- 著者
-
土肥 敏博
森田 克也
森岡 徳光
仲田 義啓
北山 滋雄
- 出版者
- 広島大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2003
アロディニアは,本来痛みを伝えない触角,冷覚など非侵害性の刺激によって痛みを生じる現象であり,神経因性疼痛neuropathic painの主症状として知られている.その発症機構は十分に解明されていない.血小板活性化因子(PAF)は炎症のメディエーターとして,とくに強力な浮腫誘発物質として知られる.しかし,痛覚伝導における役割は知られていない.本件研究は脊髄での痛覚伝導におけるPAFの役割について検討し,以下の結果を得た.1.PAFのマウス脊髄腔内投与は10fg〜1pgにおいてアロディニアを誘発した.PAF誘発アロディニアはPAF受容体拮抗薬TCV-309,WEB2086,BN50739およびATP P2X受容体拮抗薬pyridoxalphosphate-6-azophenyl-2,4-disulfonic acid(PPADS),NMDA受容体MK801および7-NI,morphine,QYNAD,minocyclineにより抑制された.2.PAF, NO donors, glutamate誘発アロディニアはNOスカベンジャー,guanylate cyclase inhibitor,G kinase inhibitorにより抑制され,cGMP誘導体によるアロディニアはG kinase inhibitorのみによって抑制された.3.PAFは培養後根神経節細胞からATPの遊離を引き起こした。PAF受容体mRNAはDRG,脊髄,ミクログリアにRT-PCRにより発現が確認された.4.PAFの脊髄腔内投与により脊髄背側表層にOX-42陽性ミクログリアが観察された.5.アモザピンの静脈内投与はPAF並びにcGMP誘発アロディニアを用量依存的に抑制した.これらの結果よりPAFは強いアロディニアを誘発し,その機序にATP P2X受容体,NMDA受容体,NOならびcyclic GMP/G-cyclaseカスケードが関与することが示唆された.この過程にミクログリアが関与することが示唆された.また,グリシントランスポーター遮断薬の抗アロディニア薬としての有用性が示唆された.また,Interleukin-1は疼痛伝達に係わりの深いP/Q type Ca2+ channelの発現を抑制すること,NSAIDsの一部はMDRを抑制して神経毒性を高める作用を有する事を認めた.以上,本研究で得られた知見より,PAF誘発アロディニアは神経因性疼痛の発症機序および新規治療薬開発のための有益なモデルとなることが示唆されその応用が期待される.