著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 田原 麻衣子 川原 陽子 真弓 加織 五十嵐 良明 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-163, 2014 (Released:2014-08-26)

【目的】近年、生活空間において“香り”を楽しむことがブームとなっており、高残香性の衣料用柔軟仕上げ剤や香り付けを目的とする加香剤商品の市場規模が拡大している。それに伴い、これら生活用品の使用に起因する危害情報も含めた相談件数が急増しており、呼吸器障害をはじめ、頭痛や吐き気等の体調不良が危害内容として報告されている。本研究では、柔軟仕上げ剤から放散する香料成分に着目し、侵害受容器であり気道過敏性の亢進にも関与することが明らかになりつつあるTRPA1イオンチャネルに対する影響を検討した。【方法】ヒト後根神経節Total RNAよりTRPA1 cDNAをクローニングし、TRPA1を安定的に発現するFlp-In 293細胞を樹立した。得られた細胞株の細胞内Ca2+濃度の増加を指標として、MonoTrap DCC18 (GLサイエンス社)を用いて衣料用柔軟仕上げ剤から抽出した揮発性成分についてTRPA1の活性化能を評価した。また、GC/MS分析により揮発性成分を推定した。【結果】市販の高残香性衣料用柔軟仕上げ剤を対象として、それぞれの製品2 gから抽出した揮発性成分メタノール抽出液についてTRPA1に対する活性化能を評価した。その結果20製品中18製品が濃度依存的に溶媒対照群の2倍以上の活性化を引き起こすことが判明した。さらに、メタノール抽出液のGC/MS分析結果より、LimoneneやLinallolの他に、Dihydromyrcenol、Benzyl acetate、n-Hexyl acetate、Rose oxide、Methyl ionone等の存在が推定され、これらの中で、Linalool 及びRose oxideがTRPA1を活性化することが明らかになった。これらの結果より、柔軟仕上げ剤中の香料成分がTRPイオンチャネルの活性化を介して気道過敏性の亢進を引き起こす可能性が考えられる。
著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 百井 夢子 礒部 隆史 青木 明 植田 康次 岡本 誉士典 越智 定幸 埴岡 伸光 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-118, 2018 (Released:2018-08-10)

【目的】室内環境中の化学物質はシックハウス症候群や喘息等の主要な原因、あるいは増悪因子となることが指摘されているが、そのメカニズムについては不明な点が多く残されている。本研究では、室内空気中から高頻度で検出され、現在、室内濃度指針値策定候補物質として議論が進められている、2-Ethyl-1-hexanolおよびTexanolと、様々な消費者製品に広く用いられており、特にスプレー式家庭用品等の使用時には室内空気中から高濃度に検出されることがこれまでの実態調査から明らかになっている(-)-Mentholの複合曝露による影響をあきらかにする目的で、気道刺激に重要な役割を果たす侵害刺激受容体TRP (Transient Receptor Potential Channel)の活性化を指標に評価した。【方法】ヒト後根神経節Total RNAよりTRPA1 cDNAをクローニングし、TRPA1を安定的に発現するFlp-In 293細胞を樹立し、細胞内カルシウム濃度の増加を指標として対象化合物のイオンチャネルの活性化能を評価した。カルシウム濃度の測定にはFLIPR Calcium 6 Assay Kitを用い、蛍光強度の時間的な変化をFlexStation 3で記録した。【結果および考察】2-Ethyl-1-hexanol、Texanol および(-)-Menthol それぞれの単独処理ではTRPA1の活性化が認められない濃度域において、2-Ethyl-1-hexanolと(-)-Menthol、Texanolと (-)-Mentholの同時処理によって顕著なTRPA1の活性化が認められることが判明した。室内環境中には様々な化学物質が存在するが、本研究結果より、単独曝露時には気道刺激が引き起こされない場合でも、室内環境中に存在する化学物質の複合曝露によってTRPA1を介した感覚神経あるいは気道の刺激が引き起こされる可能性が考えられる。
著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 埴岡 伸光 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-207, 2016 (Released:2016-08-08)

