著者
江崎 治夫 安田 克樹 武市 宜雄 平岡 敬生 伊藤 利夫 藤倉 敏夫 矢川 寛一 林 雄三 西田 俊博 石丸 寅之助
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.44, no.9, pp.1127-1137, 1983-09-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
9
被引用文献数
2 5

広島での原爆被爆者からの甲状腺癌の発生を知るため研究を行った.対象は統計処理を容易ならしめるよう,性別,被爆時年齢別,被爆線量別にあらかじめ定められた固定集団である放射線影響研究所の寿命調査拡大対象を用い, 1958年から1979年までの22年間に診断,或いは剖検により発見された甲状腺癌を調べ,被曝放射線量との関係を明らかにした. 75,493人の中から125人の臨床的甲状腺癌が発生した.男15人,女110人で,人口10万人対粗年間発生率は男2.7, 女12.4で男女共,線量の増加と共にリスクが増加する.若年女性に特に,この傾向が著るしい.期待数に対する観察数の比(O/E)をみると,男女別でも,男女合計でも,線量の増加と共に甲状腺癌が増加する.線型反応についての検定を行うと,女性及び男女合計では線量効果がみとめられた.又年齢が若い程線量効果が明らかである. 50rad以上被爆した群の対照群に対する相対性リスクは4.2で,男女差はないが男性は数が少い為,女性にのみ有意である.年齢別では20歳末満のリスクが7.9と高く,統計的に有意である.統計的に有意な回帰係数が求められた20歳末満の女性の年間1 rad当りのリスクの増加は100万人対約3.4である. 同期間に剖検された4,425人中155人に潜伏癌がみられた. 50rad以上の群の相対的リスクは1.9で有意に高く, O/E比は男1.6, 女1.8でほぼ等しいが,女子にのみ有意であった.
著者
高橋 恵子 多賀 正尊 伊藤 玲子 丹羽 保晴 林 雄三 中地 敬 楠 洋一郎 濱谷 清裕
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.324, 2010 (Released:2010-12-01)

原爆被爆者成人甲状腺乳頭がんの分子生物学的解析より、RET/PTC再配列と放射線量との有意な関連に加えて、遺伝子変異が未同定、即ちRET、NTRK1、BRAFおよびRAS遺伝子に変異を持たない甲状腺乳頭がん症例も放射線量に関係することが見出された。このことは、RET/PTC遺伝子再配列以外にも、放射線関連成人甲状腺乳頭発がんに関与する遺伝子変異が存在することを示唆する。 我々は遺伝子再配列型の癌遺伝子に焦点をおき、遺伝子変異が未同定の甲状腺乳頭がん症例に生じている遺伝子変異の解析を行った。その結果、甲状腺乳頭がんではまだ報告されていない新しい型の遺伝子再配列、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)遺伝子の再配列を初めて見出した。被曝症例19例中10例にALK遺伝子再配列を見出したが、非被曝症例6例中にはいずれにもこの変異は検出されなかった。現在、ALK再配列のパートナー遺伝子を同定中である。これらの結果より、放射線関連成人甲状腺乳頭発がんにおいて、RET/PTC再配列および ALK再配列を主とする染色体再配列が重要な役割を担うことが示唆される。