著者
川上 浩 朴 眩泰 朴 晟鎭 青栁 幸利
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.145-153, 2014 (Released:2014-12-21)
参考文献数
29
被引用文献数
1

牛乳・乳製品の摂取が高齢者の健康に及ぼす影響については,これまで骨粗鬆症や高血圧等の生活習慣病の予防の観点から多くの研究がなされてきた。また,サルコペニア予防を目的としたレジスタンス運動時の筋肉の維持向上において,乳清タンパク質等の摂取が有用であることも報告されている。しかしながら,通常の日常生活における身体活動と,牛乳・乳製品の摂取との関係を中心に解析した研究報告はほとんどみられない。そこで本研究では,健康な高齢者における牛乳の摂取と,日常生活での身体活動量,歩行速度,および体組成等との関連について調べ,牛乳摂取の有用性を明らかにすることを目的とした。 認知症や寝たきり等の症状を有さない65歳以上の高齢者179名(男性88名,女性91名)を対象に,食物摂取頻度調査票を用いて栄養状態および牛乳摂取量を把握した。身体活動については,一軸加速度センサー内蔵の身体活動量計を用いて,歩数,身体活動強度,および身体活動時間を毎日24時間計測した。歩行速度(平均値・最大値)は,全長11 m の水平歩行路上の移動時間から算出した。筋量,脂肪量,および水分量等は,マルチ周波数体組成計で全身および部位別に測定した。骨強度は,超音波骨評価装置で右踵骨を測定した変数から,音響的骨評価値を算出した。全対象者を低牛乳摂取グループ(200 mL 未満/日)85名,および高牛乳摂取グループ(200 mL 以上/日)94名に分けた。日常生活における身体活動量,歩行速度,筋量,骨強度,および血清アルブミン濃度に統計学的な有意差(p<0.05)がみられ,高牛乳摂取グループで高値を示した。特に,筋量は男性において,骨強度は女性において牛乳摂取量との相関が高かった。また,牛乳摂取量と身体活動の相乗効果を判定するために,多要因ロジスティック回帰分析でサルコペニア発症相対危険度のオッズ比を算出したところ,「低牛乳摂取+低身体活動」グループは,他の 3 グループ(「高牛乳摂取+高身体活動」「高牛乳摂取+低身体活動」「低牛乳摂取+高身体活動」)に比べ,危険度が有意に高かった。以上の結果から,高齢者における牛乳の摂取は,身体活動や体組成の向上に有用である可能性が示唆された。
著者
李 成喆 島田 裕之 朴 眩泰 李 相侖 吉田 大輔 土井 剛彦 上村 一貴 堤本 広大 阿南 祐也 伊藤 忠 原田 和弘 堀田 亮 裴 成琉 牧迫 飛雄馬 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0161, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年の研究によると,心筋こうそく,脳卒中など突然死を招く重大な病気は腎臓病と関連していることが報告されている。クレアチニンは腎臓病の診断基準の一つであり,血漿Aβ40・42との関連が示されている。また,糖尿病を有する人を対象とした研究ではクレアチンとうつ症状との関連も認められ,うつ症状や認知症の交絡因子として検討する必要性が指摘された。しかし,少人数を対象とした研究や特定の疾病との関係を検討した研究が多半数であり,地域在住の高齢者を対象とした研究は少ない。さらに,認知機能のどの項目と関連しているかについては定かでない。そこで,本研究では地域在住高齢者を対象にクレアチニンが認知機能およびうつ症状とどのように関連しているかを明らかにし,認知機能の低下やうつ症状の予測因子としての可能性を検討した。【方法】本研究の対象者は国立長寿医療研究センターが2011年8月から実施した高齢者健康増進のための大府研究(OSHPE)の参加者である。腎臓病,パーキンソン,アルツハイマー,要介護認定者を除いた65才以上の地域在住高齢者4919名(平均年齢:72±5.5,男性2439名,女性2480名,65歳から97歳)を対象とした。認知機能検査はNational Center for Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Tool(NCGG-FAT)を用いて実施した。解析に用いた項目は,応答変数としてMini-Mental State Examination(MMSE),記憶検査は単語の遅延再生と物語の遅延再認,実行機能として改訂版trail making test_part A・B(TMT),digitsymbol-coding(DSC)を用いた。また,うつ症状はgeriatric depression scale-15項目版(GDS-15)を用いて,6点以上の対象者をうつ症状ありとした。説明変数にはクレアチニン値を3分位に分け,それぞれの関連について一般化線形モデル(GLM)を用いて性別に分析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の主旨・目的を説明し,書面にて同意を得た。【結果】男女ともにクレアチニンとMMSEの間には有意な関連が認められた。クレアチニン値が高い群は低い群に比べてMMSEの23点以下への低下リスクが1.4(男性)から1.5(女性)倍高かった。また,男性のみではあるが,GDSとの関連においてはクレアチニン値が高い群は低い群に比べてうつ症状になる可能性が高かった1.6倍(OR:1.62,CI:1.13~2.35)高かった。他の調査項目では男女ともに有意な関連は認められなかった。【考察】これらの結果は,クレアチニン値が高いほど認知機能の低下リスクが高くなる可能性を示唆している。先行研究では,クレアチニン値は血漿Aβ42(Aβ40)との関連が認められているがどの認知機能と関連があるかについては確認できなかった。本研究では先行研究を支持しながら具体的にどの側面と関連しているかについての検証ができた。認知機能の下位尺度との関連は認められず認知機能の総合評価指標(MMSE)との関連が認められた。しかし,クレアチニンとうつ症状においては男性のみで関連が認められたことや横断研究であるため因果関係までは説明できないことに関してはさらなる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】老年期の認知症は発症後の治療が非常に困難であるため,認知機能が低下し始めた中高齢者をいち早く発見することが重要であり,認知機能低下の予測因子の解明が急がれている。本研究ではクレアチニンと認知機能およびうつ症状との関連について検討を行った。理学療法学研究においてうつや認知症の予防は重要である。今回の結果は認知機能の低下やうつ症状の早期診断にクレアチニンが有効である可能性が示唆され,理学療法研究としての意義があると思われる。
