著者
豊田 幸子 山本 寿子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.15-22, 1994-03-05

和服は私達の生活の中で長い間親しまれ,豊かな衣生活と伝統文化の発展にたずさわってきた.しかし,現代の衣生活において,和服の着装は日常着から儀式や趣味的な着用へと変化している.このような流れの中で,伝統衣裳として,現代生活に適した和服の着装形態について考察し,教育に生かしていきたいと考える.今若年層においては,成人式や卒業式のファッションとしての和服がみられるなかで,3年続きの"浴衣ブーム"も定着されつつあるといわれる.日本衣料管理協会や日本きもの教育センターの発表によると,女子高校生では79%,大学生では47.7%が浴衣での外出体験を持っている.呉服業界においても,気軽に購入し着用できる和服として,浴衣のプレタ化や付け帯の帯結びの工夫等もみられる現状である.そこで本報では,女子大生の浴衣と帯の着装及び調製の方法,さらに和服の着装を簡便にする付け帯についてアンケート調査を行い,実態を明らかにすることが出来たので報告する.
著者
辻原 命子 谷 由美子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.39-49, 1992-03-05

特異動的作用(Specific Dynamic Action 以下SDAと略す)は,安静状態において食物の摂取による食物の消化・吸収における代謝亢進と体内における化学反応の結果発生するエネルギーで一般に体温保持に利用され,生活活動には利用されないといわれている..そしてこのSDAは糖質のみを摂取した場合は摂取量の約5%であるのに対し,脂質のみの場合は約4%であり,たん白質のみの場合は約30%に達し日本人の日常食のSDA平均値は約10%とされている.たん白質のSDAについては田中らがその発生機構をラットを用いて詳細に研究しており,鈴木らは被検者1〜2名で高糖質食,高たん白食,高脂肪・低たん白食,高たん白・高脂防食による食餌組成の相違およびエネルギー摂取量の相違によるSDAの時間的経過ならびにその大きさについて報告しているが,個体差があり一定の傾向がみられない.一方たん白質のSDAは糖質,脂質のSDAに比して著しく大であり,国民栄養調査においてもたん白質のエネルギー比は昭和50年14.6%,55年14.9%,60年15.1%,62年15.3%と徐々に増加してきており,一日の消費エネルギーにおよぼす影響は大きいと思われる また脂肪の摂取量も年々増加しているがそのSDAへの影響は不明である ところで近年はこのSDAに代わってほぼ同義的に食事誘発性体熱産生(diet-induced thermogenesis DIT)が広く使用されていており,特に一回の食事によるエネルギー代謝反応への影響をみる場合は,一般にDITを使用しているようである.そこで本実験では,ヒト7名を被検者としてエネルギーおよび脂肪量が一定でたん白質量をエネルギー比5%〜47%まで変動させた食餌およびたん白質量が一定で脂肪量をエネルギー比14%〜45%まで変動させた食餌を摂取させ,DITにおよぼす影響をしらべた.また生命維持のための生理的最小エネルギー代謝量を示す基礎代謝は従来より夏季に低く,冬季に高い傾向があるといわれていることよりDITとの関係は興味深いが,その報告はみられないため四季の区別の明確な日本におけるDITの季節変動について検討した
著者
小塚 陽子 小野 真知子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.39-46, 1994-03-05

南九州の重要な畑作物である甘しょの用途拡大を図るため,甘しょを調理素材として再評価することが必要である.甘しょの家庭料理あるいは調理済み加工食品としての用途はてんぷらや大学いもなどに極めて限定されていたが,近年新しい特性を持つ系統(低でんぷん,低糖分甘しょ等)が育種され,新食品素材として新しい調理法の開発が可能となってきた.さらに最近の健康食指向が高まりつつあることに伴い,ビタミン・ミネラル等が豊富に含まれている甘しょを手軽な形で摂取できることが望ましいと考える.甘しょには,カロチン系統と呼ばれるβ-カロテンを多く含有しているだいだい他の品種,またアントシアン系統と呼ばれるアントシアン色素を多く含有している紫色の品種,一般的によく知られている黄色品種ほか,数多くの品種が存在している.これらの品種の中から,第一報においては黄色系統の甘しょを鶏肉ソーセージに添加したものについて報告した.今回新たに開発された低でんぷん甘しょは水分音量が多く,ジュースに向く品種と考えられている.これらの品種の完全利用を目的とし,ジュースヘの調理音吐の検討ならびに,より付加価値の高い加工食品の開発を試みた.品種間の評価,官能検査等を行い,多少の知見が得られたので報告をする.
著者
酒井 映子 末田 香里 内島 幸江
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.145-153, 1994-03-05

