著者
押切 康子 杉澤 秀博
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.85-91, 2018-09-20 (Released:2018-09-26)
参考文献数
14
被引用文献数
1

目的:多剤併用の高齢患者の服薬に対する不安とその関連要因を明らかにすることである.方法:慢性疾患で定期的に6剤以上処方されている65歳以上の患者9名に半構造化面接を行った.この質的データをSteps for Coding and Theorizationを用いて分析した.<>は概念,≪≫はコンポーネントを示している.結果:服薬に対する不安の要因には≪医療職の支えの欠如≫と≪薬剤についての否定的な経験・理解≫があった.他方,<服薬の自己調節>と<医師への訴え>という≪不安への対処の試み≫を行った人は不安をもっていなかった.不安を抱かなった人では≪医療職の支え≫と≪多剤併用の肯定≫が不安を抑制するように働いていた.結論:多剤併用を受けている高齢患者の服薬への不安は服薬の自己調整につながる可能性があることから,医療職は多剤服用に対する患者の不安を理解し,解消に向けての働きかけが必要である.
著者
原田 謙 杉澤 秀博
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.80-96, 2014 (Released:2015-07-04)
参考文献数
41
被引用文献数
1 7

本稿は, パーソナル・ネットワークに対する都市効果を, 階層的に異なる水準で測定された変数を扱うマルチレベル分析を用いて明らかにすることを目的とした. 具体的には, 個人レベルの属性の影響を統制したうえで, 地域レベルの都市度が, 親しい親族・隣人・友人数およびその空間的分布に及ぼす文脈効果を検討した. データは, 東京都, 神奈川県, 埼玉県, 千葉県内の30自治体に居住する25歳以上の男女4,676人から得た.分析の結果, 第1に, 親族総数の地域差は居住者の個人属性の影響を統制すると消失した. しかし都市度は親族関係の空間的分布に影響を及ぼしていた.都市度が高いほど近距離親族数は減少していたのである. 大都市の親族関係は, 規範的ではなく選択的であり, 空間的に分散したネットワークである点が示唆された. 第2に, 都市度が高いほど隣人数は減少していた. 第3に, 友人総数の地域差は居住者の個人属性の影響を統制すると消失した. しかし都市度は友人関係の空間的分布に影響を及ぼしていた. 都市度が高いほど, 中距離友人数が増大していたのである. 都市度は, 都市圏全体に広がる友人資源へのアクセス可能性を高めている点が示唆された.
著者
岡林 秀樹 杉澤 秀博 高梨 薫 中谷 陽明 柴田 博
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.486-493, 1999-02-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
32
被引用文献数
22 5

The purpose of this study was to extract the factor structure of coping strategies and to examine their direct and indirect effects on burnout. Eight hundred thirty four valid responses obtained from primary caregivers of impaired persons aged 65 years old and over living in the community were analyzed. The results of covariance structural analysis were as follows: Three second order factors, including “Approach”, “Avoidance, ” and “Support seeking, ” were extracted. Five factors, “Keeping their own pace, ” “Positive acceptance of caregiving role, ” “Diversion, ” “Informal support seeking, ” and “Formal support seeking, ” were extracted as first order factors. “Keeping their own pace, ” directly decreased burnout and “Diversion” indirectly decreased burnout through caregiving involvement. “Informal support seeking” directly increased burnout and “Positive acceptance of caregiving role” indirectly increased burnout through caregiving involvement.
著者
原田 謙 杉澤 秀博 小林 江里香 Jersey Liang
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.382-397, 2001-12-31

本研究は, 全国高齢者に対する3年間の縦断調査データ (1987-1990) を用いて, 高齢者の所得変動の実態を明らかにし, 貧困への転落, 貧困からの脱出という所得変動の関連要因を検証することを目的とした.本人と配偶者の年間所得の合計が120万円未満の高齢者を貧困層と操作的に定義し, 関連要因として社会経済的地位およびライフイベント指標を分析に投入した. 分析の結果, 以下のような知見が得られた.<BR>(1) 各時点の貧困層の出現割合は 34.7% (1987), 31.7% (1990) であったが, 追跡期間中に全体の8.8%が貧困転落, 11.8%が貧困脱出を経験していた.<BR>(2) 社会経済的地位に関して, 学歴が高い者の方が貧困転落の確率が低く, 最長職の職種によって貧困転落・貧困脱出の確率が異なった.<BR>(3) 高齢期のライフイベントに関して, 追跡期間中における配偶者との死別は, 女性にとってのみ貧困転落のリスク要因であった.追跡期間中における失職は貧困転落のリスク要因であり, 就労継続は貧困脱出の促進要因であった.<BR>(4) 社会経済的地位, ライフイベントの影響をコントロールしても, 性別, 年齢, 生活機能といった要因が, 高齢者の所得変動に有意に関連していることが明らかになった.具体的には男性の方が女性より貧困脱出の確率が高く, 高齢である者, 初回調査時点の生活機能が低い者の方が貧困脱出の確率が低かった.
著者
小浦 さい子 杉澤 秀博 Saiko Koura Hidehiro Sugisawa
出版者
桜美林大学大学院老年学研究科
雑誌
老年学雑誌 (ISSN:21859728)
巻号頁・発行日
no.1, pp.15-27, 2011
被引用文献数
2

