著者
土井 剛彦
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-6, 2022-03-01 (Released:2022-03-30)
参考文献数
39

健康寿命延伸のために,フレイルや認知症の対策が重要であり,理学療法士を含めた専門職が果たす役割に期待が寄せられている。そのような状況において,フレイル,認知症に対して適切に理解することが求められる。フレイルの評価として,身体的な側面だけでなく社会的な側面や認知機能にも着目し,包括的に高齢者の状態を把握することが求められる。認知症については,認知機能評価を行い,状態に応じた対応が求められ,mild cognitive impairment(MCI)は積極的な介入が求められる対象である。フレイルに対する介入としては,運動を中心とした方法が推奨されており,認知機能低下抑制に対しても運動は実施すべき介入方法の一つとして考えられている。高齢者を対象に,運動介入や身体活動促進をおこなうことで身体機能にポジティブな効果がもたらされることは広く知られているところである。また,身体機能や身体活動と認知機能の関連性を明らかにすべく,疫学研究,脳画像研究や介入研究など幅広く検討がなされてきた。これらの内容を適切に理解することで,専門職がフレイル,認知症対策により積極的に関わることにつながると考えられる。
著者
牧迫 飛雄馬 島田 裕之 土井 剛彦 堤本 広大 堀田 亮 中窪 翔 牧野 圭太郎 鈴木 隆雄
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.197-206, 2017 (Released:2017-06-20)
参考文献数
31
被引用文献数
2

【目的】地域在住高齢者に適するようにShort Physical Performance Battery(以下,SPPB)算出方法の修正を試みた。【方法】高齢者4,328 名をSPPB(0 ~12 点)で評価し,歩行速度と椅子立ち座りは対象者の測定値(四分位)を基に,立位バランスは立位保持の出来高によって配点した地域高齢者向けのSPPB community-based score(以下,SPPB-com)(0 ~10 点)を算出し,24 ヵ月の要介護発生との関連を調べた。【結果】対象者の78.7% でSPPB が,10.5% でSPPB-com が満点であった。SPPB-com が4 点以下で要支援・要介護発生率が高く(12.8%),SPPB-com,年齢,女性,MMSE が要支援・要介護発生と有意に関連していた。【結論】SPPB を再得点化したSPPB-com は地域在住高齢者の要支援・要介護リスクを把握する指標として有益となることが示唆された。
著者
牧迫 飛雄馬 島田 裕之 土井 剛彦 堤本 広大 堀田 亮 中窪 翔 牧野 圭太郎 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11253, (Released:2017-04-22)
参考文献数
31
被引用文献数
2

【目的】地域在住高齢者に適するようにShort Physical Performance Battery(以下,SPPB)算出方法の修正を試みた。【方法】高齢者4,328 名をSPPB(0 ~12 点)で評価し,歩行速度と椅子立ち座りは対象者の測定値(四分位)を基に,立位バランスは立位保持の出来高によって配点した地域高齢者向けのSPPB community-based score(以下,SPPB-com)(0 ~10 点)を算出し,24 ヵ月の要介護発生との関連を調べた。【結果】対象者の78.7% でSPPB が,10.5% でSPPB-com が満点であった。SPPB-com が4 点以下で要支援・要介護発生率が高く(12.8%),SPPB-com,年齢,女性,MMSE が要支援・要介護発生と有意に関連していた。【結論】SPPB を再得点化したSPPB-com は地域在住高齢者の要支援・要介護リスクを把握する指標として有益となることが示唆された。
著者
李 成喆 島田 裕之 朴 眩泰 李 相侖 吉田 大輔 土井 剛彦 上村 一貴 堤本 広大 阿南 祐也 伊藤 忠 原田 和弘 堀田 亮 裴 成琉 牧迫 飛雄馬 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0161, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年の研究によると,心筋こうそく,脳卒中など突然死を招く重大な病気は腎臓病と関連していることが報告されている。クレアチニンは腎臓病の診断基準の一つであり,血漿Aβ40・42との関連が示されている。また,糖尿病を有する人を対象とした研究ではクレアチンとうつ症状との関連も認められ,うつ症状や認知症の交絡因子として検討する必要性が指摘された。しかし,少人数を対象とした研究や特定の疾病との関係を検討した研究が多半数であり,地域在住の高齢者を対象とした研究は少ない。さらに,認知機能のどの項目と関連しているかについては定かでない。そこで,本研究では地域在住高齢者を対象にクレアチニンが認知機能およびうつ症状とどのように関連しているかを明らかにし,認知機能の低下やうつ症状の予測因子としての可能性を検討した。【方法】本研究の対象者は国立長寿医療研究センターが2011年8月から実施した高齢者健康増進のための大府研究(OSHPE)の参加者である。腎臓病,パーキンソン,アルツハイマー,要介護認定者を除いた65才以上の地域在住高齢者4919名(平均年齢:72±5.5,男性2439名,女性2480名,65歳から97歳)を対象とした。認知機能検査はNational Center for Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Tool(NCGG-FAT)を用いて実施した。解析に用いた項目は,応答変数としてMini-Mental State Examination(MMSE),記憶検査は単語の遅延再生と物語の遅延再認,実行機能として改訂版trail making test_part A・B(TMT),digitsymbol-coding(DSC)を用いた。