中国貴州省吾南部の苗族と布依族の食文化の特徴の一端を栄養的側面から明らかにすることを目的として,日常の食事状況について調査研究を行った.中国における栽培作物の事情は,1980年の「包産到戸」,すなわち農家の個人販売許可によって,食料作物から経済作物へと変化している.このような状況の中で,少数民族である苗族や布依族においても食料事情には変化が生じているものと考えられる.そこで,主として日常の食物摂取状況から両民族間の比較検討を行い,さらに,現状の栄養的問題についても若干の検討を行ったので報告する.
著者
原田 妙子 長縄 さくら
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.59-65, 2009-03

2004年から2006年にHQL(人間生活工学研究センター)によって「人間特性基盤整備事業」が実施され,取得したデータを基にして「日本人の人体寸法データブック 2004-2006」が2008年3月に出された.そこで,授業の一環として,毎年行ってきた体型写真撮影と身体計測の結果を用い,側面形状について,凹凸が少なくなり,特に下半身の前後とも扁平になっていると予測し検討することにした.身体計測値では, HQLの結果と同様の傾向であったが、本被験者の方が細身になっており,特に下半身が細身の傾向にあった.側面形状の出入りについては,近年になるにつれてBNPの入りの数値が減少し,FNPが増加してする傾向にあり,首の角度が真っ直ぐであるといえる.胴囲位では,前面が出なくなり幼児体型が少なくなっていると共に,厚径が薄くなっているとも考えられる.因子分析の結果では,ほとんどの年代で,第一因子は下半身の動きを,第二因子は首あるいは頭の動きを表す因子が抽出された.しかし,視覚面での形状では,近年ほど丸みが少なくなっていることが観察された.今後,体の丸みと姿勢についてさらに研究を進めたいと考える.
著者
柴村 恵子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.85-95, 1991-03-05

北部タイには現在メオ族,ヤオ族など10数種類の山地民族がいるが,その多くは山岳地帯に住んでいる.近年その彼らの生活にも近代化の波が押寄せ,それぞれ固有の生活文化に変容が見られるようになってきた.そして,その波を積極的に受け入れようとする一方において,今なお先祖伝来の文化を固持している部分も見られる.それは衣装をはじめ風俗,習慣,宗教儀礼にいたる伝統文化に残されている.筆者は1980年以来その残されている生活習俗を記録に残すため現地調査を続け,それぞれの民族の衣装を中心に名古屋女子大学の紀要27号(アカ族),28号(メオ族),32号(ヤオ族),33号(リス族),34号(ラフ族),35号(カレン族),に報告してきた.これらの民族は,それぞれ近隣の国からおよそ100年以上かけて移住してきたものが多く,その源郷は中国,チベットなどと伝えられている.カノミタカコ氏によると,ラワ族はタイの原住民であると自称している4)と言われているが,若林弘子氏によれば中国雲南省の西南部からミャンマーにかけての国境山岳地帯に居住する伍族の分派と言われている説もあるとして一様ではない.また,その一部はすでに平地に下ってタイ入と変わらない生活を送っているグループもあることも報告されている.今回はまだその山岳地帯に住み,伝統的な生活習俗を保持しているラワ族について報告する.
著者
谷本 道子 坂口 佳明
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.55-64, 1994-03-05

日本の人口の高齢化が他に例を見ないほど急速に進行していることは,指摘されて既に久しい.65歳以上人口比は,1985年に10.3%と1割強を示したが(国勢調査1985),以後も上昇を続け,1993年9月15日現在で13.5%になり,2020年には約25%に速するとされている(総務庁推計調査).また,65歳以上人口は,1990年に1488万人,1993年に1687万人で(総務庁推計調査),2000年に2170万人と増加を続け,2021年には現在のほぼ2倍にあたる3275万人になり,これを頂点としてその後は徐々に減少するとみられている(厚生省推計).こうした高齢社会の到来が確実視されている中で深刻な問題は,痴呆を含む障害や,加齢にともなう身体機能の低下により,要介護や寝たきりになる高齢者の増加が予想されていることである.65歳以上の高齢者のうち寝たきりの人は,1986年に60万人で,このうち約12万人が特別養護老人ホームに入所し,約25万人が長期入院しており,約23万人が在宅等である(厚生省国民生活実態調査).さらに,1992年に65歳以上の在宅の寝たきりの人は28.9万人にのぼり(厚生省国民生活基礎調査),2000年に65歳以上の寝たきりの人は100万人に達するとされている(厚生省大臣官房老人保健福祉部).また,65歳以上の痴呆の人(以下痴呆老人)は,1990年現在約99万人で65歳以上人口の6.7%を占め,2020年には274万人に昇ると予測されている(厚生省推計).在宅の痴呆老人については1985年に59万人で,2015年には185万人と推計されており,在宅の痴呆老人の65歳以上人口に対する出現率については,1985年の4.75%から2015年には6.03%まで上昇すると推計されている(厚生省「痴呆性老人対策推進本部」).一方,来たるべき高齢社会をどのような住宅・住環境ストックをもって迎えるかが重要な課題となっている.都市や住宅のバリアフリー化等が建築計画上の急務であることは論をまたない.同時に痴呆の増加については,医学的視点から,発生要因,診断,治療等に開する研究開発が進められているが,その中で,住宅や住環境に関連深い要因としては,生活環境の激変に対する不適応や,家庭内事故と寝たきりや痴呆の関連等が指摘されており,これらの点が今後住宅政策上の重要な課題になると考えられる.本研究は高齢者の最大の住宅問題の一つとして,怯み続けることへの要求とそれを阻害する諸要因との対立があるという視点から,痴呆老人の痴呆発生前後の住居移動と生活環境の変化,それらと痴呆の発生及び進行との関係を検討することを目的とする.
著者
南川 幸
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.99-110, 1994-03-05

