著者
工藤 雄一郎 米田 穣 大森 貴之
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
pp.60.2020, (Released:2021-06-11)
参考文献数
47

本稿では,日本列島で最古段階となる縄文時代草創期の隆起線文土器群の年代的位置づけを検討するため,東京都百人町三丁目西遺跡出土土器内面付着炭化物の分析を行った.土器に付着した炭化物は少量であったが,炭素をセメンタイトに合成する微量分析による放射性炭素年代測定を実施し,12,660±50yrsBP(15,270~14,940calBP)の土器であることが分かった.また,炭素・窒素安定同位体分析により,炭化物の由来が陸上動植物であり,年代測定結果の信頼性が高いことを示した.隆起線文土器の土器付着炭化物の放射性炭素年代測定50点および最古段階の資料である長崎県福井洞窟3c層出土炭化材による隆起線文土器の年代を比較し,隆起線文土器は約16,000年前から2,000年程度続く土器型式であり,百人町三丁目西遺跡の土器はそのなかでも中段階に位置づけられることを示した.
著者
佐伯 史子 萩原 康雄 奈良 貴史 安達 登 米田 穣 鈴木 敏彦 澤田 純明 角田 恒雄 増山 琴香 尾嵜 大真 大森 貴之
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.1-17, 2016
被引用文献数
2

岩手県大船渡市野々前貝塚から出土した縄文時代晩期の熟年男性1体(1号),胎児ないし新生児1体(2号),壮年後半から熟年前半の女性1体(3号),熟年女性1体(4号),3歳程度の幼児1体(5号)の計5体について,形態人類学的および理化学的分析を実施した。人骨の年代は放射性炭素年代測定により3150~3000年前(cal BP)と推定された。形態学的検討およびDNA分析の双方から,野々前貝塚人骨が縄文時代人に一般的な形質を有することが明らかとなった。ミトコンドリアDNAのハプログループが判明した3体(1号N9b1,4号N9b*,5号M7a2)に母系の血縁関係は認められなかった。特筆すべき古病理学的所見として,出土成人3体全ての外耳道に明瞭な外耳道骨腫が確認された。これは,野々前貝塚の人々が水中(潜水)ないし水面域での漁撈活動に従事していた可能性を示唆するものである。炭素・窒素同位体比の分析では海産物を多く摂取していた食性が提示されており,外耳道骨腫の多発との関連がうかがわれた。また,出土成人3体全ての頸椎に重度の椎間関節炎が生じており,野々前貝塚の人々が頸椎に強い負荷のかかる生活環境にあったことが想起された。
著者
鈴木 健太 山本 正伸1 2 Rosenheim Brad 大森 貴之 Polyak Leonid 南 承一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

The Arctic Ocean underwent dramatic climate changes in the past. Changes in sea-ice extent and ocean currents in the Arctic Ocean cause changes in surface albedo and deep water formation, which drove global climatic changes. However, Arctic paleoceanographic studies have been limited compared to the other oceans due to chronostratigraphic difficulties. One of the reasons for this is absence of material suitable for 14C dating in the Arctic Ocean sediments deposited since the last glacial maximum. To enable improved age constraints for sediments impoverished in datable material, we apply ramped pyrolysis 14C method (Rosenheim et al., 2008) to sedimentary records from the Chukchi-Alaska margin recovering Holocene to late-glacial deposits. Samples were divided into five fraction products by gradual heating sedimentary organic carbon from ambient room temperature to 900°C. The thermographs show a trimodal pattern of organic matter decomposition over temperature, and we consider that CO2 generated at the lowest temperature range was derived from autochthonous organic carbon contemporaneous with sediment deposition, similar to studies in the Antarctic margin and elsewhere. For verification of results, some of the samples treated for ramped pyrolysis 14C were taken from intervals dated earlier by AMS 14C using bivalve shells. The ages of lowest temperature split showed older ages than the radiocarbon ages derived from bivalve shells indicating that those splits were still mixtures and not pure autochthonous organic matter. The relationship between radiocarbon ages of generated gas and pyrolysis temperature is linear. We used this empirical relationship to determine the optimal temperature yielding pure marine organic carbon and estimated age of horizons by sampling at those temperatures. We compare these ages to mixing model ages decoupling the simpler mixtures represented by our original low-temperature splits, which were consistent with the bivalve ages.
著者
櫻井 弘道 山本 正伸 関 宰 大森 貴之 佐藤 友徳
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

北海道は、東アジアモンスーン影響下の北端に位置しており、夏季モンスーンが強く吹くと、北海道に太平洋からの湿った空気が運ばれる。本研究では、別寒辺牛高層湿原から採取した 約 4mの泥炭コアに含まれるミズゴケなどの植物のセルロースの酸素同位体比を分析し、夏季東アジアモンスーンの古気候復元を試みた。ミズゴケの酸素同位体比は、ツルコケモモやチシマノガリヤスといった高等植物の酸素同位体比よりも、常に低かった。ミズゴケの酸素同位体比は降水の酸素同位体比を直接的に反映しているが、高等植物の酸素同位体比は蒸散によって高くなっているのである。よって、このミズゴケと高等植物の酸素同位体比の差は、相対湿度のプロキシとなる可能性がある。ミズゴケの酸素同位体比の変動は、約1500年前に低下し、約1100年前に上昇しており、これは暗黒寒冷期と中世温暖期に該当すると考えられる。これは、夏季モンスーンによる降水量が約1500年前に少なく、約1100年前に多いということを示唆する。また、高等植物とミズゴケの酸素同位体比の差は、ミズゴケの酸素同位体比と負の相関を持つ。これは、夏の降水量が多いときに相対湿度が高くなっていたことを示唆しており、梅雨前線の活動によって夏の北海道に長雨が降る「蝦夷梅雨」という現象に似ている。蝦夷梅雨は、夏季東アジアモンスーンが強い時に起きる典型的な現象である。したがって、約1100年前の暖かく湿った気候は、夏季東アジアモンスーンの活動が強くなったことによって、夏に頻繁に蝦夷梅雨が起きていたことを反映していると考えられる。
著者
大村 幸弘 松村 公仁 大村 正子 山下 守 吉田 大輔 中井 泉 赤沼 英男 増淵 麻里耶 大森 貴之 熊谷 和博
出版者
公益財団法人 中近東文化センター
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2010-04-01

当該研究の主目的「文化編年の構築」は、IV~VIII区で中間期のIVa層、前期青銅器時代のIVb層を中心に行なった。特にIVa層は、出土した炭化物の分析から2135calBC-1958calBC、2063calBC-1948calBCということが判明した。2014年はIVa層直下の火災を受けた建築遺構の発掘を行なったが、出土する土器には轆轤製がほとんど認められず手捏ねの粗製土器が中心であることなど、それまでの製作技法とは大きな差異が認められた。また建築遺構の形態も脆弱であった。先史時代の土器の形式編年等は未解明部分が多く、層序を中心とした研究によって先史時代の編年に大きく貢献できたと考える。