- 著者
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土井 剛彦
牧迫 飛雄馬
堤本 広大
中窪 翔
牧野 圭太郎
堀田 亮
鈴木 隆雄
島田 裕之
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.1520, 2017 (Released:2017-04-24)
【はじめに,目的】歩行能力低下は軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)や認知症を有する高齢者の問題点の一つとして認識されている。MCIは,認知症を発症するリスクが高い一方で,健常への改善も認められるため,認知症予防ひいては介護予防の対象として着目すべきであると考えられている。しかし,MCI高齢者において歩行速度低下を伴う場合に,認知症の発症リスクが増加するかについては未だ明らかにされていない。本研究は,縦断研究を実施し,歩行速度低下が認知症のリスクにどのような影響を与えるかをMCIに着目して検討することを目的とした。【方法】本研究は,National Center for Geriatrics and Gerontology-Study of Geriatric Syndromesの参加者の中から,2011年度に実施した調査に参加した65歳以上の者とし,ベースラインにおいて認知症,パーキンソン病,脳卒中の病歴がある者,MMSEが24点未満の者,診療情報が得られない者を除外した3749名を対象とした。ベースラインにて測定した歩行速度,認知機能,一般特性,服薬数,Geriatric Depression Scale,身体活動習慣に加え,医療診療情報から得られる追跡期間中の認知症の発症をアウトカムとした。歩行が1.0m/s未満の場合を歩行速度低下とし,認知症ではなく日常生活が自立し全般的認知機能は保たれているが,NCGG-FATによる認知機能評価で客観的な認知機能低下を認めた者をMCIとした。【結果】対象者3749名(平均年齢72歳,女性53%)を,歩行速度低下とMCIのいずれにも該当しない群(control群:n=2608),歩行速度低下のみを有する群(SG群:n=358),MCIのみを有する群(MCI群:n=628),歩行速度低下とMCIの両方を有する群(MCI+SG群:n=155)に群分けした。追跡期間中(平均追跡期間:42.7ヶ月)に認知症を発症した者は168名であった。目的変数に認知症の発症,説明変数に歩行速度とMCIによる群要因を設定し,その他の測定項目を共変量として調整した生存分析を実施した結果,control群に比べ,SG群(HR:1.12,95%CI:0.67-1.87)は認知症の発症との有意な関係は認めなかったが,MCI群(HR:2.05,95%CI:1.39-3.01)ならびにMCI+SG群(HR:3.49,95%CI:2.17-5.63)は認知症の発症と有意な関係性を有していた。【結論】MCI高齢者における歩行能力低下は認知症のリスクを増加させることが明らかになった。高齢者が認知機能障害を有する場合には,認知機能だけではなく歩行能力を評価し,適切なリスク評価を考慮して介入を行う必要があると考えられる。