また,うつ症状はgeriatric depression scale-15項目版(GDS-15)を用いて,6点以上の対象者をうつ症状ありとした。説明変数にはクレアチニン値を3分位に分け,それぞれの関連について一般化線形モデル(GLM)を用いて性別に分析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の主旨・目的を説明し,書面にて同意を得た。【結果】男女ともにクレアチニンとMMSEの間には有意な関連が認められた。クレアチニン値が高い群は低い群に比べてMMSEの23点以下への低下リスクが1.4(男性)から1.5(女性)倍高かった。また,男性のみではあるが,GDSとの関連においてはクレアチニン値が高い群は低い群に比べてうつ症状になる可能性が高かった1.6倍(OR:1.62,CI:1.13~2.35)高かった。他の調査項目では男女ともに有意な関連は認められなかった。【考察】これらの結果は,クレアチニン値が高いほど認知機能の低下リスクが高くなる可能性を示唆している。先行研究では,クレアチニン値は血漿Aβ42(Aβ40)との関連が認められているがどの認知機能と関連があるかについては確認できなかった。本研究では先行研究を支持しながら具体的にどの側面と関連しているかについての検証ができた。認知機能の下位尺度との関連は認められず認知機能の総合評価指標(MMSE)との関連が認められた。しかし,クレアチニンとうつ症状においては男性のみで関連が認められたことや横断研究であるため因果関係までは説明できないことに関してはさらなる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】老年期の認知症は発症後の治療が非常に困難であるため,認知機能が低下し始めた中高齢者をいち早く発見することが重要であり,認知機能低下の予測因子の解明が急がれている。本研究ではクレアチニンと認知機能およびうつ症状との関連について検討を行った。理学療法学研究においてうつや認知症の予防は重要である。今回の結果は認知機能の低下やうつ症状の早期診断にクレアチニンが有効である可能性が示唆され,理学療法研究としての意義があると思われる。
著者
牧迫 飛雄馬 島田 裕之 吉田 大輔 阿南 祐也 伊藤 忠 土井 剛彦 堤本 広大 上村 一貴 Jennifer S. BRACH 鈴木 隆雄
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.87-95, 2013-04-20 (Released:2018-04-12)
参考文献数
41

【目的】日本語版-改訂Gait Efficacy Scale(mGES)の信頼性と妥当性を検証することを目的とした。【方法】地域在住高齢者240名を対象とした。そのうちの31名については,自記式による日本語版mGESの評価を2回実施した(評価間隔14〜20日間)。日本語版mGESの妥当性を検証するために,運動機能(chair-stand test,片脚立位時間,通常歩行速度,6分間歩行距離),生活空間,転倒恐怖感との関連を調べた。【結果】日本語版mGESは高い再検査信頼性を示し(級内相関係数[2,1]=0.945,95%信頼区間0.891〜0.973),すべての運動機能および生活空間と有意な相関関係を認めた。従属変数を転倒恐怖感の有無,独立変数を性別,各運動機能,生活空間,日本語版mGES得点としたロジスティック回帰分析の結果,転倒恐怖感と有意な関連を認めた項目は,性別(女性),通常歩行速度,日本語版mGES得点であった。【結論】高齢者における歩行状態の自信の程度を把握する指標として,日本語版mGESは良好な信頼性および妥当性を有する評価であることが確認された。
著者
堤本 広大 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 中窪 翔 牧野 圭太郎 島田 裕之 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1499, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】認知症の前駆症状とされる軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)では,客観的な認知機能が低下していることが定義とされ,灰白質容量が低下していることが報告されている。認知機能検査の中でも,遂行機能と灰白質容量との関係は多数報告されており,遂行機能が低下している高齢者ほど灰白質容量が低下していることが明らかとなってきている。しかし,MCI高齢者における遂行機能と灰白質容量との関連については議論の余地があり,遂行機能については下位機能が存在するため,灰白質容量低下に関連する下位機能を明らかにすることで,MCI高齢者の早期発見の一助となると考えられる。そこで,本研究では,MCI高齢者における灰白質容量と遂行機能の下位機能検査との関連を横断的に検討する。【方法】対象は,MCIに該当した高齢者83名(平均75.4±6.8歳)とした。遂行機能の下位機能検査として,注意の切り替え機能(Trail Making Test(TMT)),ワーキングメモリ(Digit Span(DS)),および選択的注意・抑制機能(Stroop test(ST))を実施した。灰白質容量の計測については,MRI装置(Magnetom Avanto,Siemens社製)を用いて撮像を行い,FSL(FMRIB's Software Library,Version 5.0)を用いて全脳における灰白質容量を算出した。統計解析では,灰白質容量と各遂行機能との相関関係を調べるためにPearsonの相関係数を算出した。その後,有意な相関関係が認められた遂行機能検査を独立変数とし,従属変数に灰白質容量,共変量に年齢,性別,body mass index,教育歴,mini-mental status examinationスコアを投入した重回帰分析を実施した。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】遂行機能の中で,灰白質容量との有意な相関関係が認められたのはTMTのみで,TMTと灰白質容量との間には負の相関関係が認められた(r=-0.414,p<0.001)。その後,有意な相関が認められたTMTを独立変数とした重回帰分析を実施した結果,共変量で調整してもTMTと灰白質容量との関連性は有意であった(β=-0.376,p=0.001,R2=0.26)。【結論】本研究では,MCI高齢者における灰白質容量と遂行機能の下位機能検査との関連について検討し,注意の切り替え機能が低下しているMCI高齢者ほど灰白質容量が低下していることが示唆された。今後は,注意の切り替え機能が低下している健常高齢者がより早期にMCIへと移行するかどうかを検討する必要性があると考えらえる。また,本研究結果は,MCIのスクリーニングツールの中でもTMTが有用である可能性を示した。
