著者
松田 裕之 矢原 徹一 竹門 康弘 波田 善夫 長谷川 眞理子 日鷹 一雅 ホーテス シュテファン 角野 康郎 鎌田 麿人 神田 房行 加藤 真 國井 秀伸 向井 宏 村上 興正 中越 信和 中村 太士 中根 周歩 西廣 美穂 西廣 淳 佐藤 利幸 嶋田 正和 塩坂 比奈子 高村 典子 田村 典子 立川 賢一 椿 宜高 津田 智 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.63-75, 2005-06-30 (Released:2018-02-09)
被引用文献数
22

【自然再生事業の対象】自然再生事業にあたっては, 可能な限り, 生態系を構成する以下のすべての要素を対象にすべきである. 1生物種と生育, 生息場所 2群集構造と種間関係 3生態系の機能 4生態系の繋がり 5人と自然との持続的なかかわり 【基本認識の明確化】自然再生事業を計画するにあたっては, 具体的な事業に着手する前に, 以下の項目についてよく検討し, 基本認識を共有すべきである. 6生物相と生態系の現状を科学的に把握し, 事業の必要性を検討する 7放置したときの将来を予測し, 事業の根拠を吟味する 8時間的, 空間的な広がりや風土を考慮して, 保全, 再生すべき生態系の姿を明らかにする 9自然の遷移をどの程度止めるべきかを検討する 【自然再生事業を進めるうえでの原則】自然再生事業を進めるうえでは, 以下の諸原則を遵守すべきである. 10地域の生物を保全する(地域性保全の原則) 11種の多様性を保全する(種多様性保全の原則) 12種の遺伝的変異性の保全に十分に配慮する(変異性保全の原則) 13自然の回復力を活かし, 人為的改変は必要最小限にとどめる(回復力活用の原則) 14事業に関わる多分野の研究者が協働する(諸分野協働の原則) 15伝統的な技術や文化を尊重する(伝統尊重の原則) 16目標の実現可能性を重視する(実現可能性の原則) 【順応的管理の指針】自然再生事業においては, 不確実性に対処するため, 以下の順応的管理などの手法を活用すべきである. 17事業の透明性を確保し, 第3者による評価を行う 18不可逆的な影響に備えて予防原則を用いる 19将来成否が評価できる具体的な目標を定める 20将来予測の不確実性の程度を示す 21管理計画に用いた仮説をモニタリングで検証し, 状態変化に応じて方策を変える 22用いた仮説の誤りが判明した場合, 中止を含めて速やかに是正する 【合意形成と連携の指針】自然再生事業は, 以下のような手続きと体制によって進めるべきである. 23科学者が適切な役割を果たす 24自然再生事業を担う次世代を育てる 25地域の多様な主体の間で相互に信頼関係を築き, 合意をはかる 26より広範な環境を守る取り組みとの連携をはかる
著者
東 悠斗 矢原 徹一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1934, (Released:2021-04-20)
参考文献数
42

屋久島における天然林(照葉樹林とスギ林)の林床における希少植物の減少に対する、シカの採食と林床の光環境の影響を分離して検出するため、林床の光環境の異なる屋久島東部の 4地点(林冠開放度 1.4 -8.2%)に 2006年に設置された希少植物を対象とする植生保護柵内外に、 2 m×2 mの小区画をそれぞれ 8-16個設定し、 2006年と 2016年に種ごとの植被面積と種数を調査した。 Generalized Linear Mixed Model(GLMM)を用いた尤度比検定の結果によれば、シカの採食を排除した保護柵内では、光環境の違いに関係なく全種の植被率が増加し、また被度が 1%以上の種の数が増加した。しかし絶滅危惧植物の加入・消失は種によって異なった。今後は絶滅危惧植物を含む保護柵の効果について、個々の種の生態特性を明示的に扱ったより多くの地点での研究が必要である。
著者
新田 梢 長谷川 [まさ]弘 三宅 崇 安元 暁子 矢原 徹一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.100-106, 2007-03-31
被引用文献数
2

