著者
金 承革 柴田 昌和 土田 将之 栗田 泰成 塚本 敏也
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.151-165, 2020 (Released:2021-07-16)
参考文献数
39
被引用文献数
1

中殿筋は片脚立位保持や歩行において骨盤側方傾斜を制動して安定させる重要な筋である. 中殿筋の内部構造や筋出力や筋電波形特性を明確にすることは, 臨床での検査方法の適正改善や検査データのより良い解釈へつながり, ふらつきや転倒などの機能障害を改善・予防することに貢献できる. 肉眼解剖学的調査によって, 中殿筋内部には腱膜が存在し, 前部線維束と後部線維束に分かれることが明確になった. 股外転最大筋力発生時の筋断面積と筋電の測定では, 股伸展位で前部線維束が, 股屈曲位で後部線維束が主に寄与すると推測できるデータが観測された. 歩行中の中殿筋の両線維束の筋電位は, 被験者の個人特性があるが, 最大筋力発生時の特性を反映していた.
著者
土田 将之 柴田 昌和
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】人体に多数存在する骨格筋の各々には複数の線維束があり,それらは異なる機能的特徴を持ち,中枢神経制御から独立した働きをすると考えられている。中殿筋の線維束については前部線維,中部線維,後部線維の3つの線維束を持つという報告と,前部線維,後部線維の2つの線維束を持つという報告がある。しかしそれぞれの線維束の境界についての具体的な場所の記述はない。中殿筋は理学療法の治療対象となる機会が多い筋であり,その研究も多くなされている。その研究手法は表面筋電図を用いたものが主流であるが,筋線維束の境界が不明確なため,電極の貼付位置が統一されていない。そこで本研究の目的は ①複数あるといわれる中殿筋の筋線維束の境界を形態的に明らかにすること ②確認した複数の線維束上に,表面筋電電極を貼付するための適切な位置を検討すること ③中殿筋の働きについて,線維束の違いによる機能的特徴という観点から再考することとした。【方法】大学病院において,献体を用い以下の3つの実験を実施した。①中殿筋線維束の境界を観察するために,7体(男3,女4)13肢の中殿筋を剖出し,肉眼にて線維走行の異なる箇所(境界)の有無を観察し,境界に沿って中殿筋を分け,内部構造を観察した。②7体(男4,女3)14肢の中殿筋を取り出し,前部線維と後部線維に分割し,その湿重量を測定し,前後の重量比を算出した。③7体13肢の右下肢の腸脛靭帯と中殿筋,中殿筋と大殿筋の境界位置を腸骨稜上で計測し,腸骨稜長(ASISから腸骨稜を辿りPSISへ至るまでの長さ)の何%の位置にあるかを記録した。その後腸脛靭帯と大殿筋を剥離し,先行文献が示す3つの電極の貼付箇所(A:ASISと大転子を結んだ線上の50%の位置,B:腸骨稜と大転子を結んだ線上の50%の位置,C:腸骨後部と大転子を結んだ線上の33%の位置)にピンを挿し,位置の妥当性を検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は神奈川県立保健福祉大学ならびに神奈川歯科大学倫理委員会の承認を得たうえで行った。【結果】①腸骨稜長の約60%の位置と大転子を結んだ線を境にして,中殿筋は明確な筋線維走行の違いを見せており,この線を境にして中殿筋が前部線維と後部線維に分かれる様子が確認できた。その他の明瞭な境界線は確認されなかった。次に,確認された境界より中殿筋を分け,内部構造を観察したところ,後部線維の停止部が腱組織に移行しており,中殿筋はこの内部腱を境界として構造的に前部線維と後部線維に分かれていることを確認した。②平均重量は前部線維130.1±25.9g,後部線維は100.8±22.0gで,散布図の近似曲線の傾きより前部線維と後部線維の重量比は約10:8であった。③A,Bはともに中殿筋の前部線維上に,Cは後部線維上に位置することが確認できたが,翻転していた大殿筋を起始部に戻すと,Cの位置は大殿筋の線維に覆われてしまうことが確認された。