本研究の目的は,特別養護老人ホームで働く介護職員が摂食・嚥下障害を伴う入居者の食事介助体験を通じて,どのように安全を意識し,食事介助に対する態度を形成するようになるのか,そのプロセスを明らかにすることにある.分析対象は10名,分析には修正版グランデッド・セオリー・アプローチを用いた.その結果,第1ステップとして,予測できない出来事に遭遇するという辛い体験が,以前よりも強く安全を意識することにつながること.第2ステップでは,安全を意識するようになった結果,食事に対して命を守るという責任の自覚をすることになり,入居者にとって食べることの意味との間でジレンマを感じるようになること.第3ステップとして,このようなジレンマをかかえつつ,食べることの意味が大きいと判断した場合には創意工夫などチャレンジ的な態度を,命を守る責任感の方が強い場合には無理に食べさせないなど無難な対応をするようになる結果が得られた.
著者
柴田 博 杉澤 秀博 杉原 陽子 黒澤 昌子
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

1.既存のパネルデータの解析と公表生涯現役の意義と生涯現役の条件の解明という視点から、パネルデータを再解析した。具体的には、ボランティアや介護などの無償労働が高齢者に与える影響、無償労働の継続に関連する要因については杉原が、就労継続、中断、引退が高齢者の心身の健康、家庭生活、地域生活に与える影響については杉澤が分析した。2.第4回パネル調査の実施とデータベースの作成平成17年10月に第4回パネル調査を実施した。これまでの調査の中で強硬な拒否を示した人を除く対象者に対して調査を実施した。今回のパネル調査から、対象者の高齢化により健康上の理由で未回収になる可能性が高くなることを想定し、健康上の理由で調査に応じられない人に対しては、家族など対象者の状態をよく知っている人からの「代行調査」を実施した。さらに、回収率を維持するために、第4回パネル調査の未回収者のうち、不在・体調不良などの理由で未回収であった者に対しては、平成18年1月に追跡調査を実施した。以上の結果、本人回答による回収数は2,603、代行調査の回収数は65、代行調査を加えた回収数は2,668となった。回収率(代行をくわえた場合)は第1回パネル調査の完了者対比では67.1%であった。3.4回のパネルデータの解析(1)就労、ボランティア、家事・介護などのプロダクティブな活動が心身の健康に与える影響について、その因果メカニズムも含めて解析した。(2)ボランティア活動や奉仕活動の維持・促進要因を階層、地域、就労などとの関連で解明した。(3)就労に関しては、定年後の再就業の要因を、就労推進策、階層、職業観、経済、健康の面から多角的に検討するとともに、定年後の就業の質について定年前と比較することで解明した。(4)失業、定年退職が心身の健康に与える影響について解明した。
著者
牧野 公美子 杉澤 秀博 白栁 聡美
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.97-105, 2020 (Released:2021-08-24)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本研究の目的は,介護老人福祉施設内での看取りを認知症高齢者に代わって決断した家族が看取りに至るまでの過程で経験する精神的負担,および代理意思決定に対する想いに影響する要因を明らかにすることである.家族16人に対する半構成的面接のデータを,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.分析の結果,家族は施設内看取りの決定時期には,選択の迷いと高齢者本人や親族の意向が不明ななかで決断せざるを得ないことへの重責,看取り決断後は,高齢者が次第に痩せ細る姿への悲しみとそれに伴う決断の動揺,臨終のときが近いと覚悟する悲哀を経験していた.これら精神的負担がありながらも,代理決定者の家族が代理意思決定を後悔なく納得したものにできた要因は,実際に代理意思決定した時期だけでなく,決定後の期間にも存在しており,代理意思決定後においても継続的な支援をする必要性が示唆された.
著者
柳沢 志津子 杉澤 秀博 原田 謙 杉原 陽子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-100, (Released:2023-04-10)
参考文献数
54