著者
吉田 大輔 島田 裕之 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 伊藤 健吾 加藤 隆司 下方 浩史 鷲見 幸彦 遠藤 英俊 鈴木 隆雄
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1414-EbPI1414, 2011

【目的】物忘れなどの記憶障害は、アルツハイマー病(Alzheimer's disease: AD)の特徴的な前駆症状である。海馬や嗅内野皮質を含んだ内側側頭葉はこの記憶の中枢であり、記憶障害と内側側頭葉の脳萎縮とは密接な関係があると考えられている。一方、日常的に知的な活動や身体活動、あるいは社会活動(社会とのつながり)を保持することは、高齢期における認知症(特にAD)の発症遅延や認知機能の維持にとって有効である可能性が示唆されている。これらのことから、活動性の高い日常生活を送ることは、内側側頭葉の脳萎縮を抑制できると推察されるが、高齢期における内側側頭葉の脳容量と日常生活活動との関係については、これまでほとんど報告されていない。そこで本研究では、どのような日常生活活動が内側側頭葉の脳萎縮と関連があるのか明らかにすることを目的とした。<BR><BR>【方法】主観的な記憶低下の訴えがある、もしくはClinical Dementia Ratingが0.5に該当した65歳以上の地域在住高齢者125名(76.1±7.3歳)を対象とした。すべての対象者は、基本情報に加え一般的な認知機能検査、頭部のmagnetic resonance imaging (MRI)検査を受けた。内側側頭葉における脳萎縮の程度は、MRI検査で得られた画像を基にvoxel-based specific regional analysis system for Alzheimer's disease(VSRAD)を用いて定量的に評価した。日常の生活活動状況は、質問紙を用いて過去1ヶ月における各活動の実施状況(二択式;している/していない)を聴取した。各々の活動項目はセルフケアや手段的日常生活動作、社会活動などの25項目から構成されており、高齢者の生活活動全般を幅広く捉えられる項目内容とした。そして、活動項目ごとに「している」と回答した者(活動群)と「していない」と回答した者(不活動群)の2群間で内側側頭葉の脳萎縮度に差がないか、共分散分析を用いて検討した。なお分析の前段階として、2群いずれかのサンプルサイズが20に満たなかった活動項目は、あらかじめ分析項目から外した。また、年齢と脳萎縮との関係をpearsonの相関係数で確認した。<BR><BR>【説明と同意】すべての対象者に対しては、事前に研究内容を説明し、書面による同意を得た。また、本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得て行った。<BR><BR>【結果】内側側頭葉の脳萎縮と年齢との間には、有意な正の相関関係が認められた(r = 0.457, p < 0.01)。そこで、年齢を共変量とした共分散分析を行い、内側側頭葉の脳萎縮と日常生活活動との関係を検討した結果、「頭を使う活動(将棋や学習)」において、活動群(n = 70)の脳萎縮度が不活動群(n = 55)のそれより有意に小さかった(F = 6.43, p = 0.01)。同様に、「習い事」においても、活動群(n = 70)の脳萎縮度が不活動群(n = 55)のそれより有意に小さかった(F = 4.40, p = 0.04)。<BR><BR>【考察】記憶とその関連領域である内側側頭葉の脳容量とは、密接な関係があると考えられている。今回、同領域の脳萎縮と知的活動(「頭を使う活動」)の実施状況との間に関連性が認められたことは、先行研究の結果と矛盾しない。地域高齢者にとって、日常的に知的な活動を取り入れることは、認知機能の低下だけでなく内側側頭葉の脳萎縮も抑制できる可能性が示唆された。ただし、それ以外の活動(主に身体活動)の実施状況と内側側頭葉の脳萎縮については、有意な関連性が認められていない。今後は内側側頭葉以外の領域、あるいは活動の実施頻度を考慮したより詳細な検討が必要と考える。また、日常的な知的活動が内側側頭葉の脳萎縮を抑制できるとの仮説を立証するためには、縦断的な研究や介入研究が必要であり、今後も追跡調査を継続する予定である。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法の現場において、認知機能障害を有する高齢者を対象とするケースは少なくない。本研究は、このような高齢者に対し運動療法だけでなく日常の生活活動状況にも配慮した理学療法戦略が重要であることを示した、意義ある研究であると考えられる。また、今回の研究結果をさらに発展させることで、脳萎縮や認知機能の低下を予防するような方策が将来明らかになると期待している。
著者
土井 剛彦 牧浦 大祐 小松 稔 小嶋 麻有子 山口 良太 小野 くみ子 小野 玲 平田 総一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.30, 2009