近年、理論と実証の両面から適応進化の過程を「微小な遺伝的変化の累積」とみなす従来の進化観に疑問がなげかけられている。我々は、対照的な送粉シンドロームを持ち、花の寿命が半日しかない夜咲き種と昼咲き種を材料に、少数の遺伝子座の変化による適応的進化の実証研究を進めている。本稿ではこれまでに得られている結果を要約したうえで、遺伝的基礎を探る研究の今後の課題について議論した。キスゲ属(Hemerocallis)のハマカンゾウは昼咲き種でチョウやハナバチ媒花、一方、キスゲ(ユウスゲ)は夜咲き種でスズメガ媒花である。開花パターンは、自然雑種集団では、昼咲きパターン、夜咲きパターン、1日咲きパターンが見られ、両親権の純粋な集団に比べ、大きな変異性を示した。人工雑種F1世代では、ほとんどが昼咲きパターンであった。ハマカンゾウの花では、アントシアニンが合成されるために花弁が赤い。キスゲでは、アントシアニンが合成されないため黄色になる。 FI雑種の花では、アントシアニンによる赤い色が見られない。キスゲとハマカンゾウの間に見られる開花時間と花色の違いは、少数の主要な遺伝子座に支配されている可能性が高いと考えられる。また、ESTをもとに相同性配列を検索し、花色の変化に関する遺伝子を調べた。 CHS遺伝子(アントシアニン合成系のカルコン合成酵素の遺伝子)では、ハマカンゾウとキスゲにおいて同義置換のみが見つかり、アミノ酸配列に違いはなかった。したがって、CHS遺伝子のアミノ酸置換によって花色が進化したという証拠は得られなかった。 MYB遺伝子は、ユリにおいて花のアントシアニン合成系の制御に関っているMYB遺伝子にもっとも近縁だった。今後は、適応的進化のシナリオを明らかにするために、形質分離解析やQTLマッピングを進めていく予定である。「微小な遺伝的変化の累積」を仮定した最適化モデルやESSモデルは、その限界を正しく評価し、形質進化に関与した主要な遺伝子を特定したうえで、主要遺伝子の特性を考慮に入れた仮説の提唱とモデル化を行う必要がある。
著者
矢原 徹一
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

有性生殖は生物界に広くみられる性質だが、その進化的意義はよくわかっていない。さまざまな理論が検討された結果,今日では病原体と対抗進化するうえでの利点が最も有力視されている。本研究はこの仮説を検証することを主要な目的として行なわれた。ヒヨドリバナには有性型と無性型があり,有性型は2倍体,無性型は倍数体である。両者の適応度を比較する場合,倍数性のレベルのちがいについても考慮する必要がある。本研究ではヒヨドリバナ有性型・無性型の適応度成分を野外集団および実験集団を用いて比較した。実験集団を用いた研究から,無性型は巾広い光・栄養条件の下で有性型よりも大きな純生産速度を持つことが示された。この事実は倍数性のレベルの高さが無性型の適応度を高めていることを示唆する。野外集団では無性型は有性型に比べ約8倍の種子を生産していることが明らかになった。この大きな差は純生産速度のちがい、および無性型の開花成熟サイズが有性型よりも大きいというちがいに由来すると考えられる。これらの結果は,有性型・無性型の進化には倍数性であることの利点・欠点が大きな役割を果していることを示唆する。一方、有性型はジェミニウィルスに対する感染率が平均4%であったのに対し、無性型は平均27%の個体が感染・発病していた。感染・発病した個体では種子稔性が有意に低下しており、病原体が無性型の適応度を下げる要因として作用していることが確認された。本研究は無性型が有性型に比べ病原体の攻撃をうけやすいことを野外集団で示した植物でははじめての研究例である。
著者
矢原 徹一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.111-119, 2007
参考文献数
54
被引用文献数
6

進化生態学は、まず表現型モデルによる研究によって大きく発展し、その後に、量的遺伝学のアプローチや、系統樹を用いた種間比較統計学を取り入れて、発展してきた。エコゲノミクスの成果は、これら3つの方法論の前提に疑問を投げかけている。多くの表現型モデルは制約条件としてトレードオフを仮定している。この仮定に関しては、量的遺伝学のモデルを用いた研究からすでに反証が蓄積されてきた。これに加えて、QTLマッピングにもとづくエコゲノミクス研究はトレードオフ構造が進化の過程で短期間に変わることを示した。この結果は、量的遺伝学のモデルが仮定している、Gマトリクスの安定性に対する反証でもある。また、個々のQTLの表現型効果が一様ではないことがわかり、種間比較統計学が利用している形質復元法の前提も揺らぎつつある。いまや、進化生態学は、表現型の遺伝的背景という「ブラックボックス」の中を見ることを要求されている。
著者
松田 裕之 矢原 徹一 竹門 康弘 波田 善夫 長谷川 眞理子 日鷹 一雅 ホーテス シュテファン 角野 康郎 鎌田 麿人 神田 房行 加藤 真 國井 秀伸 向井 宏 村上 興正 中越 信和 中村 太士 中根 周歩 西廣 美穂 西廣 淳 佐藤 利幸 嶋田 正和 塩坂 比奈子 高村 典子 田村 典子 立川 賢一 椿 宜高 津田 智 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.63-75, 2005-06-30
被引用文献数
20

