著者
杉原 陽子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.233-242, 2018 (Released:2018-05-29)
参考文献数
29

目的 本研究は,地域福祉の担い手として重要な役割を果たしている民生委員の活動継続意欲を促進・阻害する要因を解明することを目的とした。方法 東京都区市部の2~3期目の民生委員全数(1,936人)に対して郵送法による質問紙調査を実施した。有効回収数は1,346票(69.5%)であった。結果 共分散構造分析の結果,(1)役割ストレスのようなネガティブな感情よりも援助成果といったポジティブな感情の方が民生委員の継続意欲に強く関連すること,(2)仕事の量的負担(役割過重)や役割葛藤よりも役割の曖昧さが継続意欲の低下に関連すること,(3)公的・専門的機関からのサポートは援助成果の増加や役割曖昧の減少を介して間接的に継続意欲を高めることが明らかとなった。結論 地域住民による対人支援ボランティア活動を維持するためには,やりがい等の心理社会的恩恵を増やすとともに,役割の曖昧さの問題を軽減する必要があり,そのために公的・専門的機関からのサポートが有効であることが示唆された。
著者
小林 江里香 深谷 太郎 杉原 陽子 秋山 弘子 LIANG Jersey
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.133-145, 2014

This research examines how the linkages between different types of social networks and subjective wellbeing(SWB)vary across gender and age through structural equation modeling. Data came from a nationwide survey for older adults conducted in 1999 (N=3,482). SWB was measured by life satisfaction and depressive symptoms. A three-factors model for social networks showed a good fit, consisting of child contact, informal contact with friends and neighbors, and social participation related to groups/volunteer activities. The effects of four types of networks (i.e., spouse and the three factors) on SWB were compared among the 4 gender×age groups. Gender differences were more prominent among the young-old (63-74 years old) than the old-old (75 and over), namely, the effects of being married and social participation on life satisfaction were greater for males than females, whereas informal contact was more important for female life satisfaction and depression. Among the old-old, the association between child contact and SWB was stronger than among the young-old. Further research is needed to ascertain whether the age differences result from aging and/or cohort variations.
著者
小林 江里香 深谷 太郎 杉原 陽子 秋山 弘子 Jersey LIANG
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.133-145, 2014-03-17 (Released:2017-02-28)

This research examines how the linkages between different types of social networks and subjective wellbeing(SWB)vary across gender and age through structural equation modeling. Data came from a nationwide survey for older adults conducted in 1999 (N=3,482). SWB was measured by life satisfaction and depressive symptoms. A three-factors model for social networks showed a good fit, consisting of child contact, informal contact with friends and neighbors, and social participation related to groups/volunteer activities. The effects of four types of networks (i.e., spouse and the three factors) on SWB were compared among the 4 gender×age groups. Gender differences were more prominent among the young-old (63-74 years old) than the old-old (75 and over), namely, the effects of being married and social participation on life satisfaction were greater for males than females, whereas informal contact was more important for female life satisfaction and depression. Among the old-old, the association between child contact and SWB was stronger than among the young-old. Further research is needed to ascertain whether the age differences result from aging and/or cohort variations.
著者
柴田 博 杉澤 秀博 杉原 陽子 黒澤 昌子
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

1.既存のパネルデータの解析と公表生涯現役の意義と生涯現役の条件の解明という視点から、パネルデータを再解析した。具体的には、ボランティアや介護などの無償労働が高齢者に与える影響、無償労働の継続に関連する要因については杉原が、就労継続、中断、引退が高齢者の心身の健康、家庭生活、地域生活に与える影響については杉澤が分析した。2.第4回パネル調査の実施とデータベースの作成平成17年10月に第4回パネル調査を実施した。これまでの調査の中で強硬な拒否を示した人を除く対象者に対して調査を実施した。今回のパネル調査から、対象者の高齢化により健康上の理由で未回収になる可能性が高くなることを想定し、健康上の理由で調査に応じられない人に対しては、家族など対象者の状態をよく知っている人からの「代行調査」を実施した。さらに、回収率を維持するために、第4回パネル調査の未回収者のうち、不在・体調不良などの理由で未回収であった者に対しては、平成18年1月に追跡調査を実施した。以上の結果、本人回答による回収数は2,603、代行調査の回収数は65、代行調査を加えた回収数は2,668となった。回収率(代行をくわえた場合)は第1回パネル調査の完了者対比では67.1%であった。3.4回のパネルデータの解析(1)就労、ボランティア、家事・介護などのプロダクティブな活動が心身の健康に与える影響について、その因果メカニズムも含めて解析した。(2)ボランティア活動や奉仕活動の維持・促進要因を階層、地域、就労などとの関連で解明した。(3)就労に関しては、定年後の再就業の要因を、就労推進策、階層、職業観、経済、健康の面から多角的に検討するとともに、定年後の就業の質について定年前と比較することで解明した。(4)失業、定年退職が心身の健康に与える影響について解明した。
著者
藤原 佳典 杉原 陽子 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.293-307, 2005 (Released:2014-08-06)
参考文献数
77
被引用文献数
10