【考察】後部線維の重量比の大きさから,骨盤・下肢の安定性に対する後部線維の役割は,従来考えられているものより大きいと考えた。特に,後部線維の働きが股関節の進展・外転・外旋であることを考えると,ジャンプ後の片脚着地動作などの場面で股関節の屈曲・内転・内旋を制動し,前十字靭帯損傷の危険性を軽減させる要因となっている可能性が考えられた。また電極の貼付位置については,先行文献が示す位置では,Aは腸脛靭帯の上から中殿筋の前部線維の前方筋腹上に位置し,Bは前部線維の後方筋腹上に位置していたが,Cの箇所には大殿筋の筋線維が走行していた。ASISから計測した腸骨稜長の約60%~83%の位置において,大殿筋に覆われていない中殿筋後部線維の走行が確認されたことから,後部線維の筋活動を計測するための,より適切な貼付位置の存在が示唆された。【理学療法学研究としての意義】明確にされていなかった中殿筋線維束の境界を明らかにすることで,表面筋電計を用いた理学療法研究における,研究手法確立の一助となり得ること。
著者
池田 登顕 柴田 昌和 古川 洋高 立壁 大地 神谷 真知子 塩野 浩章
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P3485, 2009

【目的】<BR>近年,腰部骨盤帯における機能解剖学的知見は増加してきている.特に多裂筋や腹横筋,骨盤底筋群,横隔膜は腰部骨盤帯への安定性に作用するといわれているが,これらの筋の明確な作用はまだ全て明らかにされていない.また,多様な臨床評価方法や運動療法なども紹介されてきてはいるが,明らかな誘発原因のない腰部骨盤帯疾患の発生機序は明確になっていない.今回,仙髄レベルに神経症状や梨状筋症候群,坐骨神経痛を患った症例に対する理学療法を経験した.その際,既存の機能解剖学的知見に基づいて理学療法を展開したが,治療後に症状は軽減したが消失しなかった.この課題を解決し,解剖学的な検証をするために腰部骨盤帯を観察する機会を設けさせていただいた.屍体は大殿筋が中央で切離され,梨状筋下孔が良好に観察できるものであり,仙骨のうなずきおよび腸骨の起き上がり操作介入による検討が可能であった.その結果,梨状筋の弛緩および梨状筋下孔の拡大を触診できた.そこで,前述の症例に対して屍体で得られた機能解剖学的所見と同様の操作を加えることで,各症例の症状に変化がみられるかどうかを検討することとした.<BR>【方法】<BR>仙髄レベルに神経症状や梨状筋症候群,坐骨神経痛を有し,明らかな誘発原因のない腰部骨盤帯疾患症例10名を対象とした.対象者は男性2名・女性8名であり,平均年齢は69.7歳であった.この10名のうち,症状と画像所見とが明瞭に一致したのは1名であり,症例は全て腰椎の後彎により症状が悪化した.この10名に対して以下の3通りの徒手操作をランダムに加え,操作後の症状の変化を,「消失」・「軽減」・「変化なし」の3通りから回答させた.徒手操作は,既存の臨床評価方法を参考にした,A仙骨のうなずき操作,B腸骨の起き上がり操作,C同時にAおよびBの操作である.なお,各操作は1日以上間隔を設け,操作における効果が消失してから次の操作を加えた.また,症例は本研究内容の説明をし,同意を得られた10名である.<BR>【結果】<BR>Aでは3名が「軽減」,7名が「変化なし」と回答し,Bでは2名が「消失」,2名が「軽減」, 6名が「変化なし」と回答した.Cでは全ての症例が「消失」と回答した.<BR>【考察】<BR>既存の知見では,多裂筋・腹横筋・骨盤底筋群および横隔膜は,腰部骨盤帯における安定性確保のための機能を1つのユニットを形成することで担っており,股関節周囲筋が補助的に担っているとされている.さらに,仙骨をうなずかせるように作用する筋は多裂筋であり,腸骨を起き上がらせる筋は大殿筋である.今回の症例では,仙骨のうなずきおよび腸骨の起き上がり操作により症状が消失した.これより大殿筋のロッキング作用によって,腸骨が固定されている環境下で多裂筋が効率的に働き,両者の相互作用によって,梨状筋下孔が拡大することで仙髄レベルでの神経通路が確保されている可能性を示唆された.
