著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 百井 夢子 礒部 隆史 青木 明 植田 康次 岡本 誉士典 越智 定幸 埴岡 伸光 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-118, 2018 (Released:2018-08-10)

【目的】室内環境中の化学物質はシックハウス症候群や喘息等の主要な原因、あるいは増悪因子となることが指摘されているが、そのメカニズムについては不明な点が多く残されている。本研究では、室内空気中から高頻度で検出され、現在、室内濃度指針値策定候補物質として議論が進められている、2-Ethyl-1-hexanolおよびTexanolと、様々な消費者製品に広く用いられており、特にスプレー式家庭用品等の使用時には室内空気中から高濃度に検出されることがこれまでの実態調査から明らかになっている(-)-Mentholの複合曝露による影響をあきらかにする目的で、気道刺激に重要な役割を果たす侵害刺激受容体TRP (Transient Receptor Potential Channel)の活性化を指標に評価した。【方法】ヒト後根神経節Total RNAよりTRPA1 cDNAをクローニングし、TRPA1を安定的に発現するFlp-In 293細胞を樹立し、細胞内カルシウム濃度の増加を指標として対象化合物のイオンチャネルの活性化能を評価した。カルシウム濃度の測定にはFLIPR Calcium 6 Assay Kitを用い、蛍光強度の時間的な変化をFlexStation 3で記録した。【結果および考察】2-Ethyl-1-hexanol、Texanol および(-)-Menthol それぞれの単独処理ではTRPA1の活性化が認められない濃度域において、2-Ethyl-1-hexanolと(-)-Menthol、Texanolと (-)-Mentholの同時処理によって顕著なTRPA1の活性化が認められることが判明した。室内環境中には様々な化学物質が存在するが、本研究結果より、単独曝露時には気道刺激が引き起こされない場合でも、室内環境中に存在する化学物質の複合曝露によってTRPA1を介した感覚神経あるいは気道の刺激が引き起こされる可能性が考えられる。
著者
植田 康次 井上 みさと 岡本 誉士典 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-199, 2016 (Released:2016-08-08)

マンガンはヒトにおける必須微量元素の一つであるが、過剰曝露により神経系への影響を特徴とする中毒症状を引き起こす。その症状はパーキンソン病に似ていることからマンガン性パーキンソニズムとも呼ばれ、両者の発症機序には部分的な共通項が予想される。パーキンソン病に関与するドパミンを含むカテコールアミンの酸化体であるアミノクロムには神経障害作用があると考えられているが、その障害機序は明らかになっていない。神経細胞が遺伝子発現阻害により緩慢な細胞死を誘導されるという報告などから、われわれはマンガンとカテコールアミンの相互作用が遺伝子発現に及ぼす影響について検討した。 ドパミンおよびアドレナリンは塩化マンガン存在下において速やかに消失し、アドレナリンからは酸化体であるアドレノクロムの生成増加を確認した。T7 RNAポリメラーゼを用いた再構成RNA合成系において、アドレノムロム、あるいはマンガンとアドレナリンの混合液が濃度依存的にRNA合成を阻害したことから、マンガンによって加速生成したアドレノクロムがRNA合成反応を阻害したと考えられる。鋳型DNAよりもRNAポリメラーゼをアドレノクロムで前処理した方が強くRNA合成が阻害されたため、作用標的としてポリメラーゼが予想される。ヒト細胞でのグローバルな転写への影響を評価するため、新生RNA鎖へのエチニルウリジン取り込み活性をクリックケミストリーを介した蛍光アジド標識により測定する実験系を構築している。ファージと真核生物のRNAポリメラーゼの間の進化的な保存度は低いが、同様の阻害効果がみられた場合、活性部位近傍への作用の可能性も考えられる。
著者
植田 康次 青木 明 岡本 誉士典 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-145, 2017 (Released:2018-03-29)