【目的】近年、高残香性の衣料用柔軟仕上げ剤や香り付けを目的とする加香剤商品等の市場規模が拡大している。それに伴い、これら生活用品の使用に起因する危害情報も含めた相談件数が急増しており、呼吸器障害をはじめ、頭痛や吐き気等の体調不良が危害内容として報告されている。このような室内環境中の化学物質はシックハウス症候群や喘息等の主要な原因、あるいは増悪因子となることが指摘されているが、そのメカニズムについては不明な点が多く残されている。本研究では、欧州連合の化粧品指令でアレルギー物質としてラベル表示を義務付けられた香料成分を対象として、FormaldehydeやAcroleinなどのアルデヒド類や防腐剤パラベン、抗菌剤など多様な室内環境化学物質の生体内標的分子であり、これらの化学物質による気道刺激などに関与するTRP (Transient Receptor Potential Channel)イオンチャネル活性化について検討を行った。【方法】ヒトTRPV1及びTRPA1の安定発現細胞株を用いて、細胞内Ca2+濃度の増加を指標として対象化合物のイオンチャネルの活性化能を評価した。Ca2+濃度の測定にはFLIPR Calcium 6 Assay Kitを用い、蛍光強度の時間的な変化をFlexStation 3で記録した。【結果および考察】香料アレルゲンとして表示義務のある香料リストのうち植物エキス等を除いて今回評価可能であった18物質中9物質が濃度依存的にTRPA1の活性化を引き起こすことが判明した。なかでも、2-(4-tert-Butylbenzyl) propionaldehydeによるTRPA1の活性化の程度は陽性対象物質であるCinnamaldehydeに匹敵することが明らかとなった。以上の結果は、これら香料アレルゲンがTRPA1の活性化を介して気道過敏の亢進を引き起こす可能性を示唆しており、シックハウス症候群の発症メカニズムを明らかにする上でも極めて重要な情報であると考えられる。
著者
神野 透人 香川 聡子 大河原 晋
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

生活環境化学物質が原因あるいは増悪因子と考えられる疾患において重要な役割を果たしていると考えられる侵害刺激受容体TRPA1 チャネルについて、その感受性個体差に影響を及ぼす遺伝的要因並びに環境要因を明らかにすることを目的として、既知のSNPs を導入した異型TRPA1 5種並びに野生型TRPA1をHEK293細胞で強制発現させて機能変化を明らかにした。また、ヒト気道及び肺組織について、TRPA1 mRNA発現量の差をReal Time RT-PCR法により定量的に解析し、ヒト気道組織においてはTRPA1 mRNAレベルで100倍以上の個体差が認められることを明らかにした。
著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.W3-4, 2015 (Released:2015-08-03)

生活環境化学物質がシックハウス症候群や喘息等の主要な原因あるいは増悪因子となることが指摘されているが、そのメカニズムの詳細については未解明な部分が多い。著者らは生活環境化学物質による粘膜・気道刺激性のメカニズムを明らかにする目的で、ヒトTransient Receptor Potential (TRP) V1及びTRPA1をそれぞれ安定的に発現するFlp-In 293 細胞株を樹立し、その活性化を指標にして室内環境化学物質の侵害刺激について検討した。これまでに評価した238物質のうち、50物質がTRPV1を、75物質がTRPA1を活性化することを明らかにした。なかでも溶剤として広く使用される2-Ethyl-1-hexanolやTexanolをはじめ、一般家庭のハウスダスト中からも比較的高濃度で検出されるTris(butoxyethyl) phosphate、溶剤や香料成分として多用される脂肪族アルコール類、実際に室内環境中に存在する消毒副生成物や微生物由来揮発性有機化合物がイオンチャネルを活性化することが明らかになった。特に、可塑剤等DEHPの加水分解物であるMonoethylhexyl phthalateがTRPA1の強力な活性化物質であることを見いだした。また、塗料中に抗菌剤として含まれ、室内空気を介してシックハウス様症状を引き起こすことが報告されているイソチアゾリノン系抗菌剤や、呼吸器障害を含む相談件数が増加している高残香性の衣料用柔軟仕上げ剤もイオンチャネルを活性化することが判明した。シックハウス症候群の主要な症状として皮膚・粘膜への刺激があげられるが、本研究結果は、室内環境中に存在する多様な化学物質がイオンチャネルの活性化を介して、相加的あるいは相乗的に気道過敏性の亢進を引き起こす可能性を示唆しており、シックハウス症候群の発症メカニズムを明らかにする上で極めて重要な情報であると考えられる。
著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 埴岡 伸光 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.P-207, 2016