【自然再生事業の対象】自然再生事業にあたっては, 可能な限り, 生態系を構成する以下のすべての要素を対象にすべきである. 1生物種と生育, 生息場所 2群集構造と種間関係 3生態系の機能 4生態系の繋がり 5人と自然との持続的なかかわり 【基本認識の明確化】自然再生事業を計画するにあたっては, 具体的な事業に着手する前に, 以下の項目についてよく検討し, 基本認識を共有すべきである. 6生物相と生態系の現状を科学的に把握し, 事業の必要性を検討する 7放置したときの将来を予測し, 事業の根拠を吟味する 8時間的, 空間的な広がりや風土を考慮して, 保全, 再生すべき生態系の姿を明らかにする 9自然の遷移をどの程度止めるべきかを検討する 【自然再生事業を進めるうえでの原則】自然再生事業を進めるうえでは, 以下の諸原則を遵守すべきである. 10地域の生物を保全する(地域性保全の原則) 11種の多様性を保全する(種多様性保全の原則) 12種の遺伝的変異性の保全に十分に配慮する(変異性保全の原則) 13自然の回復力を活かし, 人為的改変は必要最小限にとどめる(回復力活用の原則) 14事業に関わる多分野の研究者が協働する(諸分野協働の原則) 15伝統的な技術や文化を尊重する(伝統尊重の原則) 16目標の実現可能性を重視する(実現可能性の原則) 【順応的管理の指針】自然再生事業においては, 不確実性に対処するため, 以下の順応的管理などの手法を活用すべきである. 17事業の透明性を確保し, 第3者による評価を行う 18不可逆的な影響に備えて予防原則を用いる 19将来成否が評価できる具体的な目標を定める 20将来予測の不確実性の程度を示す 21管理計画に用いた仮説をモニタリングで検証し, 状態変化に応じて方策を変える 22用いた仮説の誤りが判明した場合, 中止を含めて速やかに是正する 【合意形成と連携の指針】自然再生事業は, 以下のような手続きと体制によって進めるべきである. 23科学者が適切な役割を果たす 24自然再生事業を担う次世代を育てる 25地域の多様な主体の間で相互に信頼関係を築き, 合意をはかる 26より広範な環境を守る取り組みとの連携をはかる
著者
矢原 徹一
出版者
九州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

