著者
乾 敏郎
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.123-134, 2018-09-05 (Released:2018-10-31)
参考文献数
49
被引用文献数
5 1

本論文では,Fristonの自由エネルギー原理によって多くの脳機能を統一的に説明できることを示した.自由エネルギー原理は純粋視覚(pure vision)を説明するために生まれたものであった.すなわちHelmholtzの無意識的推論が,網膜像から近似事後確率を推定する過程であるとする従来の枠組みに近いものであった.しかし,自由エネルギーの最小化にはもう一つの方法がある.それが能動的推論である.このアイデアによって,自由エネルギー原理が運動制御に適用され新たな制御理論が生まれた.さらに感情や意思決定(行動決定)も同じ原理で説明される.ここでは上記の両推論過程がともに働いて目的が達成される.感情では内受容感覚とアロスタシスにそれぞれ対応し,意思決定では,外在的価値と内在的価値に基づく行動に対応する.また精度(precision)という概念の重要性を強調し,精神医学や認知発達との関連についても議論した.
著者
乾 敏郎
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.366-386, 2019-09-01 (Released:2020-03-01)
参考文献数
52

This article reviewed the free-energy principle, proposed as the general and unified brain theory by Friston, K. et al. (2006), its powerful framework, and recent expansions. This theory developed a mathematically precise theory to explain the computational neural mechanisms for optimizing posterior beliefs of the world in the brain. The freeenergy principle consisted of two major inferences: the unconscious inference and active inference. In addition, to optimize posterior beliefs or to select and execute behaviors, this theory proposed the precision of signals and its optimization as important computations; it also predicted the aberrant optimization of precision triggered various psychopathological syndromes. Furthermore, the free-energy principle theoretically demonstrated the composition of values from intrinsic (or epistemic) and extrinsic values. Intrinsic values were considered to involve curiosity and play fundamental roles in decision making and behavioral selection. This article expounded how the free-energy principle gave the theoretical explanations for brain functions such as perception, motor behavior, behavioral selection, and insight.
著者
笹岡 貴史 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第10回大会
巻号頁・発行日
pp.18, 2012 (Released:2012-07-20)

物体の未知の見えを推測する心的イメージ変換は,物体を心的に回転することでも,異なる視点に移動するイメージを作ること(視点変換)でも可能である.しかし,それらの神経基盤に違いがあるかは不明である.そこで,本研究では心的回転/視点変換課題中の実験協力者の脳活動をfMRIによって計測した.課題ではCGで作られた部屋に物体が置かれた画像に続いて,物体を見ながら自分自身が移動する,または物体が回転する動画が呈示された.途中で物体が消去されるが,その間も実験協力者は同じ速度で視点移動する,または物体が回転するイメージを作り,後に呈示された物体の見えと比較照合を行った.視点変換,心的回転中の脳活動を比較すると,前者で左楔部,小脳,後者で補足運動野に活動が見られた.この結果に基づき,視点変換・心的回転に関わる脳内基盤について視点変換と心的回転の二重乖離に関する神経心理学的知見と関連づけて議論を行う.
著者
芦澤 充 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第6回大会
巻号頁・発行日
pp.6, 2008 (Released:2008-11-10)

本研究では,心的回転を自己中心座標で表現された物体の心的イメージが自己の仮想的な運動指令によって回転される認知過程であり,頭頂葉が重要な役割を果たしていると考えてモデル化を試みた.モデル1では,物体軸の三次元的勾配に選択的なニューロン,運動速度に選択的なニューロン,運動系の信号によって出力が調節されるニューロンといった,いずれも頭頂葉に存在が示唆されているニューロンをモデル化し,シミュレーション実験によって,ニューロン集団の活動パターンで表象された三次元空間上のスティックの勾配が,与えられた回転速度に応じて徐々に変化する過程を再現できた.この結果は,前述の仮説を支持するものである.また,モデル1を拡張したモデル2では,自己の運動情報と,それに応じて変化するスティックの二次元的勾配情報の統合により,スティックの三次元的勾配を知覚する認知過程を再現できた.
著者
乾 敏郎
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
pp.1005130062, (Released:2010-05-24)
参考文献数
42
被引用文献数
3

