著者
平田 純生 柴田 啓智 宮村 重幸 門脇 大介
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.3-18, 2016 (Released:2018-04-02)
参考文献数
54

腎機能は糸球体濾過量(GFR)で表され、イヌリンクリアランスは最も正確なgold standardであるが、測定手技が煩雑であるため、実臨床ではあまり用いられない。多くは血清クレアチニン(Cr)値を基にした腎機能推算式であるCockcroft-Gault(CG)式による推算クレアチニンクリアランス(CCr)や日本人向け推算糸球体濾過量(eGFR)が用いられるが血清Cr値は男女差、筋肉量による差があり、併用薬による影響を受けることなどを理解しておく必要がある。腎排泄型薬物の投与設計には正確な腎機能の見積もりが必須であるが、標準体型男性以外ではeGFR(mL/min/1.73m2)ではなく体表面積未補正値(mL/min)を用いる必要がある。ただし抗菌薬・抗がん薬など投与量がmg/kgやmg/m2となっている際には体表面積補正値(mL/min/1.73m2)を使う。またCG式は肥満患者では腎機能を過大評価するため理想体重を用いる必要がある。添付文書にCCrによって投与量を定めている場合、そのほとんどが海外治験データによるため血清Cr値をJaffe法で測定されており、Jaffe法によるCCrはGFRに近似する。そのため添付文書上はCCrで表記されていても患者の腎機能には実測GFR、推算GFRまたは実測CCr×0.715を用いる。海外と日本の添付文書が同じCCrの記載であっても、ハイリスク薬では酵素法で測定したCCrで投与設計するとJaffe法と酵素法のわずかな差が過剰投与による重篤な副作用リスクにつながる恐れがある。痩せた高齢者で筋肉量が少ないためeGFRが高く推算される場合には、正確に腎機能を評価するには実測CCr×0.715あるいはシスタチンCによる体表面積未補正eGFR(mL/min)を用いる。若年者で血管作動薬・輸液の投与を受けている全身炎症の患者においては過大腎クリアランスにより腎機能が正常以上に高くなることがある。
著者
宮村 重幸 柴田 啓智 下石 和樹 浦田 由紀乃 森 直樹 門脇 大介 丸山 徹
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.3-8, 2014 (Released:2018-04-02)
参考文献数
6
被引用文献数
2

薬剤の適正使用を考える上で、腎機能に応じた適正な用量設定を行うことは重要である。そのため、薬剤師は血清クレアチニン値などの腎機能データを入手する必要があるが、保険薬局において、薬剤師が患者の腎機能データを入手する手段は確立していないのが現状である。今回我々は、保険薬局に勤務する薬剤師にアンケート調査を行い、患者の腎機能情報の必要性と入手手段を明らかにした。日常業務において腎機能を①考慮している(9.1%)、②どちらかといえば考慮している(54.5%)、③どちらかといえば考慮していない(27.2%)、④考慮していない(9.1%)という結果であった。腎機能に関する情報源としては、①患者・家族(77.2%)、②処方医(4.5%)、③情報を得る方法なし(9.1%)であった。この結果をふまえ、我々は患者の腎機能情報を病院と保険薬局で共有するために、お薬手帳内にeGFRを記載するシールとお薬手帳の表紙に患者の腎機能が低下していることを示すシールを考案した。そして、本ツールの有用性を検討するために、情報提供を受けた薬剤師を対象にアンケート調査を実施したところ、本ツールが①有用(50.0%)、②どちらかといえば有用(36.3%)であった。今回の調査から、保険薬局において、患者の腎機能に関する情報は必要とされているにもかかわらず、入手できていないことが明らかとなった。そのため、シールを用いて患者の腎機能情報を共有する試みは、保険薬局に勤務する薬剤師に対しても患者の腎機能を考慮した処方設計に対する注意喚起に大変有用であり、腎排泄型薬剤の過量投与を防ぎ、医薬品適正使用に大きく貢献できることが示唆された。
著者
柴田 啓智 坂本 知浩 丸山 徹 田上 治美 飛野 幸子 中尾 浩一
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.595-598, 2013-08-31 (Released:2013-10-15)
参考文献数
9

チエノピリジン系抗血小板薬であるクロピドグレルは,経皮的冠動脈インターベンションのステント留置例において,亜急性血栓性閉塞の予防に寄与する重要な薬剤である。しかし,クロピドグレルは肝臓において薬物代謝酵素の1 つであるCYP2C19 により代謝され薬効を発揮するため,その代謝活性が低い場合効果を示さないことがある。今回われわれは,クロピドグレル服用中でステント留置後に亜急性血栓性閉塞を繰り返した症例を経験した。この症例に対し,VerifyNow®P2Y12 を用いてチエノピリジン系薬剤に特異的な血小板凝集活性を測定したところ,クロピドグレルの薬効がまったく認められなかった。そこで,本患者のCYP2C19遺伝子多型解析を行ったところ,クロピドグレルの代謝能力が低いタイプであることが判明した。この結果をふまえ,クロピドグレルをチクロピジンに変更し,VerifyNow®P2Y12 により抗血小板活性を測定したところ,薬効が認められるようになった結果,合併症を出現せずに経過している。今回の知見で示したように,VerifyNow®P2Y12 とCYP2C19 の遺伝子多型解析の組み合わせは,今後のクロピドグレル適正使用に貢献できるものと考える。