著者
松原 正毅 庄司 博史 小長谷 有紀 林 俊雄 堀 直 濱田 正美
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

本研究の平成5年度における調査では、新彊とモンゴル国を主要な研究対象とした。新彊においては、アルタイ山脈と天山山脈にて調査を継続している。アルタイ山脈では、平成3年度から持続しているカザフ族、トゥワ族、トルグ-ト・モンゴル族の遊牧生活についての調査をおこなった。この調査にあたったのは、松原正毅と楊海英である。従来、この地域の遊牧生活についての調査資料はまったくなかったといってよい。その意味では、すべての研究実績が学術的な空白をうめるうえでたいへん有益な役割をはたしたといえる。アルタイ山脈のカザフ族については、移動の歴史、社会構造の変遷、遊牧生活の現状などにわたる多大な情報を収集することができた。とくに、1930年代から1980年代にいたる時代(中華人民共和国の成立前後をふくむ時代)に対応した社会組織の編成と再編成について克明な資料を入手した。この資料は、社会主義化のなかで従来のカザフ遊牧民の社会組織がどのような過程をへて崩壊し、1984年の生産請負制の導入にともなってあらたな形に再編成されたかを具体的にしめす重要なものといえる。同時に、この資料は、遊牧の起源と遊牧社会の特質についての考察に多大な寄与をもたらすものである。アルタイ山脈では、カザフ族だけでなく、トゥワ族やトルグ-ト・モンゴル族も調査対象になった。トゥワ族やトルグ-ト・モンゴル族についての調査資料は、地域社会における少数民族のありかたをかんがえるうえで貴重な情報をもたらしている。とくに、トゥワ族は、中国においても1980年代にはいってひとつの独自な集団と認定された民族で、新彊全域で2000人ほどの人口を保持するにすぎない。トルコ系の言語をはなしているが、宗教的にはモンゴル族とおなじ仏教徒である。そのため、外部からはモンゴル族と同一にあつかわれてきた。トゥワ族自身も一部は独自の民族意識をもっているが、一部はモンゴル族意識をもつというように、民族意識のうえにおいて分裂している。この事象は、民族形成においてみずからの意識が重要な役割をはたすことをしめす例といえる。トルグ-ト・モンゴル族は、現在カザフ族と密接な接触をたもちながら遊牧生活をおくっているため、カザフ語とのバイリンガル現象があらわれてきている。これがかれらの生活に相互的な影響をおよぼしている。トゥワ族やトルグ-ト・モンゴル族の事例は、民族形成論を構築するうえで貴重な手がかりを提示するものである。同時に、トゥワ族やトルグ-ト・モンゴル族の遊牧に関する歴史人類学的資料は、従来の学術的空白をうめるものといえる。トルグ-ト・モンゴル族の調査には、小長谷有紀もくわわった。新彊では、アルタイ山脈だけでなく天山山脈においても調査をおこなった。天山山脈では、山脈の中央に位置するユルドゥス渓谷を中心に調査を実施をしている。この調査には、松原、林俊雄、浜田正美、堀直、楊が参加した。ユルドゥズ渓谷は、非常にふるくから遊牧民の活動の舞台となった地域であるが、中華人民共和国の成立後軍事的な要地となったため外国人研究者のたちいりがまったく許可されない地域となっていた。今回、外国人研究者としてはじめて入城がゆるされたので、新発見にちかい多大な成果があった。いままで記録されていないおおくの古墳や石人、遺構を発見し調査をおこなっただけでなく、この渓谷で遊牧生活をおくるトルグ-ト・モンゴル族について多方面にわたる情報をうることができた。モンゴル国における調査は、西モンゴルを中心におこなった。この調査には、松原、林、浜田、堀、楊が参加した。西モンゴルも、従来外国人研究者のたちいりが厳重に制限されていた地域である。そのため、数おおくの遺跡や遺構をあらたに発見し、記載することができた。それだけでなく、モンゴル語化しながらもイスラム教の信仰を保持するトルコ系のホトン族の調査もおこなっている。ホトン族の資料も、民族形成論を構築するうえに重要な情報を提供するものといえる。いずれも遊牧の歴史人類学的研究にとって貴重な成果である。以上のほか、青海省において庄司博史が土族の調査を担当した。上記の調査の比較資料として重要といえる。

1 0 0 0 牧畜民

著者
永田雄三 松原正毅編
出版者
東洋経済新報社
巻号頁・発行日
1984
著者
後藤 明 板垣 雄三 松原 正毅 佐々木 高明 板垣 雄三
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

