著者
楠見 孝 米田 英嗣
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.24, 2017 (Released:2017-10-16)

日本全国の18歳から79歳の800人に対象にweb調査で、作品舞台を旅する「聖地巡礼」行動における作品世界への没入感を検討した.質問項目としては、物語理解における没頭尺度,移入尺度を旅行行動に対応するように改良し、あわせて、懐かしさ傾向、旅行行動などを測定した.その結果、アニメの作品舞台の旅行者は、小説舞台の旅行者に比べて,場面既知感が高いこと,場面既知感と作品世界への没入は相関が高いことが明らかになった。
著者
久保 克弘 村田 義人 山本 景子 西崎 友規子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.31, 2017 (Released:2017-10-16)

全自動運転走行システムの現実的な到達点として,システムが指示した場合にのみドライバが手動に切り替えて運転するという準自動走行システムが想定できる.ドライバがシステムからの切替案内にスムーズに応じるか否かは,他者受容性や機械への信頼感等,複数の特性によって異なることが考えられる.そこで,普通免許を所持する大学生40人を対象にドライビングシミュレータを用いた実験を行った.自動運転開始と同時に,参加者は運転とは異なる課題(計算課題)に集中することが求められた.一定時間経過後に,音声によって切替案内が提示され,その反応時間と切替後の運転安全性の変化を分析した.その結果,他者受容性が高いドライバは受容性が低いドライバに比べて,切替後の運転安全性が有意に低くなった.切替案内に従順に従うことによって,ドライバ自身で安全走行を確認しにくくなった可能性が考えられる.
著者
池田 和浩
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.120, 2017 (Released:2017-10-16)

本研究では、出来事の語り直しの3つの方略が自伝的記憶の意味づけに与える影響を調査し、記憶の再解釈と心的外傷後成長の成立の関連性を検証した。199名の参加者は、1つのネガティブな体験の記憶について、記憶の特徴に関する3つの指標に評定した:(1)Centrality of Event Scale, (2)主観的自伝的記憶評定, (3)Re-TALE。また、心的外傷後成長に関する尺度に評定を求めた:(1)ERRI, (2)Core Beliefs Inventory。分析の結果、ネガティブな自伝的記憶の語り直しには2つのステージが存在し、ネガティブ感情制御方略とポジティブ感情拡張方略に比べ、認知的転換方略が心的外傷後成長を促す促進因子となる可能性が示唆された。
著者
向居 暁
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.131, 2017 (Released:2017-10-16)

本研究の目的は、県の形と県名の対連合学習において,奇異性・新奇性の高いと考えられる県の形のイラストの有効性を検討することであった。その結果,県の形と県名の対連合学習において、奇異性・新奇性の高い県の形のイラストは、県名の学習に効果的であるとはいえないどころか、逆効果であることがわかった。この結果は,都道府県の形のイラスト化によって県名の記憶の促進効果を見いだせなかった向居(2016,教心発表)と一致したものであった。
著者
井関 紗代 北神 慎司
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.115, 2017 (Released:2017-10-16)

ただ商品を触るだけで,自分の物であるかのような感覚(所有感)が生じることがわかっている. 本研究では,商品を触るイメージをするだけで,所有感が高まり,その結果,商品に支払ってもよい金額(支払意思額)も高まるのか検討した. さらに,エフェクタンス動機づけが,触るイメージの効果に及ぼす影響についても検証した. エフェクタンス動機づけとは,環境をコントロールしたいと動機づけられることであり,所有感を抱くことは,そのコントロール欲求を満たすことにつながると考えられる.結果として,触るイメージをすると支払意思額が高まり,その効果は,商品に対する所有感を完全媒介していることが示された.さらに,エフェクタンス動機づけが高まると,所有感が高まり,支払意思額に影響を及ぼすことも確認された. よって,マーケティングにおいて,触るイメージの想起やエフェクタンス動機づけを高めることが有益であると考えられる.
著者
瀬戸 奏音 小川 景子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.95, 2017 (Released:2017-10-16)

夢とは全ての人において睡眠中毎晩生成されている現象である.しかし,夢内容の生成起序や規定要因について,未だ一定の知見は得られていない.不快な夢内容に関する先行研究では,精神疾患との強い関連が報告されている一方で,健常者を対象とした研究は少ない.さらに,夢内容の生成に関する主観的な要因について,個人特性に着目した研究が多い一方で,日中および就床前の気分の影響を検討した研究は少ない.本研究では,健常大学生を対象に,自宅での夢聴取により個人特性と就床前の気分が夢内容に影響する様子を検討した. マルチレベル相関分析により有意な相関が認められた項目について,マルチレベル構造方程式モデリングを用いた媒介分析を行った.その結果,STAIの特性不安,状態不安と夢のネガティブ情動因子得点に関して,特性不安は夢のネガティブ情動因子に対して,状態不安を媒介することで不快な夢内容へ影響することが示された.
著者
坪井 寿子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.119, 2017 (Released:2017-10-16)