【目的】転倒に対する恐怖は、高齢者において身体活動量低下を引き起こす要因の一つであり、身体機能や健康関連QOLなどの心理面と強く関連する。一方、身体活動量は、高齢者の全身状態・身体機能を反映し、個別特性を考慮する上で重要とされているが、ある程度の身体活動量を有していても、一定の割合で転倒に対する恐怖を持っている人は存在する。つまり、身体活動量が高い者と低い者では転倒恐怖感に対する要因が異なると考えられるが、その関係は明らかとなっていない。本研究の目的は、転倒恐怖の有無に、健康関連QOLがどのように関連するかを、身体活動量を考慮した上で検討することである。【方法】対象者は地域在住女性高齢者312名とした (年齢 : 79±7.2歳)。転倒恐怖感は質問紙にて転倒恐怖感ありと返答したものを転倒恐怖感あり群 (Fear of falling : FF) 、転倒恐怖感なしと返答したものを転倒恐怖感なし群 (No fear of falling : No-FF) とした。身体活動量は生活習慣記録機 (Lifecorder EX, Suzuken) を一週間装着して一日平均歩数 (Physical activity : PA) を算出し、PAが対象者全体の中央値より高い者を高活動群、低い者を低活動群とした。その他の測定変数はTime up & Go (TUG)、年齢、BMIとした。健康関連QOLについては、SF-36を用いて測定し、国民標準値を50点とするスコアリングを行い下位尺度別 (身体機能 : PF, 身体的日常役割機能RP, 身体の痛み : BP, 社会的生活機能 : SF, 全体的健康感 : GH, 活力 : VT, 精神的日常役割機能 : RE, 心の健康 : MH) に算出した。統計解析は、群間比較をunpaired t testにて行い、転倒恐怖の有無を目的変数、QOLの下位尺度と調整因子であるTUG、年齢、BMIを独立変数とし強制投入した名義ロジスティク解析を活動群別に行い、統計学的有意水準を5%未満とした。【結果】FF群は124名(60% ;78.4±7.5歳)、No-FF群は188名(40%;79.3±7.0歳)であり、年齢、身長、体重、TUGの対象特性に有意な群間差はみられなかった。身体活動量は対象者全体では5750±3467歩 (中央値:4990歩)であり、低活動群の方が高活動群に比べ、転倒恐怖有する者の割合が高かった (高活動群;54%, 低活動群;66%)。FF群はNo-FF群に比べPA、SF-36の下位尺度全項目ともに有意に低値をとった。転倒恐怖の有無に対して有意に関連性の認められた項目は、高活動群ではPF (オッズ比;14.6)、GH (オッズ比;74.7) が、低活動群ではBP (オッズ比;9.8) であった。以上のことから転倒恐怖に関連する健康関連QOLの要素が身体活動量レベルにより異なることが示唆された。【考察】転倒恐怖によりPA、健康関連QOLがともに低下し、高齢者の健康を阻害する要因の一つであることが示唆された。また、高活動の者においては身体機能や健康状態が、低活動の者においては身体の痛みが、転倒恐怖感と強く関連した。つまり、健康状態を低下させる転倒恐怖感を消失させるためには、個々の活動レベルを考慮した上で異なったアプローチを行う必要性があると考えられる。
著者
堤本 広大 土井 剛彦 三栖 翔吾 小松 稔 壬生 彰 小野 玲 大澤 千絵 春名 未夏 平田 総一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AcOF1001, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】地域高齢者の転倒予防は介護予防の観点から重要視されており、高齢者の転倒リスクアセスメントは数多く存在する。Timed Up & Go(以下TUG)や5 Chair Stands(以下5CS)、Trail Making Test(以下TMT)等では、身体機能や認知機能が維持された高齢者を対象に行うと有用である。しかし、要介護者のように多様な機能低下がみられる高齢者の場合、転倒要因はさらに多様化し、どのような評価方法が転倒リスクアセスメントとして適しているかは未だ明らかになっていない。我々が考案したMultiple-Step-Test(以下MST)は、転倒に関わる因子である運動機能、認知機能を二重課題条件下で実施することが可能である。立ち上がり動作など重心の上下移動が困難な対象者でも、遂行可能なステップ動作のみで行え、どのような施設でも行える省スペース性を持ち合わせる。また、高齢者がテスト自体を楽しむことができるゲーム性を有した新しい転倒リスク評価法である。以前、我々はMSTと過去の転倒経験の関連性、および検査に再現性を有していることを報告したが、今回、同施設にて、1年間前向きに転倒発生調査を行ったデータを利用し、運動機能評価であるTUG、5CS、および認知機能検査であるTMTと比較し、MSTの転倒リスク評価法としての有用性を検討することを目的とした。【方法】本研究は、デイサービス施設を利用する地域在住女性高齢者95名( 83.8 ± 6.6歳)の中から、MSTが杖使用でも実行できない者、および認知機能障害の著しいもの (MMSE:16以下)を除外した59名( 83.1 ± 6.4歳)を対象とした。また、MST計測後、全対象者における1年間の転倒発生を前向きに調査した。MSTの設定として、フープ(直径140cm)と同心半円(直径240cm)を4本のテープで3等分し、各区画には、数字(1~3)を記載したナンバーボードを設置した。MSTのルールは、合図ともにテスト開始し、数字の順にフープ内から全区画内への跨ぎ動作を行うことである。区画内へ接地した後、毎回フープ内に戻るように指示し、3のナンバーボードからフープ内に戻った時点で終了とし、所要時間を計測した。開始前は対象者には後方を向かせ、ナンバーボードをランダムに設置し、各対象者2回計測を行い、所要時間の短いデータを採用した。統計解析は、MST、TUG、5CS、TMT-A、TMT-Bそれぞれの所要時間に関して、Wilcoxonの順位和検定にて転倒群と非転倒群の群間比較を行った。転倒予測能を検討するため、ROC解析によりROC曲線下面積(AUC)を算出した。【説明と同意】本研究は神戸大学医学倫理委員会の承認を得た後に実施し、対象者より、事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し同意を得た。