著者
池田 登顕 柴田 昌和 古川 洋高 立壁 大地 神谷 真知子 塩野 浩章
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P3485, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】近年,腰部骨盤帯における機能解剖学的知見は増加してきている.特に多裂筋や腹横筋,骨盤底筋群,横隔膜は腰部骨盤帯への安定性に作用するといわれているが,これらの筋の明確な作用はまだ全て明らかにされていない.また,多様な臨床評価方法や運動療法なども紹介されてきてはいるが,明らかな誘発原因のない腰部骨盤帯疾患の発生機序は明確になっていない.今回,仙髄レベルに神経症状や梨状筋症候群,坐骨神経痛を患った症例に対する理学療法を経験した.その際,既存の機能解剖学的知見に基づいて理学療法を展開したが,治療後に症状は軽減したが消失しなかった.この課題を解決し,解剖学的な検証をするために腰部骨盤帯を観察する機会を設けさせていただいた.屍体は大殿筋が中央で切離され,梨状筋下孔が良好に観察できるものであり,仙骨のうなずきおよび腸骨の起き上がり操作介入による検討が可能であった.その結果,梨状筋の弛緩および梨状筋下孔の拡大を触診できた.そこで,前述の症例に対して屍体で得られた機能解剖学的所見と同様の操作を加えることで,各症例の症状に変化がみられるかどうかを検討することとした.【方法】仙髄レベルに神経症状や梨状筋症候群,坐骨神経痛を有し,明らかな誘発原因のない腰部骨盤帯疾患症例10名を対象とした.対象者は男性2名・女性8名であり,平均年齢は69.7歳であった.この10名のうち,症状と画像所見とが明瞭に一致したのは1名であり,症例は全て腰椎の後彎により症状が悪化した.この10名に対して以下の3通りの徒手操作をランダムに加え,操作後の症状の変化を,「消失」・「軽減」・「変化なし」の3通りから回答させた.徒手操作は,既存の臨床評価方法を参考にした,A仙骨のうなずき操作,B腸骨の起き上がり操作,C同時にAおよびBの操作である.なお,各操作は1日以上間隔を設け,操作における効果が消失してから次の操作を加えた.また,症例は本研究内容の説明をし,同意を得られた10名である.【結果】Aでは3名が「軽減」,7名が「変化なし」と回答し,Bでは2名が「消失」,2名が「軽減」, 6名が「変化なし」と回答した.Cでは全ての症例が「消失」と回答した.【考察】既存の知見では,多裂筋・腹横筋・骨盤底筋群および横隔膜は,腰部骨盤帯における安定性確保のための機能を1つのユニットを形成することで担っており,股関節周囲筋が補助的に担っているとされている.さらに,仙骨をうなずかせるように作用する筋は多裂筋であり,腸骨を起き上がらせる筋は大殿筋である.今回の症例では,仙骨のうなずきおよび腸骨の起き上がり操作により症状が消失した.これより大殿筋のロッキング作用によって,腸骨が固定されている環境下で多裂筋が効率的に働き,両者の相互作用によって,梨状筋下孔が拡大することで仙髄レベルでの神経通路が確保されている可能性を示唆された.
著者
丸井 輝美 力武 諒子 柴田 昌和 江連 博光 伊藤 純治 鈴木 雅隆 後藤 昇
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.259-263, 2005-06-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
11

2003年度昭和大学医学部解剖学実習で, 58歳男性 (癌性悪液質・下咽頭癌により死亡) のご遺体で大動脈弓から左椎骨動脈が直接分岐する例に遭遇したので報告する.本例はAdachi-Williams-中川分類のC型に相当し, Adachiの報告では日本人の出現頻度は約5%で, 当大学の本年度解剖実習では30体中1例 (出現頻度: 3%) であった.本例は, 大動脈弓の第一枝として腕頭動脈が起始, 第二枝として左総頚動脈が分岐し, 第三枝として左椎骨動脈が大動脈弓から分岐していた.また, 左椎骨動脈は第4頚椎の横突孔に入り上行していた.一般的に左鎖骨下動脈は大動脈弓からの第三枝として起始しているが, 本例では第四枝として起始していた.