- 著者
-
朝長 正徳
- 出版者
- 一般社団法人 日本老年医学会
- 雑誌
- 日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, no.6, pp.545-550, 1979-11-30 (Released:2009-11-24)
- 参考文献数
- 12
- 被引用文献数
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青斑核は, 脳幹におけるメラニン含有神経細胞よりなる核であり, 呼吸調節, 排尿反射, 循環調節, 睡眠覚醒の調節, 情動, 記憶などと関連した機能が考えられている. 本報告では, 老人脳につき, 青斑核の加齢に伴う変化を検討し, 種々な老年期変性神経疾患の際の青斑核の病変とその意義について考察を加えた. 対象は東京都養育院附属病院連続剖検脳より抽出し, 光顕・電顕的に検索した.1) 神経細胞数の変化: 変性神経疾患を有しない60歳より105歳までの老人脳60例について, 青斑核のほぼ中心部での横断面でみられた神経細胞数を計測し, 60歳未満の12例のそれと比較した結果, 60歳以上, 神経細胞数は漸減し, 80歳以上では54%の減少を示した.2) 神経原線維変化および Lewy 小体: 神経原線維変化は, 60~90歳代では10~20%にみられ, 100歳以上では100%にみられた. 電顕的には, 大脳皮質にみられるものと同じ twisted tubule 構造を示した. Lewy 小体は, 90歳以上で33%にみとめられた. Lewy 小体出現例では, 神経細胞数の減少の著しいものが多かった.3) 変性神経疾患における変化: パーキンソン病, 多系統変性症 (OPCA, SND), 老年痴呆で著明な神経細胞数減少がみられた. 神経原線維変化の多発する進行性核上性麻痺の2例では減数はみられなかった.4) 高血圧, 脳出血との関係: 神経細胞数と高血圧, 脳出血の有無との間に関連はみとめられなかった. Lewy 小体出現例では, 高血圧, 脳出血のないものが多かった.以上より, 老年者では青斑核の変化は著しく, また, 老年期の変性疾患で障害されることが多い. これらの事実は, 老年者および老年期変性疾患における, 睡眠異常を含めて, 種々の自律神経症状に関連して来るものと考えられる.