In this paper, we propose three hypotheses about language understanding. One of the fundamental and important components of language processing is assignment of a thematic role to each word in a sentence, based on word order and particles or prepositions. Therefore, we first discuss the brain mechanism of thematic role assignment, followed by a discussion of the brain mechanism for outlining the meaning of a sentence. We then evaluate the function of the mirror neuron system in language understanding. Finally, we discuss the brain mechanisms of mental perspective shift and hierarchical processing in language comprehension.
著者
乾 敏郎 得丸 定子
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

催眠の認知神経科学的研究をレビューし、催眠研究において暗示の効果が脳活動のどのような側面に現れるのかを整理検討した。さらに、最近の瞑想の認知神経科学的研究をレビューし、瞑想初心者vs.熟練者との比較を通し、静止vs.瞑想状態におけるデフォールトモードネットワーク(DMN)内の機能的結合度、脳各領域における活性化/非活性化、共振性、結合度などを検討した。これらをふまえて、自由エネルギー原理に基づくそれらの脳内メカニズムに関する統一理論を提案した。
著者
乾 敏郎
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.59-72, 2010 (Released:2010-06-25)
参考文献数
42
被引用文献数
3

In this paper, we propose three hypotheses about language understanding. One of the fundamental and important components of language processing is assignment of a thematic role to each word in a sentence, based on word order and particles or prepositions. Therefore, we first discuss the brain mechanism of thematic role assignment, followed by a discussion of the brain mechanism for outlining the meaning of a sentence. We then evaluate the function of the mirror neuron system in language understanding. Finally, we discuss the brain mechanisms of mental perspective shift and hierarchical processing in language comprehension.
著者
乾 敏郎 小川 健二
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第6回大会
巻号頁・発行日
pp.35, 2008 (Released:2008-11-10)

なぞりと模写のfMRI実験の結果から、これらのメカニズムに関するモデルを提案し、動作模倣との関連性についても考察する。乾(2007)では、左頭頂葉と右頭頂葉において、対象が自己中心座標と対象中心(または環境中心)座標でそれぞれ表現されていると仮定している。言い換えると、左頭頂葉は、主に外界の時空間的な変化を身体運動に変換するという意味で、情報の流れが「他者→自己」であり、右頭頂葉は自己の運動を他者(物体)に投影して、外界にある他者(物体)のイメージを作り、操作するという意味で、情報の流れは「自己→他者」であると言える。なぞりは、対象中心座標の表現のみでカーソルの軌道を制御できるのに対し、模写は、曲線を一旦自己中心表現に変換して再生しなければならない。しかも、自己中心座標と対象中心座標の変換を行い、部分の確認がなされる必要がある。このモデルによって、closing-in現象も説明可能である。
著者
石川 敦雄 西田 恵 渡部 幹 山川 義徳 乾 敏郎 楠見 孝
出版者
日本環境心理学会
雑誌
環境心理学研究 (ISSN:21891427)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-14, 2016 (Released:2017-05-08)
参考文献数
49

室内空間の多くは社会的な相互作用のための場であり,より良い対人関係・行動に配慮した室内空間が期待されている。本研究の主な目的は,一般的な水準の広さや明るさ等の室内空間の物理的要因が印象形成に影響を及ぼすかどうかを検証することである。実験1の156名,実験2の364名の社会人は,室内空間CGと人物の合成画像を見て対人印象と対人関係への期待を評価した。次に,室内空間CGを見て広さ,明るさ等の物理的要因と感情的要因を評価した。実験1および実験2の結果に基づくパス解析により,室内空間の「広々した」印象が対人印象「共同性」因子に影響し,その「共同性」因子が対人関係の期待に影響することが示唆された。これらの実験結果は,日常的な空間としてデザインされる物理的要因が印象形成に影響を及ぼすことを示している。
著者
前川 亮 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.15-24, 2019-02-28 (Released:2019-03-21)
参考文献数
56