植物生態学や栽培植物と民族学の成果を総合した境界領域に新しい学説を展開された。そのなかで照葉樹林帯(Laurel forest zone)に住む民族間には数多くの共通の文化要素が存在することを指摘し,照葉樹林帯に住む日本民族の文化起源を求めるに当って,今なおかなりの伝統文化を温存継承していると評されている揚子江の東側(江南地方)の山岳地域から言責高原地方にかけて生活する少数民族による自治区の調査が有意義であり,そのいくつかの起源伝統が明らかにされることが期待されている。本学研究所はこれら地方の少数民族の諸習慣や文化について予備調査を実施してきた。我々はこれまでの東アジア南部高原植生調査の資料をもとに京都大学自然科学分野の研究者の協力を得て,少数民族生活圏の自然環境のうち生物界の基盤をなす植物界の現況について植物相及び植生調査を,日本列島の照葉樹林域南部にある北九州地方の植生の再点検よりはじめ,本格調査を韓国南部・浙江省(Zhejiang)・安徽省(Anhu1)・江蘇(Jiangsu)などの華中地方,福建(Fujian)・広東(Guangdong)・広西(Guangxi)・貴州(Gulzhou)の華南地方,雲南省・韓国南部をはじめとする中国西南地方について実施してきた。ただし,四季にわたっての調査は困難なため,植物の生育最盛季を選んで調査を実施した。今回は本研究所が食文化を中心に調査を行っている少数民族生活圏となっている雲貴高原の植物相・植物社会学的調査を実施した。雲貴高原の概観及び調査目標 空路昆明へ,空より言責高原に入ると一帯は地層線にそって浸蝕(eroslon)された裸地は各所に石灰岩(hmestone)の露岩群の散在した煉瓦色(Brick red color)の大地が果てしなく広がり,高原の頂部付近まで延々と等高線にそって段々畑が耕作され,樹林らしき緑地は,10数年前より言市松を主とした緑化(tree planting)を推進するための植林(afforestation)が進められているためか,集落(village)付近の緩傾料面のきわめて一部には疎ながら樹林地がみられる程度である(写真参照)。調査地域の雲南省から責州省にかけて広がる雲貴高原の一部をなす〓東高原一帯は資料の気温及び降水量の表及び分布図に示すように,概して1月(冬季)の平均気温は6〜8℃,春季は16〜18℃,夏季は19〜21℃,秋季は15〜16℃ほどのようである。また,地形の変化が大きいため,かなりの気温差がある。すなわち,年平均気温をみると高原部では13.7℃,山地になると7.1℃,南盤江をはじめ諸河川の河谷沿いの集落付近では20.3℃,冬季寒冷季の気温は高原部,5.7℃,山地部1.3℃,河谷域12.6℃を示し,夏季の気温は高原域18.1℃,山地域11.9℃,河谷域25.2℃を示し,年較差は高原域12.4℃,山地域10.6℃,河谷域12.6℃を示している。対象諸民族の生活環境について概観すると,この種族の主な居住地域は雲貴高原の東部で,東経104°〜108°,北緯24°〜27°の間にあり,地域は大部分標高400 m から1100 m の間に位置し,最低地域は谷底平地の標高240 m 前後の地域,最高丘陵峰になると2000 m を越えている。自後一帯は約2億2500万年前よりの地殻変動によって次第に隆起しけじめ,約300万年前の強烈な地殻運動により一挙に大幅に隆起して現在の石灰岩大地,雲貴高原の原型ができ,その後諸種の浸蝕変遷をへて現在,路南の石柱や元謀近くの土林奇峰に象徴される石灰岩地形を温存する雲貴高原が形成された。次に雲貴高原の植物相の概況として高原性の儒生低木群落(dwarf scrub),矮生低木(Krummholtz)を含む乾生草原(dry meadow),少数民族往地圏の農業地帯(agricultural region)及び農生態系(agro-ecosystem),周辺の緑披生態及びそれらの組成桂及び日本列島における照葉樹林帯植生との共通性などについての調査項目を目標として調査を実施した。また,この地方が照葉樹林帯域であることを植物相より追求すると共に照葉樹林の仮相群落(climax community)の残存地帯を求め,この帯の組成・皆層構造と日本列島,特に九州の同気温帯との相関性などについて調査することにも意を用いた。先づ矮生低木群落調査対象としてタチバナモドキ属(Pyracantha)のタチバナモドキ(Pyracantha angustifolia)やバラ科(Rosaceae)の種,ミカン科(Rutaceae)のフユサンショウなどを優占種とする植生と植物相,少数民族生活圏一帯の植物社会,植物相,生活基盤をなす農作物及び環境について雲南吉見明市・高明市・路南彝族自治県,貴州省の興義市を中心とする少数諸民族の生活圏内の一つの典型と評されている布依族圏の巴結鎭・馬峰鎭,杉脚村(ミヤオ族),六豊を中心とする低海抜の泯谷鎭をはじめとする地域の概況,作物原種を含む河畔湿性植生調査のため南盤江(興義近くの馬別河の頂效より上流域)の河畔湿性植生,照葉樹林の典型的な温存地域などについて得られた役料に基く調査を実施した。また,茸類が多発生し,食用に供しているらしいこと,菌類
著者
内島 幸江 平野 年秋 南 廣子 胡 国文
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.125-135, 1994-03-05

