著者
米田 一成 竹下 晃音 緒方 美月 安田 伸 井越 敬司 木下 英樹
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.53-62, 2021 (Released:2021-09-08)
参考文献数
41

解糖系酵素であるグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)は代表的なムーンライティングプロテインとして知られている。我々は以前の研究で,GAPDHが腸ムチンやその糖鎖末端に発現しているABO式血液型抗原のA型およびB型抗原と結合することを明らかにしているが,糖鎖のどの部位に結合しているのかは不明なままであった。そこで,すでに明らかにしているLactiplantibacillus plantarum subsp. plantarum JCM 1149T由来リコンビナントGAPDH(rGAPDH)の結晶構造情報に基づいてA型血液型抗原結合部位の探索を行ったところ,サブユニット間の分子表面部分にリジン残基やアスパラギン酸残基がクラスターを形成しているキャビティー(空洞;357 Å2)があることを見出した。さらに,キャビティーの中心に位置する175番目のリジン残基(Lys175)がA型血液型抗原の結合に重要な役割を担うと予測した。そこで,DpnI法を用いて遺伝子工学的に部位特異変異導入を行い,Lys175を電荷を持たないアラニンに変異させたLys175Ala変異体であるgap(Lys175Ala)遺伝子を作製し,wild-typeと同様に発現と精製を行った。本酵素を用いて,A型血液型抗原との分子間相互作用をQuartz Crystal Microbalance (QCM);水晶振動子マイクロバランス法で測定した。その結果,wild-typeのΔFの平均値(-173 Hz)はLys175Ala変異体酵素のΔFの平均値(-103 Hz)の1.7倍高い値であることから,L. plantarum由来rGAPDHのLys175がA型血液型抗原の認識に重要な役割を担っていることを明らかにした。rGAPDHとA型血液型抗原の詳細な結合構造を解明するため,AutoDock Vinaを用いた分子ドッキングシミュレーションを行った結果,rGAPDHとA型血液型抗原との結合エネルギーは-6.3 kcal/molであった。三糖で構成されるA型血液型抗原との結合は,Gln312の主鎖のNHがN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)と水素結合しており,Lys175の側鎖がガラクトース(Gal)と水素結合していた。また,Asn311の側鎖がGalと水素結合しており,Asp255の側鎖がフコース(Fuc)と水素結合していることを明らかにした。
著者
木下 英樹 渡辺 真通 齋藤 忠夫
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.78-88, 2008-06-15 (Released:2009-09-10)
参考文献数
40

プロバイオティック乳酸菌は、宿主に対する様々な有益な生理的効果が報告されている。とくに、ヒト消化管への付着は、それらの諸作用を十分に発揮するために非常に重要な要素である。当研究室において、消化管ムチンの末端に発現している「血液型抗原」を認識する「血液型抗原認識性乳酸菌」が発見され、A型認識性レクチン様タンパク質としてSlpAが同定された。一方、病原菌(ピロリ菌など)も血液型抗原を認識することが知られており、多くの病原菌で血液型と感染発症の関連性が注目されている。最近、当研究室では強固にヒト大腸粘液層に結合していたLactobacillus plantarum LA 318株の菌体表層にグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)を見いだし、本酵素が血液型AおよびB抗原に結合することを発見した。また、結合には特徴的な血液型三糖構造が重要であることが判明し、GAPDHのN-末端側半分のNAD binding domainが付着に関与している可能性が示された。プロバイオティック乳酸菌の中でも、血液型付着能の特に高い選抜された「血液型乳酸菌」の利用により、将来的には血液型病原菌の競合的阻害や排除だけでなく、血液型抗原を同一レセプターとする食中毒原因菌や特定の腸疾患原因菌の排除を通して、各種疾病の予防や治療にも役立てられる可能性を確信している。
著者
木下 英樹 井本 瞬 須田 義人 石田 光晴
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.171-176, 2011 (Released:2014-03-15)
参考文献数
15

プロバイオティック乳酸菌の単離は現在でも積極的に行われており,効率的な方法が望まれる。本研究では MRS 寒天培地と mLBS 寒天培地を用いて乳酸桿菌を単離し,その選択性について比較した。単離試験の結果,乳酸桿菌の検出率は,MRS 寒天培地では59.4%,mLBS 寒天培地では75.0%であった。また,MRS 寒天培地で最も多く単離された Lb. sakei は,mLBS 寒天培地では 1 菌株のみしか生育できず,Lb. curvatus および Lb. rossiae は mLBS 寒天培地では全く生育できなかった。 L. plantarum, Lb. coryniformis, Lb. rhamnosus, Lb. gasseri, Lb. brevis, Lb. fermentum, Lb. alimentarius, Lb. paracasei および Lb. casei は,単離した全ての菌株が mLBS 寒天培地に良好な生育をみせた。 Lactobacillus 属以外の乳酸菌では,Leuconostoc 属,Weissella 属,Pediococcus 属が検出されたが,mLBS 寒天培地に生育できたのは Pediococcus 属だけだった。このように MRS 寒天培地は選択性が低く乳酸菌以外の様々な細菌も分離され,mLBS 寒天培地は選択性が高く乳酸桿菌でも生育できない菌株が存在することが明らかとなり,目的に応じた培地の選択が必要であると考えられた。