目的 本研究は,都市部に居住する高齢者において,社会経済的地位と口腔健康との関連のメカニズムについて,心理および社会的要因の媒介効果に着目して検証し,口腔健康の階層間格差への対応に資する知見を得ることを目的とした。方法 東京都に位置する自治体で住民の社会経済階層が高い区と低い区を選択し,それぞれの自治体に居住する65歳以上の住民1,000人ずつの計2,000人を住民基本台帳から二段無作為抽出し,訪問面接調査を実施した。分析対象は,回答が得られた739人とした。分析項目は,口腔健康に主観的口腔健康感,残存歯数,咀嚼能力の3項目の合計点数を用いた。社会経済的地位は,教育年数と年収とした。媒介要因の候補は,社会生態学モデルを用いて,自尊感情,うつ症状,社会的支援とした。分析は多重媒介分析を行った。結果 心理社会的要因のうち,個別の要因については有意な媒介効果を確認できなかったものの,心理社会的要因全体では年収と口腔健康の媒介要因として有意な効果がみられた。心理社会的要因全体の媒介効果は,教育年数と口腔健康との間では有意ではなかった。結論 低所得者の口腔健康が悪い理由の一部に心理社会的要因が関与しており,ライフステージごとに実施される予防活動と心理社会的リスク要因全体を軽減する取り組みを組み合わせることで,社会経済的地位による口腔健康の格差を解消できる可能性が示唆された。
著者
原田 謙 杉澤 秀博 柴田 博
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.350-358, 2009

<p> 本研究は,シルバー人材センターの退会に関連する要因を明らかにすることを目的とした.データは,全国279センターの現会員と退会者の男女,合計5,553人から得た.</p><p> 分析の結果,第一に「仕事仲間」および「発注者側の態度・対応」に関する満足度が高い者ほど,シルバー人材センターを退会する傾向が低かった.一方,「配分金」や「就業体制」に関する満足度は,退会とは有意な関連がみられなかった.第二に,センターで事務職の仕事を希望する者は,その他の仕事を希望する者に比べて退会する傾向が2倍以上であった.この影響は男性および三大都市圏において顕著であり,センターが受注する仕事と会員が希望する仕事のミスマッチの問題が示唆された.第三に,センター以外のところで就業している日数が多い者ほど,退会する傾向が高かった.この影響は,男性および地方圏において顕著であり,再就職活動の一環としてセンターに関与している高齢者の存在を示唆していた.</p>
著者
卜部 吉文 杉澤 秀博
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101615-48101615, 2013

【はじめに】 2000年の介護保険制度の導入を契機に,在宅を基盤とした訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の充実が図られるようになった.しかし,少なくない利用者が訪問リハを長期に継続して利用するという実態がみられる.そのことは,利用者が固定化し新規利用者の受け入れが困難となることや,介護保険給付費の増加に繋がるなどの問題を生じさせかねない.この長期継続利用の要因についてはほとんど実証的な研究が行なわれていない.本研究の目的は,質的研究法を用いて,利用者の認識に基づき訪問リハの長期継続利用に至るプロセスを明らかにすることにある.【方法】 対象者は介護保険による訪問リハを1年以上継続利用しており,神経筋疾患などの進行性疾患や認知症患者以外の要支援または要介護1の高齢者9人を調査対象とした.調査は半構造的インタビューとし,インタビュー項目は,1.訪問リハを受けた目的,きっかけ,2.訪問リハを利用する前後における自分自身の変化,家族との関係の変化,3.現時点における訪問リハの利用意向であった.分析方法は,分析する現象のプロセスを質的にとらえることに優れている木下による修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ法(以下:M-GTA)とした.今回M-GTAを採用したのは,①訪問リハの長期継続利用には利用者とその家族,訪問リハ担当者の間の相互作用が影響していること,②訪問リハというヒューマンサービス領域に関連した研究領域であること,③訪問リハ利用者は多様な問題を抱えており,家族や訪問リハ担当者等との関わりは複雑でプロセス的な性格を持っていること,などの理由からである.【倫理的配慮】 研究対象の自由意思で調査への協力の承諾を書面にて得た.インタビューの中に含まれる個人情報は匿名化し,公表に際しては対象が特定できないようにした.本研究に伴う倫理的な事項は,桜美林大学倫理委員会の審査を受け承認された.【結果】 分析の結果(「 」は概念,〔 〕はサブカテゴリー,【 】はカテゴリー),以下の関係からなる3つのカテゴリーが生成された.訪問リハ開始前では,訪問リハに対する異なる2つの【取り組む姿勢】がみられた(「以前の身体に戻りたい想い」という積極的態度と「身体の回復の諦め」という消極的態度).利用に際しては,積極的な態度は〔訪問リハの特性を考え自分で利用を決定〕,消極的な態度は〔他者が訪問リハを希望し利用を決定〕という2つの異なる【訪問リハの選択理由】から利用に至っていた.〔他者が訪問リハを希望し利用を決定〕においては,「家族からの強い希望」「医療・福祉の専門家からの誘い」という2つの概念,〔訪問リハの特性を考え自分で利用を決定〕においては「自宅まで決まった時間に訪問してもらえる」「一対一のリハビリがしてもらえる」「長い時間リハビリを受けられる」「人目を気にしないで受けられる」「人との関わりを避けれる」という5つの概念が生成された.訪問リハ利用後においては,いずれの場合も【訪問リハへの評価と利用希望】(〔満足感からくる利用希望〕と〔不満足感からくる利用希望〕で構成)につながり,それが継続利用の動機となっていた.〔満足感からくる利用希望〕においては,「リハ専門家との個人的つながりの形成」「リハのきめ細かさの自覚」「現状維持・回復の喜び」の3つの概念,〔不満足感からくる利用希望〕においては「後退への不安」「自分の動作に自信が持てない」の2つの概念から生成された.【考察】 1)達成目標を明確していないことが長期利用の要因とされているが,本研究においては,機能回復以外の理由で利用者は訪問リハを選択し,利用を継続している場合も少なくないことが明らかにされた.すなわち,機能回復という点のみでの目標を明確にしたとしても,長期利用を中止する可能性が低いことが示唆された.2)利用者や家族が利用の中止を了承しないことも要因として指摘されているが,それは一般的な指摘にとどまっている.本研究では,中止を了承しないのは,個人の希望にあったサービスを受けられる,自宅で受けることができるため人目を気にしたり,他の利用者のことを気にしたりする必要がない,またリハ専門家との個人的つながりが形成され,リハのきめ細かさを自覚している,といった要因が働いていることが示唆された.3)他サービス機関との連携不足も,長期利用の要因として指摘されている.しかし,上記で言及した長期利用の要因を考えたならば,連携を強めることで対応できる部分が少ないことが示唆されている.【理学療法学研究としての意義】 訪問リハを提供される利用者側の認知に着目し,長期継続利用のプロセスや背景を明確にすることは,限られた資源である訪問リハを効率的に活用するための介入策を考える際の一助となる.
著者
原田 謙 杉澤 秀博 小林 江里香 Jersey Liang
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.382-397, 2001

