著者
武者小路 公秀 宣 元錫 華 立 早尾 貴紀 小倉 利丸 羽後 静子 野田 真里 梶村 美紀 松原 弘子 鈴木 江理子 塩原 良和 金 敬黙 佐竹 眞明 近藤 敦 浜 邦彦
出版者
大阪経済法科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、グローバル移住の女性化が進む日本と韓国両国の移住者コミュニティにおける人間の不安全状況とこれに対応する移住者自身と市民社会のサポーターの活動において、ヴェトナムとフィリッピンを送り出し国として進められた。その結果、移住女性が直面する公共圏と親密圏における諸問題の性格、特に、移住先と故郷との双方を生活圏とする新しい公共、新しい市民像の形成を目指す移住市民との協力活動の重要性が確認された。
著者
早尾 貴紀
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

ヨーロッパ近代思想史上の最大の課題とも言える国民国家/多民族共存の問題が、現在のパレスチナ/イスラエルに転移しているという認識、つまり、ユダヤ人問題の外部化によってユダヤ人国家イスラエルが誕生し、同にパレスチナ人が難民化したという認識から、二つの課題に取り組み発表論文を執筆した。一つは、パレスチナとイスラエルのあいだで際限なく繰り広げられる暴力(テロリズムもその一つ)の所在を突き止めること。パレスチナ/イスラエルにおける暴力は、端的に、相手の存在を否定し、自らの存在を確保するために行なわれる。だが、相手との対称性をもつその論理は無限に反転し、「暴力の連鎖」は止まることがなくなる。また、それぞれの暴力は同時に自らの存立基盤をも崩壊していく。それに対して、たんに絶対平和主義に立つのでもなく、またどっちもどっちという相対主義の立場に立つのでもない、暴力批判の倫理のあり方を考察した。もう一つが、ユダヤ人とアラブ人の、イスラエルとパレスチナの共存の枠組みを探ること。一般に宗教対立と思われがちなパレスチナ/イスラエルの民族問題の解決は、ヨーロッパ近代的な理念である、世俗国家・民主国家によって得られるのか。あるいは、それとは異なる国家原理はありうるのか。これまでの歴史のなかで実際に謳われたいくつかの国家理念(それには、二民族が一つの国家の中で共存をすることを目指す「バイナショナリズム思想」も含まれる)を検討しながら、それらがどれだけの現実可能性と批判力をもつのかを検討した。
著者
早尾 貴紀
出版者
大阪経済法科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本科研費による研究活動開始前からの刊行論文も併せて、2008年に単著『ユダヤとイスラエルのあいだ-民族/国民のアポリア』(青土社)を出版した。マルチン・ブーバーおよびハンナ・アーレントという二人のドイツ系ユダヤ人哲学者の模索したバイナショナリズム、つまりパレスチナにおけるユダヤ人とアラブ人の共存思想の展開と隘路を辿った(同書前半)。また、建国後のイスラエルに対して、アイザイア・バーリンやジュディス・バトラー、マイケル・ウォルツァーらリベルラル派のユダヤ人によるイスラエル批判の意義と限界を分析した(同書後半)。そのかん、イスラエル/パレスチナへの研究滞在(主としてヘブライ大学とハイファ大学)および現地からの研究者の招聘(ハイファ大学カイス・フィロ教授)などを重ね、資料調査・研究交流をおこない、上記単著以降の研究の展開を模索した。その成果として、ブーバーやアーレントの同志であった重要人物ユダ・マグネス初代ヘブライ大学学長をはじめとする、建国直前期のヘブライ大学の哲学者たちが、いかに排他的な民族主義に陥ることなく、アラブ人・アラブ文化と共存しながら自らのアイデンティティを保持するのかという課題に取り組んでいたことの意義を分析する論考を発表した。その他、「ディアスポラ」から民族の越境と共存を読み直す共同のプロジェクトに参加し、そのなかでのバイナショナリズムの歴史的意義と現在的可能性を考察する論考を発表した。