著者
西野 惇志 前原 裕 橋本 洸哉 内田 泰三 早坂 大亮
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.596-605, 2019-05-31 (Released:2019-07-27)
参考文献数
60

在来植物のクズ(Pueraria lobata)による景観や防災機能,生態系への悪影響が深刻化している。そのため,特に緑化地においては,本種の完全防除が求められている。本研究では,切土法面を対象に,法面植生の保全や回復性に配慮したクズの根絶手法について3年間にわたり探索した。近畿大学農学部周辺に位置する,造成後30年以上が経過した切土法面に20個の調査方形区を設置し,5つの処理を施した(無処理,イマザピル注入,引き抜き,年2回刈り取り,および遮光(試験1年目のみ年1回刈り取り))。各処理のクズ根絶効果に加え,切土法面植生の組成に及ぼす影響も評価した。その結果,引き抜きと遮光処理でクズの根絶が確認された。引き抜き処理を行うと一時的(一年程度)に裸地化するが,時間とともに法面植生の被度・種数は増加し,各種の生活型特性も多様化した。他方,遮光処理では期間を通じて法面植生は回復しなかった。その他の処理はクズの密度抑制には一定の効果を示すものの,根絶には至らなかった。以上のことから,本研究で選定された処理のうち,クズの根絶と法面植生の回復性の両面に貢献できる効果的な方法は,引き抜き処理である可能性が示唆された。
著者
早坂 大亮 鈴木 一隆 是永 知子 諸岡(斎藤) 歩希 野村 拓志 深澤 圭太 Francisco Sánchez-Bayo 五箇 公一
出版者
日本農薬学会
雑誌
日本農薬学会誌 (ISSN:21870365)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.101-107, 2013-08-20 (Released:2014-03-01)
参考文献数
36
被引用文献数
6 10

The effects of two successive annual treatments of imidacloprid and fipronil on dragonfly nymph communities, which are one of the best-known bioindicators in Japanese agroecosystems, were monitored in experimental paddies. The abundance of dragonfly nymphs was lower in both insecticides-treated fields than it was in the controls, particularly following fipronil treatments. Residues of both insecticides were found in the soil throughout the two years, and imidacloprid persisted in water up to three months following each treatment. A Principal Response Curve analysis (PRC) showed that the second annual treatments caused greater structural changes in dragonfly nymph communities than the initial treatments caused, particularly for fipronil. The community structures continued to change even after the insecticides dissipated from the water. This suggests that ecological impacts, and therefore risks, of imidacloprid and fipronil on dragonfly nymph communities depend more on soil residues than they do on waterborne residues. As expected, susceptibility of dragonfly nymphs to these two insecticides differed among species.
著者
黒田 有寿茂 中濵 直之 早坂 大亮 玉置 雅紀 花井 隆晃
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2214, (Released:2023-04-30)
参考文献数
60

スパルティナ・アルテルニフロラ(Spartina alterniflora Loisel.)は北アメリカの大西洋岸およびメキシコ湾岸原産の干潟や河口の塩性湿地に生育するイネ科多年生草本である。本種は干潟の陸地化や沿岸域の保護を目的とした意図的な導入、また非意図的な移入・逸出によって世界各地に分布を広げており、定着地に大規模な密生群落を形成することで在来の生態系や産業に大きな影響を及ぼしている。日本国内において、本種は 2008 年に愛知県豊橋市の梅田川河口で初めて確認され、その後 2010 年に熊本県で確認された。スパルティナ・アルテルニフロラのもつ干潟生態系への脅威から、2014 年には本種を含むスパルティナ属全種が特定外来生物に指定された。本稿ではスパルティナ・アルテルニフロラの形態的・生態的な特徴と、2020 年に山口県下関市で新たに確認された本種の侵入状況ならびに駆除の現状についてとりまとめた。
著者
與猶 久恵 内田 泰三 荒瀬 輝夫 早坂 大亮
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.50-55, 2013 (Released:2014-04-02)
参考文献数
23

本研究では,絶滅危惧種コギシギシの保護あるいは保全に資する基礎的知見を得ることを目的とした。ここでは,コギシギシ痩果の外部形態ならびに発芽特性について検討を行った。後者においては,高-低温湿層処理ならびに乾燥暗所処理が発芽に及ぼす影響から考察した。その結果,コギシギシの痩果は,3 枚の花被片からなり,それぞれの縁に長い刺を有する点に特徴づけられ,エゾノギシギシの痩果に近い形態にあると考えられた。しかし,それぞれの花被片に粒体が付属する点はエゾノギシギシと異なった。一方,高-低温湿層処理ならびに乾燥暗所処理が発芽に及ぼす影響は認められず,痩果の生理的休眠は浅いものと推察された。
著者
早坂 大亮 永井 孝志 五箇 公一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.193-206, 2013-07-30

農薬は作物の品質・収量確保の上で必要不可欠である一方、持続的な農業活動に向けては生物多様性を無視することはできない。本稿では、今後の農薬の生態リスク管理手法として取り入れるべき、多種系あるいは群集レベルの評価手法について概説するとともに、これら手法の有効性・可能性と今後の展望について議論する。日本における現行の農薬管理は、農薬の曝露影響と生物への影響の濃度とを対比させて評価を行う。農薬の曝露影響は多段階の評価制度(Tier制)が確立されているが、生物影響は個体レベルの室内毒性試験のみで評価されており、群集(生態系)レベルでの評価手法は確立されていない。また、室内試験の結果を野外環境に外挿することの難しさは多くの研究者により指摘されている。近年、個体レベルの評価から多種系の評価に外挿する手法として、農薬に対する各生物の感受性差を考慮した統計学的手法である種の感受性分布(SSD:Species Sensitivity Distribution)が開発されている。これにより、生物集団の潜在影響を簡便に評価できる一方で、生物間相互作用や群集の回復性などは考慮できない。これら課題の解決に向けて、メソコスムを含む実験生態系による試験の実施が有効であると考える。実験生態系は、多種の生物に対する影響を同時に試験可能であるとともに、コントロール(対象区)を設定できる、などの利点がある。群集レベルの農薬の生態リスク評価にはこれまで、多様度指数や主成分分析等が指標として用いられてきたが、何れも生物多様性への影響評価として解釈が困難であった。そこで、コントロールと農薬処理区との群集組成の時間変化における差に着目した多変量解析である主要反応曲線(PRC:Principal Response Curves)解析が開発され、現在、多くの現場で使用されている。一方、曝露後影響のモニタリング期間が短い場合、世代期間(生活史サイクル)の長い生物に対する影響を過小評価してしまう危険性がある。1年以上の長期モニタリングを行うことで、各種の生活史も考慮したより現実的な生態リスクの評価が可能になる。これらの課題を踏まえ、今後の生物影響の評価システムとして、室内毒性試験、種の感受性分布、および実験生態系による長期モニタリングを一つの評価パッケージとして段階的に実施することを我々は提案する。その上で、これら試験結果から総合的に導かれる農薬の毒性について曝露影響と比較することで、農薬の生態リスクの総合評価による登録保留基準の設定が可能になると考える。