近年,照葉樹林文化論を中心として日本文化の基層を追求する研究が展開されている.最近の比較民族学的研究により,中国西南部(貴州省・雲南省)からヒマラヤ南麓にいたる照葉樹林帯における民族文化の特色と,わが国の伝統的な文化の間には極めて強い共通性と類似性が見られることが明らかにされてきた.すなわち,モチ,茶,大豆発酵食品をはじめとする食文化や,歌垣,各種の民話や稲作を中心とした農耕文化などの日本と共通した特色がみられることが知られるようになった.また,栽培稲の起源地として,このアジア大陸の亜熱帯圏に属する丘陵山岳地帯である「アッサム・雲南」を中心に考えられており,この地域から揚子江流域へと伝播し揚子江に沿って東へ展開した稲作が,江南一帯から東シナ海を渡って日本の北九州に達しだとするのが,日本へのコメ渡来説の中で最も確実性が高いルートの一つと考えられている.この稲の起源地の周辺の雲南・貴州一帯に走る大高原は起伏の激しい山地であり,そこにさまざまな民族が錯綜して居住している.中国ではそれぞれの民族が相互に交渉しつつ中国の歴史を形成してきたのであり,各民族の習俗・習慣も相互に影響を受けながら,種々の要素が複合した文化を育んできたものと考えられる.貴州省では現在少数民族として公認された集団のなかで苗族が最も多く,第2位は布依族が占めている.中国の苗族総人口の約半数が貴州省で生活(368.6万人)し,また全国の布依族のほとんどが貴州省に居住(247.8万人)しており,両民族とも古い歴史を持ち,多くは漢族の南下に伴い,漢族の勢力に圧迫されてこの地に移住してきた民族であり,照葉樹林文化を継承してきた人々である.一般に少数民族のあいだには,東アジアの古層文化が残存していると考えられているが,貴州省についてのこれまでの民族文化に関する報告は東部,中部を主体としており,西南部地域の苗族,布体族の人々の食生活の実態については,いまだ多くの知見は見られない.この貴州省西南部は交通の不便な辺境の地であるが,数年後に完成予定の鉄道敷設や空港建設,大型ダムの建設計画があり,今後これらの急激な開発の影響を受けて自然環境や社会環境が変化し民族の特色が消失する危惧が持たれるところである.なお,中国の経済政策等の変化も注目されるところであり,それに伴って食生活も多元的に変容するものと思われる.そこで現在の食形態を調査し,この地域の苗族および布依族の食文化の特色を明らかにし,今後の食生活の方向を探ることを目的として本研究を行った.本報ではこの地域の苗族,布依族の現在の食生活状況を把握するため現地調査を行い,食文化の諸側面のうち食品の利用状況について比較検討した.