- 著者
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清水 善和
矢原 徹一
杉村 乾
- 出版者
- 駒澤大学
- 雑誌
- 駒澤地理 (ISSN:0454241X)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, pp.31-56, 1988-03
- 被引用文献数
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奄美大島の中央部に位置する金作原国有林とその周辺地域で,スダジイを中心とした照葉樹林の伐採後の植物相の変化と森林の回復過程を解析した。標高260〜280mの尾根に近い南西斜面という共通条件のもとで,以下のように調査方形区を設け,樹高50cm以上のすべての木本個体について毎木調査を行った。Q1:天然林;植生遷移上の極相段階にあると考えられるもの。Q2:壮齢二次林;択伐後49年の林分。Q3:若齢二次林;皆伐後29年の林分。Q4:伐採跡ブッシュ;皆伐後8年の,木本の萌芽と草本の混生したブッシュ。(方形区の大きさはQ1〜3が20×20m,Q4が10×20m)伐採後の森林の回復過程として,次のような結果が得られた。(1)方形区に出現した全82種の木本のうち32種は伐採直後から天然林にまで連続して存在しており,森林の回復は切株からの萌芽個体を中心に行われる。(2)なかでも,スダジイの萌芽再生能力とその後の伸長成長は著しいので,伐採直後を除いてスダジイはどの発達段階においても常に材冠の優占種となり,初めからシイ林として回復するよう方向づけられている。(3)伐採直後には種子由来のアオモジ,ノボタン,ゴンズイ,リュウキュウイチゴなどの陽樹が現れるが,自己間引き現象の著しい若齢二次林では消滅する。一方,天然林を中心に出現する種としてイヌマキが特徴的である。(4)草本は木本に比べて,森林の発達段階ごとの種の置き替わりの傾向が顕著である。(5)伐採後3,4年でススキとコシダの群落が地表面を覆うため,皆伐後の大規模な表土流出と森林の後退から免れていると考えられる。(6)胸高断面積の値では皆伐後30年で天然林の80%にまで回復しており,総植物体量の回復は比較的速やかに行われるが,大径木資源の回復にはかなり時間がかかると考えられる。Q1を択伐してQ3の状態になるという仮定をおいて計算すると,調査地のシイ林は皆伐後約110年,択伐後約80年でほぼ元の天然林に近い状態まで回復すると推定される。以上のような奄美大島でみられるシイ林の伐採後の回復過程は,四手井(1977)のいう照葉樹林の萌芽再生による森林の回復の典型的なケースであり,温暖多雨な暖温帯から亜熱帯の照葉樹林を伐採後放置した場合にみられる一般的な現象であると結論づけられる。調査対象のスダジイの天然林はかつて島の全面積の85%を覆っていたとされるが,近年の伐採でわずか1,2%にまで激減し,アマミノクロウサギをはじめ,この森林を生息地とする多くの動植物の存続が危ぶまれる状態となっている。そこで,これ以上の天然林の伐採は即刻中止し,早急に基礎的かつ総合的な調査を行ったうえで積極的にこれを保護していくべきであると考える。