- 著者
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村田 広茂
清水 渉
- 出版者
- 一般社団法人 日本不整脈心電学会
- 雑誌
- 心電図 (ISSN:02851660)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, no.3, pp.170-175, 2023-10-31 (Released:2023-11-03)
- 参考文献数
- 6
心電図のT波は,P波―QRS波に続く第三の主要な波であり,心臓の電気的興奮からの回復(再分極)過程を表す波形である.T波を評価する際には,まず正常なT波の極性や振幅の基準値を理解しておく必要がある.次に,異常T波の形状を大まかに3パターンに分けて,つまり,高いT波,平低T波,陰性T波と,それぞれ心電図診断をする.さらに,二相性,二峰性(ノッチ型)などの幅の形態変化を考慮して,それぞれ特徴的な病態や疾患との関わりを理解し,鑑別診断することが大切である.高いT波として重要なのは,高カリウム血症に特徴的なテント状T波と,心筋梗塞超急性期のみに出現する超急性期T波(Hyper acute T wave)である.陰性T波のうち虚血性心疾患に関与するものが重要であり,心筋梗塞の亜急性期から再灌流後に出現する冠性T波(Coronary T wave),一過性の心筋虚血を反映し重度冠動脈疾患を示唆する陰性もしくは二相性T波(Wellens症候群)などがある.心肥大を示唆する,ストレイン型ST-T変化や心尖部肥大型心筋症などに見られる巨大陰性T波(Giant negative T wave)など,各疾患に特徴的なT波も報告されている.また,先天性QT延長症候群の遺伝子型ごとに特徴的なT波や,Brugada症候群のJ点(ST)上昇から引き続く陰性T波など,診断に直結する重要なT波もある.このように,正常なT波の形状とその成因を理解したうえで,臨床上重要な病態・疾患を中心にT波の異常との関係を総合的に理解することが重要である.