著者
木崎 翠
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 = The journal of social science : 東京大学社会科学研究所紀要 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.11-34, 2012

中国政府は現在、国内消費拡大による経済成長牽引を政策課題としており、とりわけ低所得層の所得水準底上げが重点課題とされている。そしてその主要な手段の一つが、賃金をはじめとする従業員報酬内容に対する政策的介入である。本稿では現段階の中国におけるそのような政策に関し、最低賃金制度を主な対象に制度内容と政策効果について考察を行う。報酬水準の底上げを狙う現在の政策は、指令経済期に淵源を持つ労働者保護的な政策傾向とともに雇用者の負担増を加速しつつあり、労働力供給・外需の急速な変化にも同時に直面している産業に厳しい課題を与える結果となっている。The Chinese government now considers raising the income level of low-income population as one of its top priority issues. And intervention to employee reward such as wage is used one of their main policy tools. In this paper, contents and effects of the minimum wage system and other policy instruments in China are considered. Those policies along with some kinds of labor protecting policy derived from command economy system in the past are expected to increase the burden of employers, and may give problems to the industry which at the same time is confronting worsening labor force supply and external demand.特集 東アジアの福祉システム : 所得保障と雇用保障
著者
末廣 昭 中村 圭介 丸川 知雄 上村 泰裕 株本 千鶴 木崎 翠
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は東アジア7カ国・地域(中国、台湾、韓国、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア)における国家の社会保障制度の仕組みと企業内福祉の実態を比較することを目的とした。国家の社会保障制度については、(1)年金制度、(2)健康保険、(3)労災補償、(4)失業保険の4分野に注目し、企業内福祉については、(1)有給休暇、(2)社宅、食事手当、子弟の学資補助、退職金制度などの福利厚生の提供の有無、(3)労働総費用に占める法定福利と法定外福利の比率、(4)企業内福祉に対する経営側の方針、の4つを主な調査対象とした。企業内福祉に関する国際比較は初めての試みである。平成17年度は文献調査と予備的な現地調査を実施し、その成果として『東アジアの福祉システムの行方:論点の整理とデータ集』(2006年2月、398頁)を刊行した。次いで、平成18年度は企業アンケート調査を実施し、約800社について回答を得た。平成19年度には回収した企業アンケートの集計とデータ・べースを作成し、平成20年2月に、372ページの最終報告書『東アジアの社会保障制度と企業内福祉:7カ国・地域の国際比較』をとりまとめた。調査から得られた知見は以下のとおりである。(1)有給休暇については、各国・地域とも労働法が定める有給休暇の枠内で提供しているが、各国に固有の休暇が存在すること。(2)企業が提供する福利厚生については、モノ志向ではなく金銭志向(補助金の支出)が強いこと、韓国の場合には、子弟の学資補助が際立って高かったこと。(3)法定福利の現金支給に対する比率は、中国、シンガポール、韓国、台湾と続き、タイ・インドネシアが低かったこと。他方、法定外福利の比率は韓国・台湾が高く、シンガポール、中国が低かった。(4)企業内福祉への方針は、いずれの国・地域でも9割以上が重視する意見を示したが、賃金・ボーナスをより重視すべきという質問には国・地域でばらつきが見られた。