著者
柴村 恵子 望月 照子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.53-61, 1982-03-31

東南アジアの大陸部には伝統文化を異にする幾種類もの少数民族が入り交って分布しているが,これらのうちケシ栽培で知られ,少数民族の中でも多数の人口を占めるメオ族の,タイ国における生活と民族服について調査研究を行い,彼らの生活習俗において次の諸点を把握することが出来た.1.タイ国でのメオ族は,チェンマイ,チェンライ,ターク,カンぺンぺト,ロエイ,ぺチャブーンの北部を中心に分布している.その由来については,「メオ」とはタイ人がつけた呼び名である.彼らは本来は水田耕作を行う種族で「苗」つまり「ミャオ」と呼ばれていたが,それがなまってメオとなり,支配者に不服従な野蛮人という意味に解されるようになった.しかし,彼ら自身は「自由な人」という意味の「フモン」あるいば「モン」といっている.2.彼らの衣生活は,夏冬,日常着,外出着,儀式用といった区別が基本的にはない.現在タイ国には青メオ族が約58%,白メオ族が約42の割合で住んでいるが,これは主に衣服の色の違いによって区別されたものであり,青メオ族の女性は,ろうけつ染めのプリーツ・スカート,白メオ族は白のプリーツ・スカートにその特色が見られる.3.食生活は米と野菜が主食であるが,正月には精霊に豚や鶏のいけにえをささげ,それを食する.しかし,この間野菜は食べない.4.部落の構成は小村集落であり,20軒位が平均的部落の規模である.又,一戸当たりの住人は6〜7入が標準となっている.家屋は平土間式であるが,貯蔵庫は湿気とねずみの浸入を防ぐため高床式となっている.5.メオ族は宗教としてアニミズムを信仰し,種祖神は「槃瓠(ばんこ)」と称する霊犬であり,聖霊には豚や鶏のいけにえをささげる習慣がある.6.メオ族の結婚は,男女の結びつき以前に霊の結合という思想が強く,徹底した同姓不婚である.7.民族服は彼らの仲間意識を強調するものであり,特に女子の衣服や装身具には種族固有の色彩感覚や,デザイン思想が山地民族の生活と調和して着用されている.しかし,衣服本来 の機能との関係については今後の課題であると考えられる.8.近年ではタイ政府の政策により,小学校の建設,政府指導の産業の奨励などにより,山地民族特有の生活も平地化されてしまう日もそう遠くはないのではないかと思われる.最後に本研究を行うに当たり,終始懇切な御指導を賜わった岐阜大学教授中野刀子先生,御助言及び御校閲をいただいた名古屋女子大学教授栃原きみえ先生,又,資料の提供を下さった国立民族学博物館並びに現地調査に当たり格別の御協力をいただいた鈴木自動車工業株式会社社長鈴木修氏をはじめ,タイ鈴木モーター株式会社のチャチャイ,カネーの両氏に対し深く感謝の意を表する次第である.
著者
柴村 恵子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.169-175, 1972-04-01

1.白:黒=1:1については,低照度では白がきれいに見え,高照度になるに従って黒がきれいに見える.2.白:黒=1:13については低照度では無地に見え,高照度になると白線が進出する.3.1000[lx]以上になると,グレアの関係が入り見にくく,目もつかれやすくなる.又布が派手であったり,地味であったりするのは白線がグレーに見えたり,全体に黄味がかつたり,線が光って進出したりするために影響するものと思われる.4.横,縦,斜縞の三種のうち斜が一番見にくい.次に横,縦の順になっているが,これは材質,照度によっても違いがあるので一概には言えない.以上の実験結果から今後各種の縞幅について研究を重ねたいと思う.終りに本研究にあたり御指導いただきました岐阜大学教育学部の中野刀子教授に厚く御礼申し上げます.
著者
坂倉 園江 柴村 恵子 小沢 としみ 新 恵美子
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.93-106, 1976-06-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

19才の日本人成人女性216名についてシルエッターによる写真を用いて体幹部における側面形態を整理分類した. 後面は肩甲骨後突点, 前面は乳頭点を基点とする垂直線からの頸部, 胴部, 腰部 (6項目) の出入りの寸法を読み取り, 資料とした. 6項目 (側面形態), 4項目 (上・下半身別), 3項目 (後・前面別) の組み合わせを行い整理分類すると3, 4項目の組み合わせでは一応の成果を得る事が出来たが, 6項目ともなると出現の最も高い組み合わせでも10.1%と低く体形の複雑さを示した. 胸部に対する腰部の変化については同一厚径25.5%, 腰部が薄いもの3.2%, 腰部が厚いもの71.3%であり, 姿勢については直立姿勢19.4%, 殿部後方突出44.4%, 腹部前方突出36.2%であった. これらの組み合わせは服種によっては体形別作図法の資料として. かなり活用でき得ると考える.
著者
柴村 恵子 織田 恵子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.1-14, 1981-03-31