【結果】対象者は転倒群14名 (24%)と非転倒群45名 (76%)に分かれた。転倒群と非転倒群における年齢、性別、BMIにおける対象者特性に有意な差は認められなかった。全対象者が各転倒リスク評価に要した所要時間の中央値(四分位)は、MSTは21.8( 17.7 &#8211; 31.1 )、TUGは15.0( 13.1 &#8211; 19.5 )、5CSは14.8( 12.5 &#8211; 19.3 )、TMT-Aは160.0(110.8 &#8211; 240.0 )、TMT-Bは205.7( 160.0 &#8211; 288.0 )であった。転倒群と非転倒群で比較すると、MST、およびTUGにのみの群間に有意な差が認められた( p < 0.05 )。群間に有意な差が認められたMST、およびTUGについてROC解析を行うと、MSTのAUCが 0.72、感度が0.86、特異度が0.61で、TUGのAUCが0.71、感度が0.86、特異度が0.55であった。【考察】本研究の対象者に関しては、転倒リスク評価としてMST、およびTUGは高い転倒リスク予測能を有していることが示唆された。5CSやTMTのように、身体機能や認知機能を単独で評価するアセスメントと比較すると、MST、およびTUGは、ステップ動作や方向転換など複合的な運動を必要とするテストであるため、転倒リスクの高い高齢者と低い高齢者との身体能力差が表出しやすかった可能性が考えられる。また、MSTに関しては、数字を順に追い捜すという認知機能も必要なため、TUGと比較して、より特異度が高かったのではないかと考えられる。TUGとは異なり、MSTはゲーム性を有したDual-taskという側面を有しているため、今後、転倒リスクの評価だけではなく、高齢者に対する転倒予防の介入法としても有用である可能性を検討する必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から、高齢者の転倒リスク評価の一つとして、身体機能と認知機能の両方を同時に必要とするMSTの有用性が示されたと考えられる。
著者
島田 裕之 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 吉田 大輔 堤本 広大 阿南 祐也 上村 一貴 伊藤 忠 朴 眩泰 李 相侖 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101181, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor: BDNF)は、標的細胞表面上にある特異的受容体TrkBに結合し、神経細胞の発生、成長、修復に作用し、学習や記憶において重要な働きをする神経系の液性蛋白質である。BDNFの発現量はうつ病やアルツハイマー病患者において減少し、運動により増加することが明らかとなっている。血清BDNFは主に脳におけるBDNF発現を反映していると考えられているが、その役割や意義は明らかとされていない。この役割を明らかにすることで、理学療法における運動療法が脳機能を向上させる機序をBDNFから説明することが可能となる。本研究では、高齢者を対象に血清BDNFを測定し、その加齢変化や認知機能との関連を検討し、血清BDNFが果たす役割を検討した。【方法】分析に用いたデータは、国立長寿医療研究センターが2011 年8 月〜2012 年2 月に実施した高齢者健康増進のための大府研究(OSHPE)によるものである。全対象者は5,104 名であり、BDNFの測定が可能であった対象者は5,021 名であった。アルツハイマー病、うつ病、パーキンソン病、脳卒中の既往歴を有する者、要介護認定を受けていた者、基本的日常生活動作が自立していない者を除外した65 歳以上の地域在住高齢者4,539 名(平均年齢71.9 ± 5.4 歳、女性2,313 名、男性2,226名)を分析対象とした。血清BDNFは−80 度にて冷凍保存後ELISA法により2 回測定し、平均値を代表値とした。認知機能検査はNCGG-FATを用いて実施した。記憶検査として単語の遅延再生と物語の遅延再認、遂行機能として改訂版trail making test B(TMT)とsymbol digit substitution task(SDST)を測定した。分析は、5 歳階級毎に対象者を分割し年代間のBDNFの差を一元配置分散分析および多重比較検定にて比較した。BDNFと認知機能検査の関連を検討するため、認知機能低下の有無で対象者を分類し、t検定にてBDNFを比較した。認知機能の低下は、年代別平均値から1.5 標準偏差を除した値をカットポイントとした。また、認知機能に影響する年齢、性別、教育年数を含んだ多重ロジスティック回帰分析を実施した。従属変数は認知機能低下の有無とし、独立変数は年齢、性別、教育年数、BDNFとした。BDNFはピコ単位での微量測定値であったため4 分位でカテゴリ化して分析を実施した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で、ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の主旨・目的を説明し、書面にて同意を得た。【結果】年齢階級別のBDNF(平均 ± 標準誤差)は、65 〜69 歳が21.8 ± 0.1 ng / ml、70 〜74 歳が20.9 ± 0.1 ng / ml、75 〜79 歳が20.5 ± 0.2 ng / ml、80 歳以上が19.6 ± 0.3 ng / mlとなり、加齢とともに有意な低下を認めた(F = 24.8, p < 0.01)。多重比較検定の結果、70 〜74 歳と75 〜79 歳間以外の比較では、すべて有意差を認めた。認知機能低下の有無によるBDNFの比較では、単語再生、TMT、SDST(すべてp < 0.01)において有意に認知機能低下者のBDNFが低値を示した。