本研究は, 全国高齢者に対する3年間の縦断調査データ (1987-1990) を用いて, 高齢者の所得変動の実態を明らかにし, 貧困への転落, 貧困からの脱出という所得変動の関連要因を検証することを目的とした.本人と配偶者の年間所得の合計が120万円未満の高齢者を貧困層と操作的に定義し, 関連要因として社会経済的地位およびライフイベント指標を分析に投入した. 分析の結果, 以下のような知見が得られた.<BR>(1) 各時点の貧困層の出現割合は 34.7% (1987), 31.7% (1990) であったが, 追跡期間中に全体の8.8%が貧困転落, 11.8%が貧困脱出を経験していた.<BR>(2) 社会経済的地位に関して, 学歴が高い者の方が貧困転落の確率が低く, 最長職の職種によって貧困転落・貧困脱出の確率が異なった.<BR>(3) 高齢期のライフイベントに関して, 追跡期間中における配偶者との死別は, 女性にとってのみ貧困転落のリスク要因であった.追跡期間中における失職は貧困転落のリスク要因であり, 就労継続は貧困脱出の促進要因であった.<BR>(4) 社会経済的地位, ライフイベントの影響をコントロールしても, 性別, 年齢, 生活機能といった要因が, 高齢者の所得変動に有意に関連していることが明らかになった.具体的には男性の方が女性より貧困脱出の確率が高く, 高齢である者, 初回調査時点の生活機能が低い者の方が貧困脱出の確率が低かった.
著者
徳田 直子 杉澤 秀博
出版者
桜美林大学
雑誌
老年学雑誌 (ISSN:21859728)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.39-54, 2011-03-20

男性の場合,高齢期の生活に対して定年退職前の就業経験が大きく影響し,定年後の生活への適応に努力を要する場合が少なくないことなどが,量的・質的分析で行われた先行研究で明らかになっている.しかし,女性の場合,定年を伴うような職業キャリアを経験した人が絶対的に少ないこともあり,高齢期の生活に現役時代の経験がどのように影響しているかについてはほとんど研究されていない.本研究では,対象を女性に限り, 10名の女性定年退職者にインタビューを行い,定年退職後の生活の楽しみ・生きがいに対して,退職前の職業・家庭・地域生活がどのような影響をもたらしているかを質的に分析した.分析の結果,既存の研究で明らかにされた男性の知見と異なり,本調査の対象となった女性たちは,職業経験と全く別の世界を志向する傾向も見られ,定年後の生活に概ねスムーズに適応していることが示された.