1.平成3年度調査研究実施計画にもとづき、学術調査の対象国をアメリカ合衆国にしぼり、同国の地域研究機関の研究実績面、組織・行政面の情報集積・解析・評価をおこなった。2.研究実施のための計画作業わが国における新しい「地域研究」の組織上の、また研究方法上の推進体制に関して国立民族博物館においておこなっている調査研究の作業の進行と密接に連携しつつ、本研究組織としては、欧米諸国における「地域研究」の歴史と現状に関する事前サ-ヴェイをさらに深化させるべく集中的討議をおこなうとともに、この学術調査の実施上の重点目標の確点、調査項目の調整、調査対象機関の選定、それとの連絡態勢の確立、調査対象機関における協力者との事前の協議など、計画の具体化をすすめた。3.研究遂行のための現地調査実施の概要1)現地調査のための派遣者(2名)研究分担者 板垣雄三(東京大学名誉教授)研究協力者 竹下典行(文部省学術国際局研究機関課課長補佐)2)現地調査のための派遣期間:平成3年11月5日〜16日(12日間)3)おもな訪問機関および応接者ワシントンDC(1)ジョ-ジタウン大学現代アラブ研究センタ-/イブラヒ-ム・イブラヒ-ム所長およびマイケル・ハドソン教授(2)ジョ-ジ・ワシントン大学政治学部/バ-ナ-ド・ライク教授(前学部長)(3)中東研究所/ロバ-ト・キ-リ-理事長(4)スミソニアン研究機構ウイルソン・センタ-/ロバ-ト・リトワク国際研究部長(5)アメリカン大学国際学部(SIS)/ルイス・グッドマン学部長およびシェリフ・マルディン教授マサチュウセッツ州ボストン(6)マサチュウセッツ工科大学アガカ-ン計画/バ-ブロ・エック部長(7)ハ-バ-ド大学中東研究センタ-/ウイリアム・グレアム所長(8)ハ-バ-ド大学国際開発研究所/大木正光研究員(前外務省中近東二課長)ニュ-ヨ-ク市(9)社会調査研究所/ジャネット・アブ-ルグド教授およびエリック・ホブズボ-ム教授(10)コロンビア大学中東研究所/グレゴリ-・ゴ-ズ3世助教授(11)社会科学研究所(SSRC)/メアリ-・マクドナルド事務局員4.観察結果および収集された情報資料にもとづく研究作業本研究組織としては、調査実施から得られた知見を整理・分析・評価する作業をすすめつつ、調査研究のつぎの段階の準備にとりくんでいる。本年度の調査にかぎっていえば、アメリカ合衆国においては、世界諸地域の地域研究がしばしば政策形成・実施のための応用研究に引き寄せられ基礎研究としての系統性と持続性に欠ける結果となってきたことへの反省が全般的につよく生じており、教育の次元からの再建・再編への動きが看取される。わが国における総合的な地域研究の組織化への志向は、そこで大きな関心を呼んでいる。
著者
佐藤 次高 加藤 博 私市 正年 小松 久男 羽田 正 岡部 篤行 後藤 明 松原 正毅 村井 吉敬 竹下 政孝
出版者
東京大学
雑誌
創成的基礎研究費
巻号頁・発行日
1997

1.中東、中央アジア、中国、東南アジア、南アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカを対象に、イスラームの諸問題を政治、経済、思想、歴史、地理など広範な分野にわたって検討し、近現代の政治運動、知識人の社会的役割、聖者崇拝など、将来の重要研究課題を明らかにした。2.和文と英文のホームページを開設し、研究情報を迅速に公開したことにより、日本のイスラーム研究の活性化と国際化を実現することができた。研究の成果は、和文(全8巻)および英文(全12巻)の研究叢書として刊行される。なお、英文叢書については、すでに3巻を刊行している。3.アラビア文字資料のデータベース化を推進し、本プロジェクトが開発した方式により、全国共同利用の体制を整えた。これにより、国内に所在するアラビア語、ペルシア語などの文献検索をインターネット上で簡便に行うことが可能となった。4.各種の研究会、現地調査、外国人研究者を交えたワークショップ、国際会議に助手・大学院生を招き、次世代の研究を担う若手研究者を育成した。とりわけ国際シンポジウムに多数の大学院生が参加したことは、海外の研究者からも高い評価を受けた。5.韓国、エジプト、トルコ、モロッコ、フランスなどから若手研究者を招聘し(期間は1〜2年)、共同研究を実施するとともに、国際交流の進展に努めた。6.東洋文庫、国立民族学博物館地域研究企画交流センターなどの研究拠点に、イスラーム地域に関する多様な史資料を収集し、今後の研究の展開に必要な基盤を整備した。