カエル類では、一般に世代が重複し、一メスが一年に複数回産卵し、雌雄間で成熟時の体サイズに差がある。このような条件を備えた生物では、親が季節的に性比を変化させる可能性が理論的に予測される。しかし、カエル類では幼生・幼体期には外見で性別がわからないため、これまで性比の研究は皆無であった。申請者は、共同研究者の向坂・三浦と協力して、ツチガエルの卵を使ってDNA性判定を行う技術を確立した。本研究の目的は、この技術を使って両生類ではじめての本格的な性比研究を行い、親が季節的に性比を変化させる可能性を検討することである。日本産ツチガエルには、性染色体の形態や性差に関して明瞭に異なる2つの系統が分化している。新潟県などの日本海側地域の系統では、性染色体に関してメスがヘテロ(ZW型)だが、静岡県などの太平洋側地域の系統では、性染色体に関してオスがヘテロ(XY型)である。2000年度には、ZW型集団に関して予測どおり親が季節的に性比を変化させていることを明らかにし、論文を公表した。本年度には、XY型集団で性比の季節的変化を調べた。XY型集団では、母親側が性比を調節することは困難であり、そのため性比の季節的変化はないものと予測していた。ところが、DNA性判定の結果、XY型集団においても性比が季節的に変化することが判明した。この結果は、オスがX精子とY精子の比率を調節しているか、あるいはメスがX精子とY精子の受精効率が変わるように卵膜を変化させているか、どちらかを示すものである。いずれにせよ、従来の常識を覆す発見であるため、さらに証拠を固めたうえで、論文を公表したい。
著者
長谷部 光泰 倉谷 滋 嶋田 透 藤原 晴彦 川口 正代司 深津 武馬 西山 智明 岡田 典弘 阿形 清和 河田 雅圭 郷 通子 豊田 敦 藤山 秋佐夫 望月 敦史 矢原 徹一
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本領域の目的である、多様な研究から「複合適応形質進化の共通メカニズム」を推定するという総合的研究を展開する、進化生物学とゲノム生物学を融合させる、を実現するため総括班を有機的に組織し、下記の活動を行い、効率的に連携できた。(1)領域会議を年2回、インフォマティクス情報交換会を5年で18回、ニュースレターを5年で63号発行し、領域内での情報共有、共通意識形成を行った。(2)ゲノム支援活動として実験方法のアドバイス、ゲノム配列決定支援、外部委託についてのアドバイス、各班のインフォマティクス担当者などに指導を行った。(3)形質転換実験技術支援を行った。(4)国内、国際シンポジウムをほぼ毎年開催した。
著者
清水 善和 矢原 徹一 杉村 乾
出版者
駒澤大学
雑誌
駒澤地理 (ISSN:0454241X)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.31-56, 1988-03
被引用文献数
2

奄美大島の中央部に位置する金作原国有林とその周辺地域で,スダジイを中心とした照葉樹林の伐採後の植物相の変化と森林の回復過程を解析した。標高260〜280mの尾根に近い南西斜面という共通条件のもとで,以下のように調査方形区を設け,樹高50cm以上のすべての木本個体について毎木調査を行った。Q1:天然林;植生遷移上の極相段階にあると考えられるもの。Q2:壮齢二次林;択伐後49年の林分。Q3:若齢二次林;皆伐後29年の林分。Q4:伐採跡ブッシュ;皆伐後8年の,木本の萌芽と草本の混生したブッシュ。(方形区の大きさはQ1〜3が20×20m,Q4が10×20m)伐採後の森林の回復過程として,次のような結果が得られた。(1)方形区に出現した全82種の木本のうち32種は伐採直後から天然林にまで連続して存在しており,森林の回復は切株からの萌芽個体を中心に行われる。(2)なかでも,スダジイの萌芽再生能力とその後の伸長成長は著しいので,伐採直後を除いてスダジイはどの発達段階においても常に材冠の優占種となり,初めからシイ林として回復するよう方向づけられている。(3)伐採直後には種子由来のアオモジ,ノボタン,ゴンズイ,リュウキュウイチゴなどの陽樹が現れるが,自己間引き現象の著しい若齢二次林では消滅する。一方,天然林を中心に出現する種としてイヌマキが特徴的である。(4)草本は木本に比べて,森林の発達段階ごとの種の置き替わりの傾向が顕著である。(5)伐採後3,4年でススキとコシダの群落が地表面を覆うため,皆伐後の大規模な表土流出と森林の後退から免れていると考えられる。(6)胸高断面積の値では皆伐後30年で天然林の80%にまで回復しており,総植物体量の回復は比較的速やかに行われるが,大径木資源の回復にはかなり時間がかかると考えられる。Q1を択伐してQ3の状態になるという仮定をおいて計算すると,調査地のシイ林は皆伐後約110年,択伐後約80年でほぼ元の天然林に近い状態まで回復すると推定される。以上のような奄美大島でみられるシイ林の伐採後の回復過程は,四手井(1977)のいう照葉樹林の萌芽再生による森林の回復の典型的なケースであり,温暖多雨な暖温帯から亜熱帯の照葉樹林を伐採後放置した場合にみられる一般的な現象であると結論づけられる。調査対象のスダジイの天然林はかつて島の全面積の85%を覆っていたとされるが,近年の伐採でわずか1,2%にまで激減し,アマミノクロウサギをはじめ,この森林を生息地とする多くの動植物の存続が危ぶまれる状態となっている。そこで,これ以上の天然林の伐採は即刻中止し,早急に基礎的かつ総合的な調査を行ったうえで積極的にこれを保護していくべきであると考える。