- 著者
-
柳原 英人
- 出版者
- 筑波大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2003
MBE装置を用いてルチル型遷移金属酸化物薄膜の成長を目的とした実験を行った.ルチル型遷移金属酸化物の中でも室温で金属強磁性を示す事で知られるCrO_2単結晶膜をMBEで成長させることを第一の目標とした.遷移金属酸化物はその価数によって様々な化合物が存在し,Crの場合には3価が安定であるため,単純な酸化法ではCr_2O_3が成長する,Cr^<4+>として安定化して成長させるためにまず,酸化源としてオゾンを選んだ.まず初年度にはオゾン純化装置を開発し純度90%以上のオゾンビームをMBE装置内に導入できるようにした.またRHEED像の観察システムを開発し,オゾンビーム中での薄膜成長をRHEEDを用いてリアルタイムに測定ができるようになった.CrO_2単結晶膜のMBE成長については,ルチル(TiO_2(100))単結晶を基板として,純オゾン中でのMBE成長を試みた.基板温度を室温から500℃まで様々に変化させ,オゾン分圧を,×10^<-4>〜×10^<-6> Torrと変化させて成長条件の探索を行ったがいずれのオゾン圧においても150℃以下ではアモルファスに,それ以上の温度では,Cr_2O_3(100)が成長した.このことからCr^<4+>の成長には高い酸化力を持つ酸化源(オゾン)のみでは十分でなく,比較的高い圧力下での成長が不可欠であると考えられる.本課題の遂行過程において開発,改良したMBE装置を用いて,いくつか副産的な成果もあった.一つ目は,RHEED装置の改良の結果,格子不整合の大きな金属多層膜において,その格子歪みが膜成長とともに緩和していく様子を定量的に観察することが可能となり,Co/Rh超格子の格子歪みと磁気異方性の関係を定量的に理解することに成功した.また二つ目の成果としてMgO(001)を基板としてオゾン中でFe酸化物を成長させるとγFe203エピタキシャル膜が得られるという発見である.この成果は今後様々な方向に展開する可能性がある.