疾患の既往のない成人男性21名で、平均身長、体重、年齢はそれぞれ171.0±5.2cm、65.3±5.6kg、24.9±4.0歳である。被験者は、安静呼吸・シルベスター法・安静呼吸・深呼吸・安静呼吸または、安静呼吸・深呼吸・安静呼吸・シルベスター法・安静呼吸のどちらか一方をランダムに選択した(各呼吸時間3分、計15分)。測定姿位は全てベッド上背臥位とし、呼気ガス分析装置(COSMED社製K4b2)を用いて、安静呼吸・シルベスター法・深呼吸中の呼吸数、1回換気量を測定した。測定条件は、シルベスター法では両上肢挙上は被験者が限界を感じるところまでとし、どの呼吸においても呼吸数・呼吸様式(口・鼻呼吸)は被験者に任せた。統計的分析法は一元配置分散分析および多重比較検定(Tukey法)を用い、安静呼吸、シルベスター法、深呼吸の3分間の呼吸数、1回換気量の平均値を比較した。【結果】 呼吸数の平均は、安静呼吸13.02±3.08回、シルベスター法5.26±1.37回、深呼吸6.18±1.62回であった。1回換気量の平均は安静呼吸0.66±0.21L、シルベスター法3.07±0.83L、深呼吸2.28±0.8Lであった。呼吸数は、分散分析で主効果を認め(p<0.01)、多重比較検定にて安静呼吸・シルベスター法と安静呼吸・深呼吸との間に有意差(p<0.01)を認めたが、シルベスター法・深呼吸との間に有意差は認めなかった。1回換気量は、分散分析で主効果を認め(p<0.01)、多重比較検定にて安静呼吸・シルベスター法・深呼吸のいずれにも有意差を認めた(p<0.01)。【考察】 シルベスター法は深呼吸に比べ1回換気量が高値を示した。これは、上肢挙上に伴う体幹伸展・胸郭拡張がシルベスター法の方が深呼吸より大きくなり、1回換気量が増加したものと考えられる。開胸・開腹術後患者は、術創部の疼痛により呼吸に伴う胸郭拡張が制限されやすい。それにより、呼吸補助筋を利用して呼吸数を増加させ、非効率的な呼吸に陥りやすい。今回、健常者を対象に測定した結果、シルベスター法は胸郭拡張性を促し、1回換気量の増加が図れたことから、開胸・開腹術後患者に対して有効である可能性が示唆された。
著者
湯口 聡 丸山 仁司 樋渡 正夫 森沢 知之 福田 真人 指方 梢 増田 幸泰 鈴木 あかね 合田 尚弘 佐々木 秀明 金子 純一朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D0672, 2005

【目的】<BR> 開胸・開腹術後患者に対して呼吸合併症予防・早期離床を目的に、呼吸理学療法・運動療法が行われている。その中で、ベッド上で簡易に実施可能なシルベスター法を当院では用いている。シルベスター法は両手を組み、肩関節屈伸運動と深呼吸を行う方法で、上肢挙上で吸気、下降で呼気をすることで大きな換気量が得られるとされている。しかし、シルベスター法の換気量を定量的に報告したものはない。よって、本研究はシルベスター法の換気量を測定し、安静呼吸、深呼吸と比較・検討することである。<BR>【方法】<BR> 対象は呼吸器疾患の既往のない成人男性21名で、平均身長、体重、年齢はそれぞれ171.0±5.2cm、65.3±5.6kg、24.9±4.0歳である。被験者は、安静呼吸・シルベスター法・安静呼吸・深呼吸・安静呼吸または、安静呼吸・深呼吸・安静呼吸・シルベスター法・安静呼吸のどちらか一方をランダムに選択した(各呼吸時間3分、計15分)。測定姿位は全てベッド上背臥位とし、呼気ガス分析装置(COSMED社製K4b2)を用いて、安静呼吸・シルベスター法・深呼吸中の呼吸数、1回換気量を測定した。測定条件は、シルベスター法では両上肢挙上は被験者が限界を感じるところまでとし、どの呼吸においても呼吸数・呼吸様式(口・鼻呼吸)は被験者に任せた。統計的分析法は一元配置分散分析および多重比較検定(Tukey法)を用い、安静呼吸、シルベスター法、深呼吸の3分間の呼吸数、1回換気量の平均値を比較した。<BR>【結果】<BR> 呼吸数の平均は、安静呼吸13.02±3.08回、シルベスター法5.26±1.37回、深呼吸6.18±1.62回であった。1回換気量の平均は安静呼吸0.66±0.21L、シルベスター法3.07±0.83L、深呼吸2.28±0.8Lであった。呼吸数は、分散分析で主効果を認め(p<0.01)、多重比較検定にて安静呼吸・シルベスター法と安静呼吸・深呼吸との間に有意差(p<0.01)を認めたが、シルベスター法・深呼吸との間に有意差は認めなかった。1回換気量は、分散分析で主効果を認め(p<0.01)、多重比較検定にて安静呼吸・シルベスター法・深呼吸のいずれにも有意差を認めた(p<0.01)。<BR>【考察】<BR> シルベスター法は深呼吸に比べ1回換気量が高値を示した。これは、上肢挙上に伴う体幹伸展・胸郭拡張がシルベスター法の方が深呼吸より大きくなり、1回換気量が増加したものと考えられる。開胸・開腹術後患者は、術創部の疼痛により呼吸に伴う胸郭拡張が制限されやすい。それにより、呼吸補助筋を利用して呼吸数を増加させ、非効率的な呼吸に陥りやすい。今回、健常者を対象に測定した結果、シルベスター法は胸郭拡張性を促し、1回換気量の増加が図れたことから、開胸・開腹術後患者に対して有効である可能性が示唆された。