お菓子の自伝的記憶について懐かしさや食育などの社会文化的側面に関する検討(坪井 2016)を踏まえ、幼児期及び児童期に経験したお菓子に関する最も印象に残るエピソードの想起について調べた。幼児期については大学生133名を対象とした結果、家族と一緒に食べたエピソードが比較的多く見られた。また、エピソードの各評定値の平均値は、鮮明度は4.0、重要度は3.9、頻度は3.5、当時の気持ちは4.9、現在の気持ちは4.7であった。一方、児童期についても大学生126名を対象に同様に調べた。その結果、友達と一緒に食べたエピソードが比較的多く見られた。同じく、エピソードの各評定値の平均値は、鮮明度は4.2、重要度は3.6、頻度は2.8、当時の気持ちは4.9、現在の気持ちは4.8であった。更に、お菓子の種類やエピソード時の感情状態なども検討し、お菓子の自伝的記憶に意義に関して幼児期と児童期との比較検討を行った。
著者
岩木 信喜 田中 紗枝子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.42, 2017 (Released:2017-10-16)

問題に対する回答に与えられる正答フィードバック(FB)を遅延させると、回答直後に与える場合よりも正答の記憶が定着すると言われてきた(e.g., Kulhavy, 1977)。しかし、手続き上の問題が指摘され、正答FBを与えてから再テストまでの時間(lag-to-test, Metcalfe et al., 2009)を直後FB条件と遅延FB条件の間で統制すると効果が消失したという報告がある。これについては、そのように統制してもなお効果を認めた研究(Mullet et al., 2014)もあり、結果が一致していない。本研究では、漢字熟語の読み課題を使って追試し、効果の有無を検討した。その結果、lag-to-testを統制した場合、遅延FBの学習促進効果は認められなかった。
著者
Ryo Ishibashi Taiji Ueno Satoru Saito Tatsuya Mima Matthew A Lambon Ralph Gorana Pobric
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.146, 2017 (Released:2017-10-16)

事物の意味を認知することは人間の持つ高次認知機能のうちでも特に中心的な機能の一つである。本研究では経頭蓋直流電流刺激(tDCS)を用いて、近年意味認知の中枢と考えられている大脳皮質左前側頭葉(ATL)の活動を促進したときに日本語単語意味認知能力の向上が見られるかどうかを検討した。結果としてtDCSによる類義語の判断成績向上が認められ、この効果は事前調査で難易度が高いとされた試行群において得に顕著であった。本知見はATL領域と意味認知との関係についてその因果的関係をさらに強力に立証すると同時に、意味認知障害の臨床においてtDCSが意味認知能力の維持・向上の補助手段として用いられる可能性について示唆するものである。
著者
羽生 奈央 小野 史典
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.38, 2017 (Released:2017-10-16)

Dehaene et al.(1993)は呈示された数字の偶奇判断を左右のキー押しにより行う際,小さい数が呈示された場合右よりも左キーでの反応が速くなり,大きい数が呈示された場合その逆になる効果をSNARC効果と呼んだ。これは左から右へ文字を読んでいく読みの習慣が原因であるとされている。日本では左から右への横読みの習慣に加え縦読みの習慣が存在しておりこれは読字方向に物理的な制限がかかる”ふきだし”内の文で顕著であると考えられる。本研究ではふきだしの形状(横長・縦長)がSNARC効果に与える影響を検討した。実験の結果横長ふきだし時には通常のSNARC効果がみられたが縦長ふきだし時にはSNARC効果はみられなかった。この結果はふきだしの形状が誘発する読み方向によりSNARC効果が影響を受けることを示しSNARC効果の原因が読みの習慣であるとするDehaene et al.(1993)の見解を支持する。
著者
大貫 祐大郎 新垣 紀子 本田 秀仁 植田 一博
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.103, 2017 (Released:2017-10-16)