多重ロジスティック回帰分析では、BDNFはSDSTと有意なトレンドを認め(p < 0.01)、Q(4 24,400 pg / ml)に対してQ(1 17,400 pg / ml)のSDST低下に対するオッズ比は1.6(95%信頼区間: 1.2-2.2, p < 0.01)であった。その他の項目に有意差は認められなかった。【考察】PhillipsらはBDNFmRNAがアルツハイマー病患者の海馬において減少していることを明らかとし、BDNFの減少が病態成立に対して何らかの役割を持つと報告した。運動の実施は海馬におけるBDNFやTrkB受容体の発現量を上昇させることが明らかにされている。また、Eriksonらは1 年間の有酸素運動が海馬の容量を増加させ、その変化量と血中BDNFは正の相関をすることを明らかにした。しかし、血中BDNFの研究は少なく、加齢変化や認知機能との関連性は十分明らかとされていなかった。本研究の結果から、血清BDNFは加齢とともに低下を示し、各種認知機能低下との関連を認めた。とくにSDSTとは、年齢、性別、教育年数と独立して関連を認めたため、記憶以外の機能に関してBDNFが何らかの役割を持つのかもしれない。今後は介入前後のBDNFの変化と各種認知機能の変化との関連を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】今後の日本の後期高齢者数の増大は、認知症者の増大を引き起こし、その根治的治療法がない現時点において、運動による予防対策は重要である。理学療法士は、その対策の中核的存在になるべきであり、運動と脳機能改善に関連する知見を集積することは理学療法にとって重要な役割を持つといえる。
著者
土井 剛彦 牧迫 飛雄馬 堤本 広大 中窪 翔 牧野 圭太郎 堀田 亮 鈴木 隆雄 島田 裕之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1520, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】歩行能力低下は軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)や認知症を有する高齢者の問題点の一つとして認識されている。MCIは,認知症を発症するリスクが高い一方で,健常への改善も認められるため,認知症予防ひいては介護予防の対象として着目すべきであると考えられている。しかし,MCI高齢者において歩行速度低下を伴う場合に,認知症の発症リスクが増加するかについては未だ明らかにされていない。本研究は,縦断研究を実施し,歩行速度低下が認知症のリスクにどのような影響を与えるかをMCIに着目して検討することを目的とした。【方法】本研究は,National Center for Geriatrics and Gerontology-Study of Geriatric Syndromesの参加者の中から,2011年度に実施した調査に参加した65歳以上の者とし,ベースラインにおいて認知症,パーキンソン病,脳卒中の病歴がある者,MMSEが24点未満の者,診療情報が得られない者を除外した3749名を対象とした。ベースラインにて測定した歩行速度,認知機能,一般特性,服薬数,Geriatric Depression Scale,身体活動習慣に加え,医療診療情報から得られる追跡期間中の認知症の発症をアウトカムとした。歩行が1.0m/s未満の場合を歩行速度低下とし,認知症ではなく日常生活が自立し全般的認知機能は保たれているが,NCGG-FATによる認知機能評価で客観的な認知機能低下を認めた者をMCIとした。【結果】対象者3749名(平均年齢72歳,女性53%)を,歩行速度低下とMCIのいずれにも該当しない群(control群:n=2608),歩行速度低下のみを有する群(SG群:n=358),MCIのみを有する群(MCI群:n=628),歩行速度低下とMCIの両方を有する群(MCI+SG群:n=155)に群分けした。追跡期間中(平均追跡期間:42.7ヶ月)に認知症を発症した者は168名であった。目的変数に認知症の発症,説明変数に歩行速度とMCIによる群要因を設定し,その他の測定項目を共変量として調整した生存分析を実施した結果,control群に比べ,SG群(HR:1.12,95%CI:0.67-1.87)は認知症の発症との有意な関係は認めなかったが,MCI群(HR:2.05,95%CI:1.39-3.01)ならびにMCI+SG群(HR:3.49,95%CI:2.17-5.63)は認知症の発症と有意な関係性を有していた。【結論】MCI高齢者における歩行能力低下は認知症のリスクを増加させることが明らかになった。高齢者が認知機能障害を有する場合には,認知機能だけではなく歩行能力を評価し,適切なリスク評価を考慮して介入を行う必要があると考えられる。
著者
吉松 竜貴 島田 裕之 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 堤本 広大 上村 一貴 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】虚弱高齢者における体重減少や低体重は低栄養の指標とされる。低栄養は多くの健康問題との関連が指摘されている。しかしながら,高齢者の体重と身体機能の関連を体組成と血液学的データから包括的に検討した報告は,我々の知る限りみあたらない。本研究の目的は,地域在住高齢者の歩行速度低下と体重,体格,血液学的データとの関連について検討し,老年期の歩行速度低下に関する栄養学的な知見を得ることである。【方法】本研究の対象は,愛知県大府市で行われたObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,104名から,パーキンソン病または脳卒中の既往歴がある者,Mini-Mental State Examinationが18点未満の者,採血が困難だった者を除外した4,654名(平均年齢72.0±5.6歳,女性2,417名,男性2,237名)とした。測定項目は歩行速度,身長,体重,体組成,血液学的データとした。歩行速度は2.4mの歩行路で通常歩行を5回行わせ平均値を採用した。なお,本研究における「歩行速度低下」の判断基準は,先行研究での検討より,通常歩行速度1.0 m/sec未満と定めた。