1.インドシナ半島のうちでタイ国は,永く他の民族の支配を受ける事なく,独立国家としての立場を守ってきた唯一の国であり,日本とも古くから深い関係を持ってきた.また,この国は複合国家としても広く知られているが,その中でチェンマイ,チェンライなどを中心とする西北部山地に住む諸民族は,独自の生活習慣を持ち,特有の民族服を身につけている.これについて私たちは,文献と国立民族学博物館および名古屋女子大学生活科学研究所の資料をもとに研究を行った. 2.上記の資料によると,現在タイ国にはメオ族・ヤオ族をはじめ約14の山地民族が住んでおり,これらは主として西北部の山地に分布している. 3.彼らの生活の特色を解析すると,次の様な諸点が上げられる. (1)各種族のほとんどが原始宗教を信仰しており,精霊に豚や鶏のいけにえを供える習慣がある. (2)一部の種族(メオ族・ヤオ族)には,漢字の読み書きができる者がいるが,多くは文字を使用しない. (3)彼らの多くは,焼畑農耕を営み,綿を栽培し,自ら機を織り,染色をするなど自給自足の生活を行っている.また,規模の大小はあるがたいていはケシの栽培を行い収入の道を計っている. (4)衣裳は特別の場合を除き,日常着・仕事着・晴れ着などの区別はなく,常に同じものを着用している. (5)ある種族(メオ族・ヤオ族)は,犬を彼らの祖先として崇める習慣があるが,他の種族(アカ族)では,これを好物として食用にするものもある. 4. 各種族の最も顕著な特色は,民族衣裳である.それは各種族ごとに特有の染め,織り,デザイン,アクセサリーをしており,他の種族と一見して容易に区別ができる.服装は男性の場合さほど目立たないが,女性において特に目立つ. 5.これら山地民族の生活や衣裳も,時代の変遷に伴い少しずつ変化が現われてきている.即ち平地民との交流により,彼らの生活にも永年母から子へと根気よく歳月をかけて伝承されてきたものも,金ですぐ買える安易なものに変わり,また便利さと引き換えに伝統の技術が失われていく可能性もそう遠くはないのではなかろうか.今後さらに現地調査を行い,その実態を明らかにしたいと思うが,現時点においてこれらの記録を残しておくことは有意義なことと思われる.最後に本研究に当り,その機会を与えて下さった名古屋女子大学生活科学研究所長広正義博士,また終始懇切な御指導を賜った岐阜大学教授中野刀子先生に深く感謝の意を表すると共に,親切な御助言を賜った名古屋女子大学教授栃原きみえ先生,資料を提供下さり懇切な御助言を頂いた名古屋女子大学教授佐藤正孝,平野年秋の両先生,および国立民族学博物館助教授大丸弘先生に対し厚く御礼申し上げる次第である.なおこの研究は,本学生活科学研究所の助成によって行ったものである.
著者
柴村 恵子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.85-95, 1991-03-05

北部タイには現在メオ族,ヤオ族など10数種類の山地民族がいるが,その多くは山岳地帯に住んでいる.近年その彼らの生活にも近代化の波が押寄せ,それぞれ固有の生活文化に変容が見られるようになってきた.そして,その波を積極的に受け入れようとする一方において,今なお先祖伝来の文化を固持している部分も見られる.それは衣装をはじめ風俗,習慣,宗教儀礼にいたる伝統文化に残されている.筆者は1980年以来その残されている生活習俗を記録に残すため現地調査を続け,それぞれの民族の衣装を中心に名古屋女子大学の紀要27号(アカ族),28号(メオ族),32号(ヤオ族),33号(リス族),34号(ラフ族),35号(カレン族),に報告してきた.これらの民族は,それぞれ近隣の国からおよそ100年以上かけて移住してきたものが多く,その源郷は中国,チベットなどと伝えられている.カノミタカコ氏によると,ラワ族はタイの原住民であると自称している4)と言われているが,若林弘子氏によれば中国雲南省の西南部からミャンマーにかけての国境山岳地帯に居住する伍族の分派と言われている説もあるとして一様ではない.また,その一部はすでに平地に下ってタイ入と変わらない生活を送っているグループもあることも報告されている.今回はまだその山岳地帯に住み,伝統的な生活習俗を保持しているラワ族について報告する.
著者
柴村 恵子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.113-118, 1974-03-15