アンカリング効果とは、与えられた数値情報であるアンカーが、その後の数値推定に影響を与えることである。現在、アンカリング効果の発生原因は、アンカーによって異なる意味が活性化することだと考えられている。もし、異なる意味の活性化が原因であれば、アンカーとして数字を提示する必要はなく、異なる意味を活性化させるような刺激を提示すれば、アンカリング効果が観察されると予測される。本研究では、アンカーとして数字を提示する場合と、数字を提示せず、意味的情報のみを提示する場合とで、アンカリング効果の強さを比較した。その結果、数字を提示した場合に比べ、意味情報のみを提示した場合には、アンカリング効果の強さは微小であることが明らかになった。以上から、アンカリング効果において、数値情報が重要な役割を果たしていることが明らかになった。
著者
加藤 昂希 杉森 絵里子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.32, 2017 (Released:2017-10-16)

Karremans,Claus,&Storoebe(2006)が行った実験によると,パソコン課題をしている被験者の画面に「LiptonIce」という文字を意識下では知覚できない程の短い時間繰り返し提示したところ,喉が渇いている被験者においてのみリプトンアイスティーを飲む人の割合が増えたという。この実験を受け,私は視覚的なサブリミナル効果だけでなく,聴覚的なサブリミナル効果でも同じ様に結果が出せるか否かを検証する事とした。具体的には,喉が渇いている被験者に,サブリミナル音声を忍ばせた音源を聞いてもらい,その後の選択行動に影響があるかどうかを検証した。結果として,サブリミナル効果は出なかったものの,音源をリラックスして聞いてもらった後に直感を頼りに選択してもらう場合において,サブリミナル効果が出やすくなる事が明らかになった。
著者
江口 愛実 小川 景子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.70, 2017 (Released:2017-10-16)

単調な低音呈示の中で稀な高音とともに呈示された視覚刺激は弁別性が向上することが知られており (Vroomen & Gelder, 2000),このような弁別性の向上は視聴覚統合の発生を反映する。本研究では記憶課題と事象関連電位 (P3成分) を用いて,視聴覚統合が視覚刺激の記憶処理過程に及ぼす効果について検討した。参加者は,瞬時に切り替わる幾何学図形の記銘と,その後に再認が求められた。記銘時における図形の呈示は低音の聴覚刺激と同時に行われたが,稀に高音の聴覚刺激が呈示された。検討の結果,稀な高音とともに呈示された図形で記銘時のP3振幅が有意に増大し,再認率も向上した。これらの結果は,稀な聴覚刺激とともに呈示された視覚刺激に対して視聴覚統合が生じ,刺激の弁別性が向上したことで,記銘処理が促進されたことを示す。
著者
米田 英嗣 ヒル エリザベス
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.26, 2017 (Released:2017-10-16)

発達性協調運動障害とは、日常生活における協調運動が、本人の年齢や知能に応じて期待されるものよりも不正確であるという神経発達障害であり(American Psychiatric Association, 2013)、自閉スペクトラム症との併発が多いことが知られている。本研究では、運動巧緻性と共感性が、時間産出の正確さを予測すると考え、発達性運動障害の成人21名、定型発達の成人21名を対象に実験を行った。時間産出課題の成績を目的変数とした重回帰分析を行った結果、運動巧緻性の低さと情動的共感の低さが時間産出の不正確さと関連することがわかった。また、自閉スペクトラム症得点を共変量とした共分散分析を行った結果、自閉症傾向が高いほど、時間産出が不正確であることがわかり、時間産出が不正確な原因は、発達性協調運動障害の特性自体よりも、併存する自閉スペクトラム症の特性が関連していることが明らかになった。
著者
小林 正法 大竹 恵子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.143, 2017 (Released:2017-10-16)
被引用文献数
1

科学技術の発展により様々な情報を外部記憶装置に容易かつ迅速に保存することが可能となった(例. スマートフォンによる写真撮影)。このような外部記憶装置の利用はヒトの記憶にも影響を与える。Henkel (2014)は,写真撮影によって長期記憶として保持される必要がなくなった情報は,忘却されることを示した。これは外部記憶装置への保存による認知的負荷の低減を示唆している。これに関連して,本研究では,ニュートラル語に比べて,記憶成績が高いとされる感情語(e.g., Kensinger, 2004)に対し,写真撮影による忘却が生じるかを検討した。指示忘却手続き(Bjork, 1970)を参考とした実験を実施した結果,写真撮影をした単語の再生成績が低下し,その程度に感情価の影響は少なかった。本研究により,感情語という記憶されやすい情報に対しても写真撮影による忘却が適用されることが示唆された。
著者
小川 佳純 井藤 寛志 北神 慎司
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.116, 2017 (Released:2017-10-16)

