著者
柳瀬 昇
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.74-87, 2009 (Released:2017-02-06)

2003年7月に行われた5例目の電子投票による選挙では,電子投票機の異常により 投票が中断するなどの大規模なトラブルが発生し,選挙人から行政不服申立てや選挙無効訴訟が提起されるに至った。名古屋高等裁判所は,2005年3月,投票機の異常によって選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあったとして選挙を無効と判示し,最高裁判所も,その判断を支持した。 本稿では,この岐阜県可児市電子投票事件について,事件の概要,選挙人からの行政不服申立てとそれに対する市・県選管による判断および裁判所の判断を概観したうえで,電子投票を用いた選挙の手続の瑕疵をただす方途について検討しつつ,各機関による法的判断について評釈を行った。
著者
柳瀬 昇
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.74-87, 2009

2003年7月に行われた5例目の電子投票による選挙では,電子投票機の異常により 投票が中断するなどの大規模なトラブルが発生し,選挙人から行政不服申立てや選挙無効訴訟が提起されるに至った。名古屋高等裁判所は,2005年3月,投票機の異常によって選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあったとして選挙を無効と判示し,最高裁判所も,その判断を支持した。 本稿では,この岐阜県可児市電子投票事件について,事件の概要,選挙人からの行政不服申立てとそれに対する市・県選管による判断および裁判所の判断を概観したうえで,電子投票を用いた選挙の手続の瑕疵をただす方途について検討しつつ,各機関による法的判断について評釈を行った。
著者
曽根 泰教 玉村 雅敏 古谷 知之 柳瀬 昇
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、「討論型世論調査」という社会実験を実施することにより、民主主義において解決が難しいとされている「世代を超える問題」(将来世代と現世代との関係をめぐる問題)を解決できるのかについて検討するものである。全国の有権者3,000人を対象とする世論調査を実施し、その回答者のうち、さまざまな世代の男女127名が、2泊3日の討論フォーラムに参加した。参加者は、各3回の小グループ討論と全体会議で議論し、その前後でアンケート調査に回答した。その結果、将来世代の利益をも考慮に入れて問題を十分に把握して議論をし、有意な意見変化を観察することができた。
著者
柳瀬 昇
出版者
慶應義塾大学
巻号頁・発行日
2009

本稿は、2009年5月までにわが国での導入される予定の裁判員制度の意義を、公法学及び政治学の領域において昨今きわめて注目されている討議民主主義(deliberative democracy)理論に基づき、再構成しようとするものである。第1編では、この制度を創設する裁判員法(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律)の立法過程の分析を通じて、制度がそもそも目指していた意義と制度設計上の論点について考察するとともに、裁判員制度の概要を整理する。ここでは、裁判員制度が、単純な民主主義の理念に基づく司法の民主化のためではなく、司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資するべく設けられたものであるということを確認する。第2編では、現代民主主義理論の転回者として注目されている討議民主主義理論について、公法学及び政治学における主要な議論を踏まえて、その内容の明確化を図る。これは、公共的な事項の検討・決定にあたって、十分な情報に基づく個人の内心における熟慮と他者との間の討議という過程によって形成される選好を重視すべきであるとする民主主義理論である。第3編では、第1編及び第2編を受けて、この新しい民主主義理論に基づき裁判員制度の意義を再構成することが可能であり(制度設計者の意思などにこの理論と通底するものがあるため)、かつ、妥当である(裁判員制度の憲法解釈論上の2つの難点を克服しうるため)ということについて論証し、この理論が裁判員制度の設計や運用に関して、どのような示唆を与えるかについて検討する。裁判員制度の意義を討議民主主義理論に基づき再構成するならば、この制度は、国民が刑事事件の裁判という公共的な事項について、検討し、決定するという1つの「公共的討議の場(forum for public deliberation)」を創設するものであるといえる。そして、それを通じて国民の公民的徳性(civic virtue)を涵養することを、制度導入のもう1つの意義として挙げることができる。This paper attempts to formulate a new interpretation of the purpose of the saiban-in (lay judges) trial system from the perspective of the theory of deliberative democracy.The saiban-in trial system means participation of the general public in the criminal justice system, which will be implemented in Japan by May 2009. In the first part of this paper, I analyze the legislative process of the Law for Implementation of the Saiban-in System in Criminal Court Procedures (Act No. 63 of 2004), which institutes this trial system. Additionally, I consider the expected purpose, the controversial issues concerning the institutional design and basic structure ofthe saiban-in system. Thereby, it becomes apparent that this trial system is designed not for democratization of the judiciary but for enhancement of the power and authority of the judiciary.In the second part, I explore what deliberative democracy is. The theory of deliberative democracy now attracts a great deal of attention in the fields of both constitutional and political theories. It is commonly believed that this turned the democratic theory in the twentieth century drastically. This theory respects the value of people’s well-informed deliberations and requests to make a consideration or a decision on public affairs based on refined preferences after suchdeliberations.Based on the preceding parts, in the third part of this paper, I first demonstrate that it is possible and appropriate to propose a different interpretation of the purpose of the saiban-in system according to the theory of deliberative democracy. The reason why my proposal is possible is that some founders of this trial system seem to strongly sympathize with this new democratic theory. The reason why it is appropriate is that this theory can provide answers to two questions that this trial system has for its constitutionality. The second point that requires clarification is to examine what this democratic theory suggests about the saiban-in system. On interpreting the saiban-in system from the standpoint of deliberative democracy, we can understand that this trial system establishes a sort of forum for public deliberation, where people deliberate about criminal cases that are public affairs and make decisions. We conclude that to cultivate people’s civic virtues through deliberation is another meaning of the saiban-in trial system.