身長は立位身長とし,裸足で計測した。体重と体組成は生体電気インピーダンス方式の体組成計(TANITA社製MC-980A)を用いて衣類着用下で測定した。得られた体組成値のうち体脂肪率(Percentage of body fat:以下%BF)と四肢骨格筋指数(Appendicular skeletal muscle index:以下ASMI)を分析に用いた。血液学的データとして以下の血清濃度を得た:総蛋白(Total protein:以下TP),アルブミン(Albumin:以下Alb),中性脂肪(Triglyceride:以下TG),総コレステロール(Total cholesterol:以下T-Cho)。統計学的分析として,第1に,測定値の群間比較を行った(t-test,χ<sup>2</sup>-test)。その際,検定の効果量も検討した。第2に,多重ロジスティック回帰分析により,歩行速度低下に関わる因子を抽出した。単変量分析にて有意差と一定の効果量が認められた変数を独立変数として採用し,年齢,性別,精神心理機能,医学的情報などで調整した。第3に,Receiver Operating Characteristic分析を用いて,歩行速度低下に強い影響があるとされた変数のカットオフ値を算出した。【結果】歩行速度低下に分類された対象者は511名であり,全体の12%であった。歩行速度が低下した者は,そうでない者に比べ,%BFが有意に高く(31 vs 28%,p<0.001,<i>d</i>=0.38,<i>r</i>=0.29),Albが有意に低かった(4.19 vs 4.33 g/dL,p<0.001,<i>d</i>=-0.53,<i>r</i>=0.38)。T-Choにも有意差を認めたものの,効果量が低かった(200 vs 209 mg/dL,p<0.001,<i>d</i>=0.27,<i>r</i>=0.08)。Body mass index(以下BMI)とASMI,TP,TGには有意差を認めなかった。歩行速度低下を従属変数,%BFとAlbを独立変数とした多重ロジスティック回帰分析では,調整後も両変数の有意性が保たれた(%BF[1%あたり],Odds ratio=1.05,p<0.001;Alb[0.1 g/dLあたり],Odds ratio=0.90,p<0.001)。歩行速度低下に対するAlbのカットオフ値は4.25 g/dLであった(Area under the curve=0.64,感度0.64,特異度0.43)。【考察】歩行速度が低下している地域在住高齢者は,そうでない者と比べて,体格(BMI)や四肢筋量(ASMI)は同程度だったが,%BFが高く,Albが低かった。地域在住高齢者にはサルコペニック肥満が潜在していることが懸念される。Albは,基礎情報での調整後も歩行速度低下と強く関連しており,地域在住高齢者の身体機能を検討するために重要な指標であることが示唆された。しかしながら,以上は横断研究による結果であるため,血液学的データと身体機能低下の関連についての更に明確な根拠を得るためには,縦断的検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】地域在住高齢者の身体機能を維持するためには,単に体重減少に着目するのではなく,体組成を考慮して体重管理を行う必要がある。本研究で示されたAlbのカットオフ値(4.2 g/dL以下)は,地域リハビリテーションにおいて,虚弱に陥り易い高齢者をスクリーニングするための新たな参考値として活用できる可能性がある。
著者
澤 龍一 土井 剛彦 三栖 翔吾 堤本 広大 小野 玲
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ea0344, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 日本は屋内を裸足で生活するという独自の文化を有しており、そのため足底温度は冬場に約15℃まで温度低下すると言われている。足底部は、温度下降に伴い触覚閾値が上昇すると報告されており、そのため閾値上昇による感覚低下はバランス能力の低下や転倒リスクの一因になると考えられるが、日常生活で生じるような足底温度低下による歩行への影響は報告されていない。我々の研究グループは、第46回日本理学療法学術大会にて、足底温度が低下すると、足部に装着した小型ハイブリッドセンサにより得られた歩行時の下肢運動の時間的変動性が増大し、歩行が不安定化することを報告した。しかし、歩行時の体重心の動きを捉え、よりバランス機能を反映しているとされる体幹部分の定常性についても検討する必要がある。そこで、我々は「日常で生じうる足底温度低下が感覚閾値を上昇させ、それは下肢の時間的変動性のみでなく体幹部分の定常性にも影響を与える」という仮説を証明するために研究を行ったので報告する。【方法】 対象は、健常若年成人で、研究参加に同意の得られた34名 (男性20名、女性14名、平均年齢22.2±2.5歳)について、加速路と減速路を2mずつ用意し、その間12mについて歩行計測を行った。歩行条件は2条件とし、通常歩行 (Normal条件)では、計測前に裸足になり、両足底面を20分間床面に接地させた後、足底温度・足底感覚を測定して、歩行を計測した。その後、氷を用いて足底面を冷却し、足底温度が15℃以下となったことを確認し、感覚検査を実施した後に、歩行計測を行った (Cold条件)。足底温度、足底感覚は、それぞれ足底部の母指、母指球、踵にて測定を実施した。温度測定は熱電対温度計を用い、冷却中3分ごとに実施した。感覚検査にはモノフィラメントを用いた。歩行計測には3軸加速度計と3軸角速度計を内蔵した小型ハイブリッドセンサを用い、体幹及び両踵部にサージカルテープで装着した。指標には、歩行周期時間 (stride time)について、平均値および歩行の周期時間変動性を示す指標として変動係数 (coefficient of variation: CV)を算出した。また体幹の定常性を示す指標として、自己相関係数 (autocorrelation coefficient: AC)を垂直 (VT)、左右 (ML)、前後 (AP)方向について算出した。