1.縞幅1:1,8:8,1:6,1:14.5,1:21の割合で,照度10, 100, 300, 500,1000,2000〔lx〕の場合では縦縞が一番見やすく,次に横縞,斜縞の順であった。2.同じ白:黒=1:1の割合でも0.1cmと0.8cm幅では0.8cmの広い縞の方が見え方段階はよくなる。3.距離と照度の関係を分散分析した所距離による影響は大であるが,照度による影響はあまり見られなかった。しかし,比率が大きくなれば距離による影響もあまりなくなる。4. 3m地点のあたりかち明るさが生地に光沢を与え,そのため白線がグレー,又は黄味がかったり,見え方において縞幅が違って見えたりする。これが派手,地味に見えるのに影響するものと思われる。以上の実験結果から横,縦,斜縞方向のワンピース・ドレスの表わすシルエットの感じはおよそ知る事ができた。この後は,動作にともなった実験を重ね,よりよい縞のデザインを究明したいと思う。終りに本研究を行うにあたり終始御指導いただきました岐阜大学教育学部の中野刀子教授,試料の測定に御協力いただいた愛知県三河繊維技術センターの志満津発司氏に厚く御礼申し上げます。
著者
栃原 きみえ 斉藤 一枝 坂倉 園江 今井 康世 柴村 恵子 岡島 文子 山田 由利子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.29-40, 1970-03-15

スカート製作の場合のスカート幅やダーツの問題に関する研究をするために女子の腰部におけるウエストおよびウエスト〜腸骨棘1/2,腸骨棘,腸骨棘〜ヒップ1/2,ヒップ,最大(腹部や太ももの出張り分を含む)の6つの位置の横切断面図について,幅径および厚径,更に周径の比率について検討したが次のようなことが明らかになった.1.腰部各位置の前対後厚径の比率(ウエスト基準線を基点)ウエスト(W)では基準線を1/2に定めたので,もちろん前後同径であるが,ウエスト(W)〜腸骨棘1/2の位置では,後厚径より前厚径が大であり,腸骨棘では逆に前厚径より後厚径の方が大の者が多い.ヒップ(H)の位置でも平均値で42対58%と前厚径より後厚径が大の傾向がみられ,更に最大の位置でも同様に後厚径が大の者が多かった.2.腰部各位置の前対後周径の比率 腰部のウエスト,ヒップ,最大の前対後周径についで検討した結果,ウエスト(W)では前後同周径の者は32%で,前より後周径が大の者が多い.ヒップ(H)では前後同周径の者は28%でほとんどの者が後周径が大であり,最大の場合でも同様の結果が得られた.以上のように厚径,周径ともにヒップの位置および最大では後が大であるが,これはでん部の出張りのためである.スカート製作において,一般には前後の幅を同一にした製図法が多いが,前よりも後幅の分量を多くする必要があることを明らかにすることができた.3.腰部各位置の左対右幅径の比率(ウエスト基準線を基点)4.腰部各位置の左対右周径の比率 腰部各位置の左対右幅径の比率と周径の比率について検討した結果,ウエストでは左右間厚径の者は36%であるが,同周径では61%の者がおり,厚径の場合よりも周径の場合の方がはるかに多数を占めていた.またウエスト位置では幅径の場合は左が大の者が多いが周径では逆に右が大の者が多いという結果が得られた.このことにつき各被験者のウエスト位置の横切断面図で検討した結果,右ウエストに筋肉の発達した者が多く,左より右ウエスト廻りのカーブが強い傾向がみられた.ヒップ(H)では左右同幅径の者は,29%であったが周径の場合は57%とはるかに多数を占めている.なお幅径,周径ともに左に比較して右が大の者が多かった.最大では左右同幅径の者は,43%で左右同周の者は64%と周径の場合の方が多数であった.なお幅径,周径ともに右が大の者が多い傾向がみられた.このことは生理学的に何かの原因があると推察される.これらのアンバランスの体型の者はスカートの前後中心線が体型大の方向に傾くのでスカート幅の設定については,左右差をつけなければならないであろう.5.腰部各位置の前対後厚径の比率(ウエスト廻り線を基点)腰部各位置の前対後厚径の比率,つまりウエスト廻り線から前後への出張り分量の比率について検討したが,ウエスト(W)〜腸骨棘1/2位置では後厚径より前厚径が大の傾向がみられた.これは腹部に近い位置にあるからで,他の位置ではいずれも前厚径より後厚径が大の傾向がみられた.これはでん部の出張りを意味するものである.以上の結果から言えることは,スカート製作においでダーツの分量は前よりも後を多くするべきだと考える.6.腰部各位置の左対右厚径の比率(ウエスト廻り線を基点) 腰部各位置の左対右幅径の比率,つまりウエスト廻り線から左右両側面への出張り分量の比率について検討したがヒップの位置ではわずかながら右幅径が大の傾向がみられ,最大の位置では左右同径の傾向がみられた.このことは脇ダーツの左右の分量の設定においてほとんどの者は同じ分量でよいが,アンバランスの体型の者は,左右差をつけるべきであると考える.以上女子の腰部の体型は種々様々であり,同一体型は本被験者の中には全くなく,被服製作における困難な事実を裏付けるものであることが明らかになった.終りに本実験に御協力下さった本学服飾コースの学生に厚く感謝する.