急速に少子高齢化が進むわが国においては高齢者の社会活動をいかにして,社会全体の活性化につなげるかが問われている。高齢者ボランティアの活用はその方策の一つとして注目されているが,わが国において高齢者ボランティアと心身の健康に関する研究は緒についたばかりである。 本研究では,すでに30年以上も前からボランティア活動への参加が健康に及ぼす効果について研究がなされてきた北米における研究を概観することにより,以下の点が明らかになった。①高齢者のボランティア活動は高齢者自身の心理的な健康度を高める。②ボランティア活動は死亡や障害の発生率の抑制といった身体的健康を高める効果が示されているが,心理的効果に比べて先行研究の数が乏しい。③性や人種,健康状態,社会経済状態,社会的交流の多寡等によってボランティア活動の効果が異なる可能性がある。身体的な健康に対しては高年齢の者ほど効果は強いが,社会的交流の活発な者,不活発な者のいずれが,より強い効果を得やすいかは議論が分かれる。④ボランティア活動の内容による心身の健康への効果の相違を分析した研究は数少ない。⑤心身の健康に最も好影響を及ぼす量的水準は,概ね活動時間が年間40~100時間程度とするものが多いが,必ずしも一致せず,現時点で時間やグループ数についての至適水準を示すことは難しい。⑥ボランティア活動に参加すると心理的,身体的および社会的要因が改善することにより心身の健康度を高めると考えられてきたが,これらの要因の媒介効果は比較的弱く,メカニズムに関しては未解明の点が残されている。 以上を踏まえ,わが国の地域保健事業のプログラムの一つとして高齢者ボランティアの活用を考慮した場合に,まず優先されるべき研究課題は高齢者の健康維持・向上に望ましいボランティア活動の内容,従事時間や所属グループ数の探索であろう。一方,ボランティア参加者はもともと健康度が高い可能性があるので,今後は長期間の追跡や介入研究によるエビデンスを蓄積する必要があろう。 地域保健事業への導入を検討する際には,地域活動に関心が薄いとされる層の健康づくりの方策にもつながる可能性があるが,これらの層がボランティア活動へ参加・継続しやすくするためにはできる限り低年齢で,生活機能が高いうちから,ボランティア活動を啓発する機会を提供していくことが,望ましいと言えよう。
著者
柳沢 志津子 杉澤 秀博 原田 謙 杉原 陽子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-100, (Released:2023-04-10)
参考文献数
54

目的 本研究は,都市部に居住する高齢者において,社会経済的地位と口腔健康との関連のメカニズムについて,心理および社会的要因の媒介効果に着目して検証し,口腔健康の階層間格差への対応に資する知見を得ることを目的とした。方法 東京都に位置する自治体で住民の社会経済階層が高い区と低い区を選択し,それぞれの自治体に居住する65歳以上の住民1,000人ずつの計2,000人を住民基本台帳から二段無作為抽出し,訪問面接調査を実施した。分析対象は,回答が得られた739人とした。分析項目は,口腔健康に主観的口腔健康感,残存歯数,咀嚼能力の3項目の合計点数を用いた。社会経済的地位は,教育年数と年収とした。媒介要因の候補は,社会生態学モデルを用いて,自尊感情,うつ症状,社会的支援とした。分析は多重媒介分析を行った。結果 心理社会的要因のうち,個別の要因については有意な媒介効果を確認できなかったものの,心理社会的要因全体では年収と口腔健康の媒介要因として有意な効果がみられた。心理社会的要因全体の媒介効果は,教育年数と口腔健康との間では有意ではなかった。結論 低所得者の口腔健康が悪い理由の一部に心理社会的要因が関与しており,ライフステージごとに実施される予防活動と心理社会的リスク要因全体を軽減する取り組みを組み合わせることで,社会経済的地位による口腔健康の格差を解消できる可能性が示唆された。