われわれは普段,無意識に他者の動作を模倣している.さらに,他者に模倣されることで相手によりよい印象を持つことが知られている.この被模倣による印象の向上効果は,手や足の動き,表情の変化,また瞳孔径の同期などで起きることが確認されている.一方,瞬目は映画鑑賞時やスピーチを聴くときに鑑賞者の間で同期することが知られており,瞬目においても模倣が生じることが推測されるが,実際に瞬目の模倣や被模倣の影響は調べられていない.そこで本研究では,他者の瞬目を模倣しているかどうか,そして瞬目の被模倣が模倣者の印象を改善するかどうかを調べた.実験では,ランダムに瞬目する画像を呈示し,画像の瞬目に対して参加者の模倣が生じるかどうかを解析した.また,参加者の瞬目に同期して瞬目する画像を呈示し,瞬目の被模倣が画像の印象に与える影響を調べた.結果,参加者は無意識に画像の瞬目と同期して瞬目をしており,さらに,参加者の瞬目を模倣した画像がより好感度が高いことがわかった.
著者
吉川 左紀子 乾 敏郎
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.175-178, 1986-08-30 (Released:2010-07-16)
参考文献数
6
被引用文献数
2

For use in experiments investigating semantic processing of nonverbal materials, 82 drawings of familiar objects are presented, along with their most common names, the mean ratings of image agreement, adequacy of complexity, and familiarity. Most concepts were exemplars from one of 10 familiar categories (animals, insects, vehicles etc.). Names and ratings were obtained from 81 undergraduates and graduate students. The moderate correlation (r=.40) was found between percentage of the most common name and image-agreement rating, but the other correlations were negligible. The mean ratings of three variables except adequacy of complexity were compared with those of Matsukawa (1983), obtained from Japanese subjects using Snodgrass and Vanderwart's (1980) drawings. The high correlation between familiarity of both studies (r=.88) indicates that this variable is not affected by visual characteristics of the particular stimulus set. The possible uses of the present stimulus set were suggested.
著者
乾 敏郎
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.135-135, 2005 (Released:2009-10-16)
著者
森口 佑介 上田 祥行 齋木 潤 坂田 千文 清河 幸子 加藤 公子 乾 敏郎
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第84回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.SS-031, 2020-09-08 (Released:2021-12-08)

これまでの実験心理学は,一人で課題に取り組む際の認知プロセスを明らかにしてきた。一方,近年,他者と一緒に同じ課題に取り組む(ジョイントアクション)場合における認知が,一人で取り組む場合とは異なる可能性が指摘されている。たとえば,一人で個別にフランカー課題に取り組む場合よりも,他者と一緒に取り組んだ場合に,フランカー効果が大きくなる。たが,依然として研究知見は十分ではなく,個別場面で明らかになった認知プロセスは,他者の存在によってどのように拡張されるのか,また,様々な課題にみられる効果が同じようなメカニズムに基づくのか,などは明らかではない。本シンポジウムでは,共同行為場面を扱う知覚(齋木・濱田),記憶(坂田),問題解決(清河),発達(加藤)の専門家による実験的研究を紹介いただき,実験心理学・認知神経科学者の乾から討論をいただきながら,これらの点について深めたい。
著者
乾 敏郎
出版者
公益社団法人 計測自動制御学会
雑誌
計測と制御 (ISSN:04534662)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.222-226, 1994-03-10 (Released:2009-11-26)
参考文献数
14
被引用文献数
1
著者
笹岡 貴史 乾 敏郎
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.7-12, 1999
参考文献数
8

景観の集合による物体の脳内表現を仮定した場合, 様々な要因による物体の景観の変化をどのように取り扱うかという問題を克服しなければならない.本研究では, この問題に対する手がかりとして「典型的景観」に注目し, 新奇物体を用いた2つの心理物理実験を行った.実験1では, 認識が容易で, かつ多くの被験者が典型的であると評定するような典型的景観が新奇物体において存在することが確認された.実験2では, 景観の典型性が, 汎化の大きさに与える影響を調べた.その結果, 典型的景観を記憶することにより, 物体の多くの景観を汎化できることが示された.この結果は, 典型的景観による物体の脳内表現を支持するものといえる.