著者
島田 裕之 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 吉田 大輔 堤本 広大 阿南 祐也 上村 一貴 伊藤 忠 朴 眩泰 李 相侖 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101181, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor: BDNF)は、標的細胞表面上にある特異的受容体TrkBに結合し、神経細胞の発生、成長、修復に作用し、学習や記憶において重要な働きをする神経系の液性蛋白質である。BDNFの発現量はうつ病やアルツハイマー病患者において減少し、運動により増加することが明らかとなっている。血清BDNFは主に脳におけるBDNF発現を反映していると考えられているが、その役割や意義は明らかとされていない。この役割を明らかにすることで、理学療法における運動療法が脳機能を向上させる機序をBDNFから説明することが可能となる。本研究では、高齢者を対象に血清BDNFを測定し、その加齢変化や認知機能との関連を検討し、血清BDNFが果たす役割を検討した。【方法】分析に用いたデータは、国立長寿医療研究センターが2011 年8 月〜2012 年2 月に実施した高齢者健康増進のための大府研究(OSHPE)によるものである。全対象者は5,104 名であり、BDNFの測定が可能であった対象者は5,021 名であった。アルツハイマー病、うつ病、パーキンソン病、脳卒中の既往歴を有する者、要介護認定を受けていた者、基本的日常生活動作が自立していない者を除外した65 歳以上の地域在住高齢者4,539 名(平均年齢71.9 ± 5.4 歳、女性2,313 名、男性2,226名)を分析対象とした。血清BDNFは−80 度にて冷凍保存後ELISA法により2 回測定し、平均値を代表値とした。認知機能検査はNCGG-FATを用いて実施した。記憶検査として単語の遅延再生と物語の遅延再認、遂行機能として改訂版trail making test B(TMT)とsymbol digit substitution task(SDST)を測定した。分析は、5 歳階級毎に対象者を分割し年代間のBDNFの差を一元配置分散分析および多重比較検定にて比較した。BDNFと認知機能検査の関連を検討するため、認知機能低下の有無で対象者を分類し、t検定にてBDNFを比較した。認知機能の低下は、年代別平均値から1.5 標準偏差を除した値をカットポイントとした。また、認知機能に影響する年齢、性別、教育年数を含んだ多重ロジスティック回帰分析を実施した。従属変数は認知機能低下の有無とし、独立変数は年齢、性別、教育年数、BDNFとした。BDNFはピコ単位での微量測定値であったため4 分位でカテゴリ化して分析を実施した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で、ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の主旨・目的を説明し、書面にて同意を得た。【結果】年齢階級別のBDNF(平均 ± 標準誤差)は、65 〜69 歳が21.8 ± 0.1 ng / ml、70 〜74 歳が20.9 ± 0.1 ng / ml、75 〜79 歳が20.5 ± 0.2 ng / ml、80 歳以上が19.6 ± 0.3 ng / mlとなり、加齢とともに有意な低下を認めた(F = 24.8, p < 0.01)。多重比較検定の結果、70 〜74 歳と75 〜79 歳間以外の比較では、すべて有意差を認めた。認知機能低下の有無によるBDNFの比較では、単語再生、TMT、SDST(すべてp < 0.01)において有意に認知機能低下者のBDNFが低値を示した。多重ロジスティック回帰分析では、BDNFはSDSTと有意なトレンドを認め(p < 0.01)、Q(4 24,400 pg / ml)に対してQ(1 17,400 pg / ml)のSDST低下に対するオッズ比は1.6(95%信頼区間: 1.2-2.2, p < 0.01)であった。その他の項目に有意差は認められなかった。【考察】PhillipsらはBDNFmRNAがアルツハイマー病患者の海馬において減少していることを明らかとし、BDNFの減少が病態成立に対して何らかの役割を持つと報告した。運動の実施は海馬におけるBDNFやTrkB受容体の発現量を上昇させることが明らかにされている。また、Eriksonらは1 年間の有酸素運動が海馬の容量を増加させ、その変化量と血中BDNFは正の相関をすることを明らかにした。しかし、血中BDNFの研究は少なく、加齢変化や認知機能との関連性は十分明らかとされていなかった。本研究の結果から、血清BDNFは加齢とともに低下を示し、各種認知機能低下との関連を認めた。とくにSDSTとは、年齢、性別、教育年数と独立して関連を認めたため、記憶以外の機能に関してBDNFが何らかの役割を持つのかもしれない。今後は介入前後のBDNFの変化と各種認知機能の変化との関連を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】今後の日本の後期高齢者数の増大は、認知症者の増大を引き起こし、その根治的治療法がない現時点において、運動による予防対策は重要である。理学療法士は、その対策の中核的存在になるべきであり、運動と脳機能改善に関連する知見を集積することは理学療法にとって重要な役割を持つといえる。