- 著者
-
松井 理恵
- 出版者
- 北海道社会学会
- 雑誌
- 現代社会学研究 (ISSN:09151214)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, pp.27-43, 2017
本稿は,韓国の地方都市,大邱でおこなわれている北城路近代建築物リノベーションを事例として,外部から転入してきた住民を担い手とする景観保全が,「都市の継承」として成立する条件を明らかにした。先行研究において,歴史的環境は地域社会と不可分なものとされてきたが,日本人の植民及び引揚げ,朝鮮戦争の混乱,産業化の進展による人口流入など,近代以降幾度もの断絶を経てきた大邱では,歴史的環境と地域社会のつながりを前提とすることはできなかった。北城路近代建築物リノベーションでは,個々の建築物を都市の経験のなかに再配置する工夫,すなわち他の建築物との関係のなかに位置づける工夫と,歴史的定点のズレを内包させ北城路の来し方を示す工夫がみられた。統一された景観ではなく,あえて異なる時代が混在した景観を生み出し,保全することによって,都市の継承の端緒を開いたのである。郊外化と旧市街地の都市再生が同時に進められている韓国の地方都市では,資本が旧市街地に回帰してジェントリフィケーションが進む可能性も高い。このような状況において,都市の継承を目的とする歴史的環境保全の意義は大きい。