著者
鈴木 利彦 藤森 伸也
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.134-146, 1992-06-30 (Released:2012-08-27)
参考文献数
50
被引用文献数
8

チタンは表面に不動態被膜 (酸化物被膜) を生成するので, 耐食性及び生体親和性に優れていることが認められてきたが, 生体材料の用途としては, コントロールされた方法で酸化物被膜を付与し, なおかつ, 硬さ, 耐摩耗性, 耐食性などをさらに向上させることが望ましい.そこで本研究では, 電解液中でチタン板を陽極にして陰極と試作のパルス電源で接続し, 火花放電開始電圧以上の電圧を印加して陽極近傍で液中放電を発生させ, この現象を利用してチタン板へ酸化物被膜の生成を行う新しい方法 (放電陽極酸化処理) を開発した.放電陽極酸化処理では, 供給エネルギーをコントロールして, 通常の陽極酸化処理よりもはるかに厚い (μmオーダ) 酸化物被膜の生成が可能であった.被膜の母材への密着性は良好で, 硬さや耐摩耗性が向上し, 耐食性についても改善されていた.放電陽極酸化処理面には微小な小孔が生成していたが, この小孔の大きさも, 供給エネルギーでコントロールすることが可能であった.培養細胞を用いた細胞培養実験の結果, 放電陽極酸化処理面は, 母材のチタンと同等以上の良好な生体適合性を有していることが認められた.これらの所見から放電陽極酸化処理はチタンを生体材料として用いる場合の有効な処理になると考えられる.
著者
荒川 泰彦 三浦 登 濱口 智尋 三浦 登 冷水 佐尋 難波 進 池上 徹彦 荒川 泰彦 森 伸也
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

本特定領域研究プロジェクトは、日英の優れた材料開発、特徴ある測定手段、理論グループの支援を総合的に融合して、ナノ構造デバイスに関する物理的基礎研究の飛躍的進展を図り、これを背景に次世代の光・電子デバイスの可能性を提示することを目的として、1999年から5年計画で日英の相互交流、共同研究を主眼として遂行された。わが国と英国のこの分野における第一線の研究者が重要な知見を挙げ、プロジェクトとしての成果を十分達成した。本年度は、5年間の研究の総括を行うために、ナノ物理およびナノエレクトロニクスに関する日英国際シンポジウムをわが国で開催することを活動の主眼とした。総括班メンバーは、領域代表者および計画研究代表者からなる。なお、三浦、濱口は、プロジェクト実施期間中にそれぞれ東京大学と大阪大学を定年になったため、荒川および冷水に交代している。具体的には、これまでの研究活動の総括として、ナノ物理・ナノエレクトロニクスに関する日英国際シンポジウムを、【日英ナノテクノロジーシンポジウム-物理から情報素子およびバイオまで-】として、平成17年3月16日(水)に東京虎ノ門パストラルで開催した。この会議では、英国のこの分野における主要メンバーを招聘するとともに、わが国の第一線の研究者である特定領域メンバーが中心となりプログラムを構成した。講演者は、L.Eaves教授(University of Nottingham)、安藤恒也教授(東京工業大学)、D.A.Williams博士(Hitachi Cambridge Laboratory)、M.Skolnick教授(University of Sheffield)、荒川泰彦教授(東京大学)、J.M.Chamberlain教授(University of Durham)、原田慶恵室長(東京都臨床医学総合研究所)であった。また若手研究者によるポスター発表も行われた。有意義な情報交換を行うとともに、日英研究協力の将来の発展に向けて討論が行われた。
著者
藤森 伸也
出版者
一般社団法人日本歯科理工学会
雑誌
歯科材料・器械 (ISSN:02865858)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.155-168, 1995-01-25
被引用文献数
21

チタンの表面を方向性のない凹凸面, あるいは方向性のある平滑面になるように準備した.方向性のない凹凸面はワイヤ放電加工(Wire-EDM)およびプラズマコーティング(Plasma)で作製した.平滑面は#1500のエメリー研磨紙で研磨することにより作製した(Emery).チタンの表面性状を, 表面粗さの測定, SEM観察, XPS分析およびX線回折分析により表面分析した.マウス由来の骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を各チタン試験片上に播種し, 15日間培養した.細胞増殖のマーカーとしてDNA量を, 細胞分化のマーカーとしてアルカリフォスファターゼ(ALP)活性およびCaとPの生成量を測定した.コントロールとして培養用のガラス板(TCP)を用いた.Wire-EDM, Plasma, Emeryの表面粗さ(Rmax)はそれぞれ20.5, 31.4, 0.80μmであった.Wire-EDMは多数の小さな凹凸の集合した不規則形状を有していたが, くぼみの深さは比較的均一にそろっていた.一方Plasmaは凹凸がより不規則であり, 多孔質形状を有していた.Wire-EDM表面にはPlasmaやEmeryよりも有意に厚い酸化皮膜が生成しており, それらは表層から内部へ向かってTiO_2, TiO, Ti_2Oで構成されていた.細胞のDNA量は全ての試験片上で経時的に増加したが, 9日目以降はWire-EDMとPlasmaでEmeryおよびTCPよりも有意に増加した.今回用いた細胞は増殖および分化することによりALP活性を発現することが認められている.DNA 1μm当たりのALP活性は, 9日目以降Wire-EDMとPlasmaでEmeryおよびTCPよりも有意に増加した.15日目のWire-EDMおよびPlasma上の細胞が生成したCa/P比は1.26, 1.28であり, EmeryおよびTCPよりも有意に上昇していた.以上の所見より今回用いた骨芽細胞様細胞は, 同じチタン試験片上でも方向性のある平滑面よりも方向性のない凹凸面上で増殖が加速され, 細胞分化も活発になっていることが認められた.細胞の形態観察によると, Wire-EDMやPlasmaでは, 細胞は凹凸の縁に橋渡しをするように突起を成長させながら伸展していくことが認められた.従って細胞の形態の変化が分化を誘導したものと考えられる.今回の実験結果より, インプラントの骨接触面には方向性のない凹凸面が好ましいことが示唆されたが, 最適なミクロ形状を付与するためにさらに研究が必要である.