- 著者
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有元 光彦
- 出版者
- 日本言語学会
- 雑誌
- 言語研究 (ISSN:00243914)
- 巻号頁・発行日
- vol.158, pp.1-28, 2020 (Released:2021-02-16)
- 参考文献数
- 12
本稿の目的は,九州方言に広く起こるテ形音韻現象を対象とし,そこで分類される様々な方言タイプのバリエーション間に,どのような相関関係があるのかについて考察することにある。従来の研究で提案されていた「非テ形現象化」を分節音レベルで再検討し,それを「方言システムの崩壊」という新たな概念の中で位置づける。そして,テ形音韻現象の中で仮定されていたe消去ルール・e/i交替ルールの適用範囲が狭くなる方向への体系的な変化,特に非適用環境に関して「特殊から一般へ」の変化が起こっていることを明らかにする。また,地理的には,真性テ形現象方言が「五島列島→天草→熊本県南部」という順の崩壊プロセスをとるだけでなく,擬似テ形現象方言も「天草→熊本県北東部・大分県北西部」という崩壊プロセスをとる。異なる地域であっても,方言タイプにおいては同様の崩壊プロセスが起こっていることが明らかとなった。さらに,理論的には,崩壊プロセスが周圏性によって裏付けられることを示した。