著者
高橋 利幸 大塚 雅恵 後藤 健太 天野 京絵 指方 梢
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101691, 2013

【はじめに】訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)において、利用者とその利用者を取り巻く環境を調整することは必要不可欠な役割である。しかし、環境調整は様々な要因によりセラピスト本意のアプローチができないことも多い。いかにその必要性を伝え、利用者に適切な調整を行えるかが重要である。本研究では、環境調整の中でも手すりの設置に焦点を置き、利用者の家屋にある手すりと転倒との影響を調査した。同時に、より有効な手すりの設置を提案できるように現在の設置状況から比較検討を行った。【方法】対象は平成23年4月から平成24年10月までの期間に訪問リハを提供している利用者41名である。内訳は男性18名、女性23名、平均年齢は84.1±22.0歳である。p条件は、「訪問リハ実施期間中に利用者の使用しているベッドからトイレまでの動線内で起きた転倒」として、動線内に設置された手すりとの関連をみた。動線内を車椅子移動している者とトイレ移動を行っていない者は除外した。 手すりの有効性に関して、手すり設置の有無と転倒の有無でカイ2乗検定を行った。統計解析にはSPSS Statistics19を用い、危険率5%未満を有意とした。手すりの設置状況の検討は、転倒の有無から転倒群14名、非転倒群27名に分類し、各調査項目との関連性をみた。調査項目は、動線内の手すり設置(以下手すり項目)、認知症高齢者の日常生活自立度に1以上で該当しているか(以下認知症項目)、移動に見守り以上の介助が必要か(以下介助項目)、動線内の段差(以下段差項目)、歩行補助具の使用(補助具項目)を挙げた。各調査項目(カテゴリー)をそれぞれあり、なしで名義尺度に変換し、数量化3類を用いて統計処理し、両群のカテゴリースコアの散布図を比較検討した。【説明と同意】対象者には研究趣旨を文章と口頭にて説明し、本人・身元保証人の署名にて同意を得た。なお、本研究は国際医療福祉大学の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】利用者の家屋にある手すりの有用性に関して、手すり設置の有無と転倒の有無では有意差を認めた(p<0.05)。続いて、数量化3類で得られたカテゴリースコアから手すり設置と各調査項目との関係性を散布図で示した。転倒群では、抽出された成分1(横軸)と成分2(縦軸)から散布図を作成し、累積寄与率は62.15%であった。非転倒群でも同様に散布図を作成し、累積寄与率は56.61%であった。【考察】各利用者の家屋にある手すりは、既に設置されていたものや家族が取り付けたもの、セラピストが環境調整を実施して取り付けたものなど経緯は様々だが、本研究において転倒予防に関与していたことが明らかになった。手すりの設置に関しては、取り付け位置が一般的に定量化され、専門業者を介さずとも個人に適した取り付けが容易にできるようになっている。そこで、個人因子や環境因子を考慮しながら環境調整を提案することが、セラピストの専門性として求められると考える。カテゴリースコア散布状況から、転倒群では手すり項目と補助具項目をグループ化した。ここから、手すりと歩行補助具を併用する際はその使い分けを明確化し、移動を単純化させることが重要であると推察された。非転倒群では、手すり・認知症・介助項目をグループ化した。これにより、介助方法とそれに関わる手すりの提案が適切に行われている傾向にあると推察された。一方で、非転倒群の散布図では手すり項目と補助具項目において横軸と縦軸を介して対照的な位置づけとなっている。両群を比較検討し、手すりの設置に関して歩行補助具との併用を最小限にし、移動動作をより単純化させることが重要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】訪問リハでは、在宅生活や社会参加まで多面的にかかわり、その能力を最大限に生かすために環境への配慮にも目を向けることが重要である。しかし、環境に対するアプローチは利用者とその周囲の意見に影響を受けやすいため、関わり方の工夫や、信頼関係を築き上げことも重要である。その上で、根拠に基づく妥当な指導や提案を提供し、訪問リハサービスの質の向上につなげていきたいと考えている。