統計解析は、歩行指標に対し、Normal条件とCold条件の条件間比較を行うためpaired t testを用い5%未満を統計学的有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、神戸大学保健学研究倫理委員会の承認を受けた後に実施し、事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し、同意を得た者を対象者とした。【結果】 足底感覚は各部位において冷却による有意な低下が認められた (p < .0001)。stride timeの平均値は、条件間で統計学的に有意な差は認められなかった。一方で、stride time CVは条件間に統計学的に有意な増加が認められた (p = .0278)。ACはVT方向がNormal条件で0.88±0.07、Cold条件で0.81±0.10 (p = .0001)、ML方向は0.69±0.15から0.61±0.19 (p = .0041)、AP方向は0.87±0.07から0.82±0.10 (p = .0011)と全てにおいて有意な低下が認められた。【考察】 本研究は、日常生活でありうるような足底温度低下により足底感覚が低下し、時間的指標である歩行周期時間の変動性の増大に加え、体幹部分の定常性の低下、つまり体幹部分においても変動性の増大が生じることを示唆した。足底感覚の低下は、足底温度低下による感覚閾値の上昇が原因と考えられ、足底からの感覚入力は通常に比べ相対的に減少する。歩行中の姿勢制御において、足部からの体性感覚入力が重要な役割を担うことはよく知られており、末梢神経障害を有する者は歩行周期時間変動性が増大することも報告されている。また歩行における周期時間変動性の増大と歩行時の定常性低下について、相関があることも報告されており、本研究において日常生活生じるような足底温度低下によって感覚低下が生じ、周期時間変動性の増大だけでなく体幹における定常性低下も生じたと考えられる。高値のstride time CVや低値のACは、転倒リスクが大きくなるとの報告もあり、高齢者の場合、足底の温度低下により歩行中の不安定化ひいては転倒リスクの一因になると考えられる。今後は高齢者において、足底温度が歩行に与える影響を検討し、保温することで歩行の安定性を維持または向上できるのかを明らかにしていくことが必要である。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果は、屋内で靴をはかず、保温しにくい状況で生活している日本人にとって、屋内での転倒を減らすための一要因を解明していく一助になると考えられる。
著者
牧浦 大祐 土井 剛彦 浅井 剛 山口 良太 小松 稔 小嶋 麻悠子 小野 くみ子 小野 玲 平田 総一郎
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.923-928, 2010 (Released:2011-01-28)
参考文献数
44
被引用文献数
2

〔目的〕性は年齢と同じく歩行に影響を与える重要な因子である。近年,歩行中の加速度信号に波形解析(root mean square,自己相関分析)を加えて得られる歩容指標(歩行の変動性,動揺性,規則性)を用いた歩行の安定性の定量化が行われている。今回,歩容指標を用いて歩行の安定性に性差が存在するのか検討した。〔対象〕対象は健常若年成人46名(男性24名,女性22名)とした。〔方法〕25 mの自由歩行中の体幹加速度信号から得られた歩容指標の値を男性と女性2群の間で比較した。〔結果〕女性は男性に比べ,歩行の変動性,垂直・前後方向の動揺性が有意に大きく,逆に垂直方向の規則性は有意に低下していた。〔結語〕健常若年成人では歩行の安定性に性差が存在する可能性が示唆された。
著者
牧迫 飛雄馬 島田 裕之 吉田 大輔 阿南 祐也 伊藤 忠 土井 剛彦 堤本 広大 上村 一貴 BRACH Jennifer S. 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.87-95, 2013-04-20

【目的】日本語版-改訂Gait Efficacy Scale(mGES)の信頼性と妥当性を検証することを目的とした。【方法】地域在住高齢者240名を対象とした。そのうちの31名については,自記式による日本語版mGESの評価を2回実施した(評価間隔14〜20日間)。日本語版mGESの妥当性を検証するために,運動機能(chair-stand test,片脚立位時間,通常歩行速度,6分間歩行距離),生活空間,転倒恐怖感との関連を調べた。【結果】日本語版mGESは高い再検査信頼性を示し(級内相関係数[2,1]=0.945,95%信頼区間0.891〜0.973),すべての運動機能および生活空間と有意な相関関係を認めた。従属変数を転倒恐怖感の有無,独立変数を性別,各運動機能,生活空間,日本語版mGES得点としたロジスティック回帰分析の結果,転倒恐怖感と有意な関連を認めた項目は,性別(女性),通常歩行速度,日本語版mGES得点であった。【結論】高齢者における歩行状態の自信の程度を把握する指標として,日本語版mGESは良好な信頼性および妥当性を有する評価であることが確認された。
著者
牧迫 飛雄馬 島田 裕之 土井 剛彦 李 相侖 堤本 広大 中窪 翔 堀田 亮 牧野 圭太郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

地域高齢者202名を調査した結果、97名(48.0%)が脳の健康のために取組んでいる活動があると回答し、取組んでいない者と比較して、記憶や情報処理課題の成績が良好であった。軽度認知機能障害を有する高齢女性56名を対象に語想起課題中の脳血流と園芸活動の有無との関連を調べたところ、日常的に園芸を実施している者で脳血流が有意に増大していた。また、うつ徴候および軽度記憶障害を有する高齢者89名を運動群、菜園群、対照群にランダムに割り付け6か月間の介入前後での効果を調べたところ、運動介入は記憶および持久性の向上に効果が期待されることが示されたが、菜園作業での介入効果は確認することができなった。