著者
末廣 昭
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.11-28, 2014-05-31 (Released:2019-10-10)
参考文献数
25
被引用文献数
1

東アジア福祉システム論は,欧米型福祉システムとの大きな違いとして, 福祉国家の後進性を指摘し,逆に,家族と企業が福祉サービスの中で重要 かっ補完的な役割を果たしていると主張してきた.ただし,介護などに占 める家族の役割については,本格的な国際比較が開始されたものの,企業 福祉そのものについては,実証的な研究は皆無に近い.そこで,私たち共 同研究チームは,中国,韓国,台湾,タイ,シンガポール,インドネシア の6カ国・地域を取り上げ, 2006年に企業福祉に関する統一的な質問票 調査を実施し,計804社から回答を得た実施した調査項目は,経営側の 企業福祉観,企業内福利厚生の有無(社宅,食費補助,送迎バスなど24 項目),労働費の構成(法定福利費,法定外福利費,退職金の比率)など である. 企業調査の結果, 6カ国・地域の企業福祉に共通する特徴を見出すこと はできなかった「企業福祉を重視する」という見解は共通していたものの, 重視する理由や成果主義的な賃金とのトレードオフに関する意見は,国に よってばらつきが見られたからである.また,労働費の構成は,①日本・ 韓国・台湾,②シンガポール・マレーシア,③タイ・インドネシア,④中 国の4つのグループに分かれた.こうした労働費の構成の違いは,各国の 経路依存性, ILOなど国際機関の役割,企業の戦略の違いによるもので, 東アジア福祉システム論が主張する儒教主義や経営家族主義といった地域 固有の特徴は確認できないというのが,本稿の結論である.
著者
末廣 昭 中村 圭介 丸川 知雄 上村 泰裕 株本 千鶴 木崎 翠
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は東アジア7カ国・地域(中国、台湾、韓国、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア)における国家の社会保障制度の仕組みと企業内福祉の実態を比較することを目的とした。国家の社会保障制度については、(1)年金制度、(2)健康保険、(3)労災補償、(4)失業保険の4分野に注目し、企業内福祉については、(1)有給休暇、(2)社宅、食事手当、子弟の学資補助、退職金制度などの福利厚生の提供の有無、(3)労働総費用に占める法定福利と法定外福利の比率、(4)企業内福祉に対する経営側の方針、の4つを主な調査対象とした。企業内福祉に関する国際比較は初めての試みである。平成17年度は文献調査と予備的な現地調査を実施し、その成果として『東アジアの福祉システムの行方:論点の整理とデータ集』(2006年2月、398頁)を刊行した。次いで、平成18年度は企業アンケート調査を実施し、約800社について回答を得た。平成19年度には回収した企業アンケートの集計とデータ・べースを作成し、平成20年2月に、372ページの最終報告書『東アジアの社会保障制度と企業内福祉:7カ国・地域の国際比較』をとりまとめた。調査から得られた知見は以下のとおりである。(1)有給休暇については、各国・地域とも労働法が定める有給休暇の枠内で提供しているが、各国に固有の休暇が存在すること。(2)企業が提供する福利厚生については、モノ志向ではなく金銭志向(補助金の支出)が強いこと、韓国の場合には、子弟の学資補助が際立って高かったこと。(3)法定福利の現金支給に対する比率は、中国、シンガポール、韓国、台湾と続き、タイ・インドネシアが低かったこと。他方、法定外福利の比率は韓国・台湾が高く、シンガポール、中国が低かった。(4)企業内福祉への方針は、いずれの国・地域でも9割以上が重視する意見を示したが、賃金・ボーナスをより重視すべきという質問には国・地域でばらつきが見られた。
著者
古田 元夫 山影 進 佐藤 安信 田中 明彦 末廣 昭 池本 幸生 白石 昌也 栗原 浩英 レ ボ・リン グエン ズイ・ズン グエン タイン・ヴァン 伊藤 未帆
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、ベトナムをはじめとするASEAN新規加盟国の地域統合の動態を、東西回廊など、これら諸国を結ぶ自動車道路を実際に走行して観察しつつ、ベトナムのダナン、バンメトート、ラオスのビエンチャンおよび東京でワークショップを開催して、現地の行政担当者や研究者と意見を交換した。こうした取り組みを通じて、ベトナムの東南アジア研究所と研究者と、この地域統合の中でベトナムが果たしている役割、それと日本との関係について意見を交換し、その成果をベトナムと日本で報告書にまとめて刊行した。