- 著者
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松沢 裕作
- 出版者
- 社会経済史学会
- 雑誌
- 社会経済史学 (ISSN:00380113)
- 巻号頁・発行日
- vol.78, no.4, pp.565-584, 2013-02-25 (Released:2017-06-10)
本稿の課題は,1872年から73年にかけて発行されたいわゆる「壬申地券」のうち,農村部における地券(郡村地券)の発行の意義を,貢租徴収との関連で考察することにある。地租改正本体(「改正地券」交付)に先立って実施された壬申地券交付事業については,近代的所有権の導入がなされたという評価が通説的地位を占めているが,村請制の存続という事実を考慮に入れるならば再検討の余地があると考える。本稿では,まず政策過程の分析から,廃藩置県以前の大蔵省が検地の回避と検見の実施を基本方針としていたこと,それが民部省の批判と廃藩置県後の状況によって破綻し,すでに1869年に神田孝平が提起していた沽券税法が一挙に採用される経緯を明らかにした。次いで,実際に壬申地券の発行がなされた武蔵国比企郡宮前村の事例を分析し,村請制と旧貢租の存続という条件のもとでは,測量の結果がそのまま地券に直結することは不可能であり,地券記載の土地面積は,村内土地所有者相互の相対的な比率を表示するものにとどまることを示した。