著者
木島 梨沙子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

気象庁気象研究所の高解像度全球気候モデル(GCM20)による現在気候再現ならびに100年後予測の出力時間雨量を用いて,100年確率降水量といった異常降雨指標の解析を行った.初めにGCM20による異なる時間スケールの極端降雨の再現性を検証し,その上で将来気候で起こりうる,時間スケールの異なる極端降雨現象の変化とその変化が洪水へ与える影響の評価を行った.具体的には,GCM20から推定された異なる時間スケールD(D=1,7,15日)の年最大雨量ならびにその100年確率降雨量の再現性を,全球雨量計観測情報の日雨量データを用いてさまざまな地域で検証を行った.その結果,日本やアメリカといった中・高緯度の国においてはD=1日スケールでの年最大雨量の再現性は良く,100年確率降雨の推定精度も良い一方で,アジアの低緯度域における極値降雨の評価には,D=15日程度の時間積分値が必要であることを明らかにした.またアジアモンスーン域を対象として,異なる時間スケールD(D=1,3,6,12時間,1,7,15日)の100年確率降雨量の将来変化を解析した.また,将来変化については100kmの空間平均値を用いた評価方法を提案し,多くの領域で将来変化の顕著なトレンドを抽出することに成功した.さらに,年最大D雨量の生起する季節(月)の変化にも着目し,降雨の時期の移動が将来の洪水に及ぼす影響を検討した.極値降雨が生起する時期についてはメコン河流域において顕著な将来変化を認め,将来,年最大15日雨量の生起する時期が9月から8,月に早まる傾向にあることを示し,将来,メコン河下流域の洪水のピークを早めることに寄与する可能性があることを提示した.またその15日雨量の将来変化をもたらした要因として,気象場の解析を行った.