著者
不破 麻紀子 柳下 実
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.226-239, 2016 (Released:2017-01-15)
参考文献数
17

本稿は「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査2007」を用い, 女性の学歴と結婚に対する肯定・否定的意識との関連に加え, 結婚を「してもしなくてもよい」ものととらえるような「関心」の低さとの関連を検討した. 女性の自立仮説からは高学歴女性は結婚に対して否定的であると予想される. つり合い婚仮説を敷衍すると, 学歴が女性の結婚意識に与える影響として(1)肯定的にするという効果の方向性が考えられる一方, (2)否定的にはしないものの, 結婚に対する「関心」を低めるという方向性も予想される. 結婚に対して否定的, 肯定的, 関心が低い, の3カテゴリーをもつ結婚意識を従属変数とした回帰分析(多項ロジットモデル)の結果から, 高学歴女性は「結婚したくない・考えていない」よりは「してもしなくてもよい」を選びやすい一方で, 「してもしなくてもよい」と「ぜひ・できれば結婚したい」の間では差がないことが示された. 本稿の知見は, 女性にとって高学歴であることが結婚に対する関心の低さにつながる可能性を示唆する. 今後の研究においては, 結婚に対する肯定的・否定的意識に加えて, 関心の高低を含めて検討することが必要となろう.
著者
柳下 実
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.343-359, 2020

家事労働研究は家事労働の分析を通して,世帯内労働の男女不平等を明らかにしてきた.特に量的な家事労働研究は,料理,皿洗い,掃除などのタスクに費やす時間や頻度から家事労働を把握してきた.しかし,これらの研究は世帯員の活動を滞りなく進めるためになされる世帯のマネジメントを見落としているという批判がある.本稿は上記の批判を発展させ,世帯のマネジメントには時間の捻出である生活時間のやりくりや,やりくりの可能性を考慮してスケジュールを構成する生活時間の組み立てが含まれると論じ,さらにそれらを女性が担っていると予想する.<br>そのうえで生活時間のやりくりを量的調査から捉える試みとして,世帯の構成が変化する結婚や子どもを持つことが生活時間に与える影響に着目し,探索的な分析をおこなった.働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査を用い,固定効果モデルで結婚や子どもを持つことによって,男女の起床・家を出る・帰宅・就寝時刻にどのような変動が生じるのかを検討した.結果から,結婚により男女とも起床・帰宅・就寝が早くなっていた.子どもを持つことは男女ともに時刻へ有意な影響を与えていたが,女性への影響がより大きく,子どもを持つ女性は起床・帰宅・就寝が男性より有意に早い.本稿の知見から子どもを持つ際の活動のタイミングを動かすという労働の負担が,女性に大きいことが示唆された.
著者
柳下 実 不破 麻紀子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.7-18, 2019

<p>近年,日本社会でも有配偶離婚率が高まっている.離別が家事労働に与える影響を検討した欧米の先行研究では,離別は男性の家事を増やし,女性の家事を減らすことが示されている.しかし,日本では欧米諸国に比べ離別者の実親同居率が高いため,離別の効果の検証には親同居の影響を考慮する必要がある.本稿は働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査を用いて,離別が男女の家事にどのような影響を与えるのか,また離別者の家事は親と同居することによってどのように変化しているのかを固定効果モデルで検討した.結果から,離別によって男性は家事を増やし,女性は家事を減らすことが示された.また,親同居による家事の削減効果は既婚者より離別者の方が大きいことも示された.離別者は稼得役割と家事労働を一人で担わなければならず役割過重が生じやすいが,親と同居できるか否かで家事労働の負担には格差が生じていることが示唆された.</p>
著者
柳下 実 不破 麻紀子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.142-154, 2017-10-31 (Released:2018-11-08)
参考文献数
46

日本では女性の就業が拡大する一方,非正規雇用の増加による雇用の不安定化や就業と家庭生活の両立の困難など,結婚を取り巻く厳しい環境は根強く残り,未婚・晩婚化の背景ともなっている.そこで本稿は「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査2007」を用いて未婚女性の就業継続意向および雇用の不安定性と希望する結婚までの期間との関連を検討する.結果から,就業継続を予定している女性は希望する結婚までの期間が長いことが明らかになった.就業継続を目指す未婚女性が結婚後に就業と家庭生活の両立が困難になると予想し,結婚を先延ばししようとしている可能性が示唆された.また,非正規雇用の女性は希望する結婚までの期間が長いのに対し,大企業や専門職など比較的安定した就業環境で働く女性は短いことが示された.本稿の結果は女性の就業状況が希望する結婚までの期間の長短に影響を与えていることを示唆する.