著者
西尾 直也 朝倉 暢彦 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.32, 2014 (Released:2014-10-05)

心の理論による他者の心的状態を理解する過程には,心についての一般的な知識に基づくとする立場の理論説と自己の心的状態を他者に投影して他者理解を行うとする立場のシミュレーション説が提唱されている.先行研究では,他者の心的状態のうち誤信念を推測する理論説に基づくモデルが提案されているが,誤信念理解の発達過程や誤信念以外の心的状態の理解との関連やシミュレーション説が考慮されていない.そこで,本研究ではシミュレーション説に基づいた心の理論のベイジアンネットワークモデルを提案し,様々な心的状態の理解の発達過程と相互関連を検討した.その結果,他者の信念や知識を理解する心的機能の同時発達が誤信念という高次の心的機能の獲得に必要であることが示唆された.
著者
朝倉 暢彦 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.22, 2017 (Released:2017-10-16)

意思決定の神経心理学的検査に用いられているアイオア・ギャンブル課題に対して,健常者が必ずしも最適な選択行動をとらないことが近年報告されている.本研究では,この課題の公開データベースに対してモデルベースのクラスタ分析を行い,健常者の特徴的な選択パターンを同定することを試みた.405名の実験参加者の課題終盤の選択パターンに対して混合多項分布を用いたクラスタ分析を行い,周辺完全尤度を用いた情報量基準で最適なクラスタ数を決定したところ,12個の選択パターンが同定された.その中で選択肢のもつ長期的な利益に基づいた選択パターンを示すのは全体の25%程度に過ぎず,半数以上が損失の頻度の低い選択肢を選好する選択パターンであった.さらに,その後者の選択パターンは,期待効用の最大化による合理的決定方略ではなく,各選択肢から得られる報酬確率に基づいた確率マッチングの方略に対応するものであることが明らかとなった.
著者
前川 亮 成山 雄也 朝倉 暢彦 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2017 (Released:2017-10-16)

他者感情の推定時に自分の中に相手と同じ感情を生じ、感情を共有することで行う感情推定を共感的な感情理解という。この共感感情の生起を、ミラーニューロンの働きによって生じる身体状態の模倣によって説明する試みがなされているが、まだ十分な証拠は得られていない。本研究では特に共感性の個人差に着目し、共感性の高低が模倣的な身体状態の変化に及ぼす影響を検討した。実験参加者は感情推定課題を行い、その際の表情筋活動・心拍・発汗・皮膚温を記録した。さらに質問紙によって共感性を評価し、身体状態の変化と比較した。その結果、共感性の高い群では模倣的な身体状態の変化がほとんど見られなかったのに対し、共感性の低い群では感情推定値と身体状態の間に相関関係がみられた。この結果は、ミラーニューロンの働きが社会的文脈によって抑制されるという知見と一貫しており、共感性の高い参加者はより抑制制御に優れていると考えられる。
著者
飯村 大智 朝倉 暢彦 笹岡 貴史 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2014 (Released:2014-10-05)

吃音症と呼ばれる言語障害の背景には発話運動制御の問題が示唆されている。本研究では、吃音者は聴覚フィードバックへの依存度が高いこと、及びその背景としてフィードバックの予測・照合の精度が悪いという2つの仮説を立て、行動実験を行った。実験は、自分の声が遅れて聞こえる状態を順応させた上で(0ms;順応なし、66ms、133ms)、自分の声の同時性判断(0ms~150ms)が各条件でどのように変化するかを調べた。結果は非吃音者と比べて吃音者で順応によって同時性判断の判断基準が大きく変化し、フィードバックに依存した運動制御を行っていることが示唆された。一方で同時性判断の精度は非吃音者との有意差はなかったが、吃音者で回答の判断基準と精度の両変数には有意な相関係が見られた。吃音者では聴覚フィードバックへの依存と予測・照合の精度の問題には関連性があり、吃音者に特異的な発話の運動処理の問題が推察される。