著者
齋藤 忠夫 北澤 春樹 川井 泰 西村 順子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

ヒト大腸に棲息するプロバイオティクスに対して、とくに硫酸基とシアル酸に対する腸管付着性の高い有用細菌を探索する方法を構築し、実際に多くの微生物を単離してライブラリー構築に成功した。大腸ムチンの血液型別に結合する血液型乳酸菌に続いて、世界で初めて血液型ビフィズス菌も発見した。実際に潰瘍性大腸炎(UC)の発症候補菌であるフソバクテリウム・バリウム(バリウム菌)が血液型抗原を認識結合することを発見し、血液型乳酸菌を投与することで腸内での競合阻害により原因菌を排除する予防医学的な可能性を見出すことが出来た。
著者
木村 一雅 北澤 春樹 齋藤 忠夫
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.88-101, 2018 (Released:2018-08-18)
参考文献数
36

GOSをはじめとするプレバイオティクスオリゴ糖はヒト消化管下部でビフィズス菌を優位に増加させ,便性をはじめとする腸内環境の改善に有用な働きをする。しかし,構造が異なる市販各種オリゴ糖製品がビフィズス菌によりどの程度利用されるのかについて,詳細な検討をした報告は見られない。そこで,乳糖を対照として,市販オリゴ糖類であるガラクトオリゴ糖(GOS),ラクトスクロース(LS),ゲンチオオリゴ糖(GEO),イソマルトオリゴ糖(IMO),ニゲロオリゴ糖(NOS),キシロオリゴ糖(XOS),フラクトオリゴ糖(FOS),長鎖フラクトオリゴ糖(Fib),およびFOSの構成オリゴ糖成分について,主要なヒト由来ビフィズス菌7菌種16菌株による増殖性と培地中のオリゴ糖構成糖質の消長をHPLCで解析した。 市販オリゴ糖のうち,対照に用いた乳糖およびGOS, LS, NOS, GEOの各オリゴ糖は被験ビフィズス菌16菌株すべてが高いkliett値を与え増殖した。一方FOSおよびFib,は B. breve の4菌株中2菌株, B. bifidum の4菌株すべてで生育が見られず,XOSは B. breve, B. bifidum, B. infantis の計10菌株すべてで生育が見られず, B. adolescentis, B. longum で生育の遅延が認められた。IMOは B. bifidum の4菌株中3菌株で生育が認められなかった。 FOSで,生育の見られなかった B. breve,B. bifidum について,FOSを構成するフラクトースおよびKes,Nisの利用性について検討したが,それらの6菌株はいずれも単糖のFruは利用できるが,Kes,Nisでは生育しなかった。 Glcを構成糖とするNGO,GEOは,オリゴ糖中に多量の単糖を含有しており,高いklett値を与えた菌株の培養においても培養上清中にはDP2以上のオリゴ糖成分が残存した。一方,IMOについては高い生育の見られた菌株においては,単糖およびDP3のオリゴ糖成分が顕著に減少した。 本研究の結果から,ビフィズス菌の高い増殖性を示したオリゴ糖は,単糖よりもDP2,DP3以上の糖鎖が選択的に利用される傾向が見られた。またXOSやFOSの培養上清中の残存糖質の解析では,klett値が増加した菌株では顕著な単糖の増加が見られた。 GOSやLSは乳糖の骨格にGalまたはFruが結合することで難消化性となり大腸に到達する。大腸内で糖鎖が分解し乳糖が生成すると,それはビフィズス菌の良好な炭素源となる。 プレバイオティクスとしてのオリゴ糖の大腸内での機能は,共生微生物による糖鎖の分解や生成する糖鎖の利用性も重要な要素と考えられた。
著者
木下 英樹 渡辺 真通 齋藤 忠夫
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.78-88, 2008-06-15 (Released:2009-09-10)
参考文献数
40

プロバイオティック乳酸菌は、宿主に対する様々な有益な生理的効果が報告されている。とくに、ヒト消化管への付着は、それらの諸作用を十分に発揮するために非常に重要な要素である。当研究室において、消化管ムチンの末端に発現している「血液型抗原」を認識する「血液型抗原認識性乳酸菌」が発見され、A型認識性レクチン様タンパク質としてSlpAが同定された。一方、病原菌(ピロリ菌など)も血液型抗原を認識することが知られており、多くの病原菌で血液型と感染発症の関連性が注目されている。最近、当研究室では強固にヒト大腸粘液層に結合していたLactobacillus plantarum LA 318株の菌体表層にグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)を見いだし、本酵素が血液型AおよびB抗原に結合することを発見した。また、結合には特徴的な血液型三糖構造が重要であることが判明し、GAPDHのN-末端側半分のNAD binding domainが付着に関与している可能性が示された。プロバイオティック乳酸菌の中でも、血液型付着能の特に高い選抜された「血液型乳酸菌」の利用により、将来的には血液型病原菌の競合的阻害や排除だけでなく、血液型抗原を同一レセプターとする食中毒原因菌や特定の腸疾患原因菌の排除を通して、各種疾病の予防や治療にも役立てられる可能性を確信している。
著者
郭 暁艶 上西 寛司 川井 泰 安田 成美 春日 元気 竹澤 志織 瀬戸 泰幸 西村 順子 北澤 春樹 齋藤 忠夫
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.129-135, 2014

ガセリシン T (GT)は,ヒト腸管より検出される乳酸桿菌 <i>Lactobacillus gasseri</i> により生産される二成分性バクテリオシンである。また,当研究室で分離したヒト乳児由来の GT 生産 LA158株を含む <i>L. gasseri</i> は,改良乳培地で良好に生育するものの,乳中に豊富に存在する二価金属イオンにより LA158株の GT 生産は抑制されることが知られている。本研究により,GT 生産株として最初に見出された,抗肥満効果を有する <i>L. gasseri</i> SBT2055は,MRS 培地にて二価金属イオン(Mg<sup>2+</sup>,Ca<sup>2+</sup>, Mn<sup>2+</sup>, Fe<sup>2+</sup> および Zn<sup>2+</sup>)の添加により濃度依存的に GT 生産が抑制されることが判ったが,LA158株における抑制濃度(Mg<sup>2+</sup> および Ca<sup>2+</sup>)とは異なっていた。また,200 mM の二価金属イオン添加では,良好に生育するにもかかわらず,GTの生産は完全に消失した。さらに,二価金属イオンのキレート剤で食品添加物であるクエン酸三ナトリウム(TSC)の添加によりGT 生産は回復した。以上の結果から,ヨーグルト製造においてスターターの生育を阻害せずに,GT 生産性のプロバイオティック <i>L. gasseri</i> 株を効果的に添加・利用出来るものと考えられた。