著者
伊藤 純治
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.471-483, 1988-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
30
被引用文献数
3

ヒトの腹壁筋の機能を明らかにするために側腹筋 (外腹斜筋, 内腹斜筋, 腹横筋) および腹直筋の筋線維構成を検討し, 相互にまた他の骨格筋と比較した.材料は本学解剖実習に用いた10%ホルマリン水注入固定屍14体 (男性8, 女性6) から得られた側腹筋および腹直筋である.組織片は臍高の位置で採取し, 常法に従ってセロイジン包埋, 20μm薄切, ヘマトキシリン・エオジン染色を施した.これらの組織標本について, 筋層の厚さ, 1mm2中の筋線維数, 筋線維の太さおよび密度を計測した.結果は次のごとくである.1) 側腹筋の筋層の厚さは内腹斜筋が4.2mmで最も大, 以下, 外腹斜筋 (3.0mm) , 腹横筋 (2.2mm) の順であり, 3層とも男性が女性よりも優る傾向がみられ, 高齢者では腹横筋が外腹斜筋よりも大であった.2) 1mm2中の筋線維数は外腹斜筋は1189, 腹横筋は1134で, 内腹斜筋 (880) および腹直筋 (851) よりも大であり, 外腹斜筋と内腹斜筋では女性が男性より優る傾向がみられ, 腹横筋と腹直筋では性差はみられなかった.3) 筋線維の太さは, 内腹斜筋は1061.5μm2で, 外腹斜筋 (800.1μm2) , 腹横筋 (796.3μm2) , 腹直筋 (825.4μm2) に比べ大であり, ヒトの他筋と比べて中等大の筋群であった.男女を比較すると一般に男性が優る傾向がみられたが, 腹横筋では差がなかった.男性の高齢者および女性例では腹横筋が外腹斜筋よりも大なる傾向がみられた.また, 側腹筋群では筋線維の太さの相関関係がみられたが, 腹直筋との問には認められなかった.4) 筋線維の密度は側腹筋群は85%前後で高密度であったが, 腹直筋は66.9%で中等度であった.以上の事から, 側腹筋の中では内腹斜筋が最も発達し, 次いで外腹斜筋, 腹横筋の順であったが, 外腹斜筋には加齢的萎縮の傾向が強くみられた.このことから, 内腹斜筋は側腹筋の運動作用の主作働筋, 外腹斜筋はその補助筋であり, 腹横筋は内臓の支持, 腹圧あるいは呼吸運動に主として働き, 腹直筋は機能的に側腹筋と相違すると考えられた.
著者
丸井 輝美 力武 諒子 柴田 昌和 江連 博光 伊藤 純治 鈴木 雅隆 後藤 昇
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.259-263, 2005-06-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
11

2003年度昭和大学医学部解剖学実習で, 58歳男性 (癌性悪液質・下咽頭癌により死亡) のご遺体で大動脈弓から左椎骨動脈が直接分岐する例に遭遇したので報告する.本例はAdachi-Williams-中川分類のC型に相当し, Adachiの報告では日本人の出現頻度は約5%で, 当大学の本年度解剖実習では30体中1例 (出現頻度: 3%) であった.本例は, 大動脈弓の第一枝として腕頭動脈が起始, 第二枝として左総頚動脈が分岐し, 第三枝として左椎骨動脈が大動脈弓から分岐していた.また, 左椎骨動脈は第4頚椎の横突孔に入り上行していた.一般的に左鎖骨下動脈は大動脈弓からの第三枝として起始しているが, 本例では第四枝として起始していた.