必須微量元素であるとともに毒性元素でもあるセレン(Se)の細胞毒性の一旦は活性酸素種(ROS)によるもので、こうした酸化ストレスに対し細胞は生体防御因子グルタチオン(GSH)の増産で応じる。一方、GSHによるSeの代謝過程で生成するセレンジグルタチオン(GSSeSG)には細胞障害性が知られており、GSHの代謝動態がSe毒性に及ぼす影響は単純ではない。われわれは、過剰なSeに対する生体防御反応として誘導されるGSH代謝動態の亢進がSeの細胞障害性を増強してしまう可能性を検証した。 亜セレン酸(H2SeO3)がMCF-7細胞の生育を阻害しない濃度(5 µM)において、GSSeSGはROSに起因する8-オキソデオキシグアノシンを増加させ、アポトーシスを誘導した。同濃度域ではH2SeO3はほとんど細胞内に取り込まれないにもかかわらず、GSSeSGはSeを蓄積させることがICP-MSを用いた元素分析により明らかになった。GSSeSGの取り込み経路としてシスチン輸送体であるxCTの関与を想定しxCT阻害剤スルファサラジンを前処理したところ、GSSeSGによる細胞内Se増加量が50%程度減少した。xCTに対するsiRNAを用いた発現抑制によってもGSSeSGによるSe取り込みは40%程度にまで低下した。GSHからシスチンへの分解反応を開始するγ-グルタミン酸転移酵素(γGT)の特異的阻害剤によりSe取り込みが減少した。 Seの毒性から生体を防御するために発動されたGSHの代謝動態亢進が、GSH合成の律速段階であるシステインの取り込み増加にともない、よりいっそうのSeを細胞内に蓄積させるという望ましくないフィードバックループを形成してしまう可能性が示された。GSHはSe以外にも様々な金属と相互作用することが知られており、今回明らかになった機序が各種金属の毒性増強にも加担していることが示唆される。
著者
森 葉子 植田 康次 櫻井 有紀 青木 明 岡本 誉士典 神野 透人
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.162-165, 2021-10-25 (Released:2021-11-02)
参考文献数
7

食品中のシアン化合物の簡便,迅速な測定法を確立する目的で,日本産業規格(JIS)工場排水試験法で採用されている通気法を参考に,小型インピンジャーを用いる前処理について検討を行った.その結果,シアン化物イオンとして10 ppmに相当するアミグダリンをビワ種子粉末に添加して実施した分析法の性能評価では,真度83.9%,併行精度1.18%,室内精度4.67%の良好な結果が得られた.本法を用いて,市販されている食品中のシアン化合物を調査した結果,10食品中のビワ種子粉末3食品において10 ppmを超えるシアン化合物が検出された.
著者
鈴木 千帆 山本 京 植田 康次 岡本 誉士典 小嶋 仲夫
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-106, 2012 (Released:2012-11-24)

【目的】セレン(Se)はその代謝過程においてグルタチオン(GSH)と反応しセレノジグルタチオン(GSSeSG)を生成する.GSSeSGはがん細胞増殖抑制作用を示すことが知られているが,その反応機序は明らかになっていない.本研究では,GSSeSGの細胞傷害性,酸化的DNA損傷性およびその機構について検討した.【方法】ヒト乳がん細胞(MCF-7)生存率,生細胞蛍光染色; アポトーシス誘導率,アネキシンV染色; グアノシン酸化体(8-oxodG)定量,電気化学検出器付きHPLC;DNA損傷試験,アガロースゲル電気泳動; スーパーオキシドアニオンラジカル(O・2-)検出,ヒドロキシルアンモニウム/スルファニル酸/N-(1-ナフチル)エチレンジアミン二塩酸塩.【結果および考察】細胞生存率はGSSeSG用量依存的に減少し,それに伴いアポトーシス陽性細胞の割合が増大した.このとき,ゲノムDNA中の8-oxodG量が有意に増加したことから,GSSeSGは細胞内において酸化ストレスを誘発することが示唆された.仔牛胸腺DNAを用いたin vitro DNA損傷試験において,GSSeSGはGSH共存下で酸化的DNA損傷を誘導したことから,本反応が細胞内での酸化ストレスの誘導に関与しているものと考えられる.その過程で活性酸素種としてO・2-が生成していることを確認した.またGSSeSGは培地添加後速やかに減少したことから,その還元産物であるH2Seが生成し,細胞内に移行後さらに還元される過程でO・2-が生成していると考えられる.今後,GSHをはじめとする生体内チオールが関与する代謝過程を解析することにより,Seの抗がん作用の詳細が明らかになっていくと期待される.