Guénguen (2014) は身体魅力の中でも特にハイヒールに着目して研究を行っており,女性がハイヒールを履くことが男性の援助行動に影響を及ぼすことを報告した最初の論文である。今回は日本においてGuéguen (2014)の実験3を追試し実際にフィールド実験を行うことで,この結果が通文化的な結果であるのかということを検討することを目的とした。場所は日本の愛知県豊橋市で行い,協力者の女性は0㎝5㎝9.5㎝の3種類の靴を履き,実験参加者の前で気づかないふりをしてわざとパスケースを落とし,拾ってもらう回数と援助までの時間がヒールの高さによって違いが生じるのかということを検証した。結果は援助率と援助までの時間においてヒールの高さで違いは見られなかった。このことから考えられることとして文化差の他に実験の状況の統制の要因が挙げられる。傍観者効果の影響や,実験参加者の年齢まで視野に入れる必要があった。
著者
朝倉 暢彦 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.22, 2017 (Released:2017-10-16)

意思決定の神経心理学的検査に用いられているアイオア・ギャンブル課題に対して,健常者が必ずしも最適な選択行動をとらないことが近年報告されている.本研究では,この課題の公開データベースに対してモデルベースのクラスタ分析を行い,健常者の特徴的な選択パターンを同定することを試みた.405名の実験参加者の課題終盤の選択パターンに対して混合多項分布を用いたクラスタ分析を行い,周辺完全尤度を用いた情報量基準で最適なクラスタ数を決定したところ,12個の選択パターンが同定された.その中で選択肢のもつ長期的な利益に基づいた選択パターンを示すのは全体の25%程度に過ぎず,半数以上が損失の頻度の低い選択肢を選好する選択パターンであった.さらに,その後者の選択パターンは,期待効用の最大化による合理的決定方略ではなく,各選択肢から得られる報酬確率に基づいた確率マッチングの方略に対応するものであることが明らかとなった.
著者
尾田 政臣
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.8, 2017 (Released:2017-10-16)

顔の美しさや魅力の評定に対称性が影響することが知られている。しかし、顔写真を用いた実験では、知覚的な条件以外に認知的な要因も加味された評定になっている可能性がある。このような影響を極力排除し、物理的な特徴が美的評価に及ぼす影響を見るため線画の顔画像を用いた。左右対称な線画の顔の右目の大きさを拡大すること、および右目の水平位置を輪郭方向へずらすことで非対称性を統制し、その時の顔の美しさを評定させた。目の大きさはオリジナルの目の面積に対する比率を用い、目の位置は顔の中心から目の中心までの長さに対する比率を採用した。実験の結果、目の大きさについては、男女平均で34%の拡大、目の位置では13%の増加が美しさ評定値の低下をまねく閾値となることが明らかになった。特に目の大きさについては閾値を境に急激に評価が落ちており、バーラインの覚醒水準モデルの釣鐘型にはなっていない。
著者
上田 卓司 高橋 優
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.128, 2017 (Released:2017-10-16)

現代社会においては,種々のコンピュータ・ネットワークサービスを利用するためのIDやパスワードが多く必要とされ,またそれらの適切な管理運用も求められている.管理運用についての規範は多いが,それらは人間の記憶をはじめとした認知特性とはかけ離れている.本研究ではパスワード様のランダム文字列を複数生成・記憶する課題を通じ,パスワードの生成運用方略を検討することを目的とした.実験において参加者は,実験結果開示用のものを含む架空のサイト/サービス用パスワードを8つ生成し,それらランダム文字列の性質について評定することが求められた.開始前の段階では記憶課題が含まれることは参加者に告げられていなかった.実験の結果,半数以上の参加者において使い回し等,適切とされるパスワード管理運用規範からの解離が認められた.これらの結果について認知特性及び情報セキュリティの観点から論じられた.
著者
前川 亮 成山 雄也 朝倉 暢彦 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2017 (Released:2017-10-16)

他者感情の推定時に自分の中に相手と同じ感情を生じ、感情を共有することで行う感情推定を共感的な感情理解という。この共感感情の生起を、ミラーニューロンの働きによって生じる身体状態の模倣によって説明する試みがなされているが、まだ十分な証拠は得られていない。本研究では特に共感性の個人差に着目し、共感性の高低が模倣的な身体状態の変化に及ぼす影響を検討した。実験参加者は感情推定課題を行い、その際の表情筋活動・心拍・発汗・皮膚温を記録した。さらに質問紙によって共感性を評価し、身体状態の変化と比較した。その結果、共感性の高い群では模倣的な身体状態の変化がほとんど見られなかったのに対し、共感性の低い群では感情推定値と身体状態の間に相関関係がみられた。この結果は、ミラーニューロンの働きが社会的文脈によって抑制されるという知見と一貫しており、共感性の高い参加者はより抑制制御に優れていると考えられる。