【目的】近年、高残香性の衣料用柔軟仕上げ剤や香り付けを目的とする加香剤商品等の市場規模が拡大している。それに伴い、これら生活用品の使用に起因する危害情報も含めた相談件数が急増しており、呼吸器障害をはじめ、頭痛や吐き気等の体調不良が危害内容として報告されている。このような室内環境中の化学物質はシックハウス症候群や喘息等の主要な原因、あるいは増悪因子となることが指摘されているが、そのメカニズムについては不明な点が多く残されている。本研究では、欧州連合の化粧品指令でアレルギー物質としてラベル表示を義務付けられた香料成分を対象として、FormaldehydeやAcroleinなどのアルデヒド類や防腐剤パラベン、抗菌剤など多様な室内環境化学物質の生体内標的分子であり、これらの化学物質による気道刺激などに関与するTRP (Transient Receptor Potential Channel)イオンチャネル活性化について検討を行った。<br>【方法】ヒトTRPV1及びTRPA1の安定発現細胞株を用いて、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度の増加を指標として対象化合物のイオンチャネルの活性化能を評価した。Ca<sup>2+</sup>濃度の測定にはFLIPR Calcium 6 Assay Kitを用い、蛍光強度の時間的な変化をFlexStation 3で記録した。<br>【結果および考察】香料アレルゲンとして表示義務のある香料リストのうち植物エキス等を除いて今回評価可能であった18物質中9物質が濃度依存的にTRPA1の活性化を引き起こすことが判明した。なかでも、2-(4-tert-Butylbenzyl) propionaldehydeによるTRPA1の活性化の程度は陽性対象物質であるCinnamaldehydeに匹敵することが明らかとなった。以上の結果は、これら香料アレルゲンがTRPA1の活性化を介して気道過敏の亢進を引き起こす可能性を示唆しており、シックハウス症候群の発症メカニズムを明らかにする上でも極めて重要な情報であると考えられる。
著者
香川(田中) 聡子 中森 俊輔 大河原 晋 岡元 陽子 真弓 加織 小林 義典 五十嵐 良明 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.2003146, 2013 (Released:2013-08-14)

【目的】室内環境中の化学物質はシックハウス症候群や喘息等の主要な原因,あるいは増悪因子となることが指摘されているが,そのメカニズムについては不明な点が多く残されている。イソチアゾリン系抗菌剤は塗料や化粧品・衛生用品等様々な製品に使用されており,塗料中に含まれるこれら抗菌剤が室内空気を介して皮膚炎を発症させる事例や,鼻炎や微熱等のシックハウス様症状を示す事例も報告されている。本研究では,侵害受容器であり気道過敏性や接触皮膚炎の亢進にも関与することが明らかになりつつあるTRPイオンチャネルに対するイソチアゾリン系抗菌剤の活性化能を検討した。【方法】ヒトTRPV1及びTRPA1の安定発現細胞株を用いて,細胞内Ca2+濃度の増加を指標としてイオンチャネルの活性化能を評価した。Ca2+濃度の測定にはFLIPR Calcium 5 Assay Kitを用い,蛍光強度の時間的な変化をFlexStation 3で記録した。【結果および考察】2-n-octyl-4-isothiazolin-3-one (OIT)がTRPV1の活性化を引き起こすことが明らかになった(EC50:50 µM)。また,TRPA1に関しては,2-methyl-4-isothiazolin-3-one (MIT),5-chloro-2-methyl-4-isothiazolin-3-one (Cl-MIT),OIT,4,5-dichloro-2-n-noctyl-4-isothiazolin-3-one (2Cl-OIT)及び1,2-benzisothizolin-3-one (BIT)が顕著に活性化することが判明し,そのEC50は1~8 µM (Cl-MIT, OIT, 2Cl-OIT, BIT)から70 µM (MIT)であった。これらの物質が,TRPV1及びA1の活性化を介して気道過敏性の亢進等を引き起こす可能性が考えられる。諸外国においてはこれら抗菌剤を含む製品の使用により接触皮膚炎等の臨床事例が数多く報告されており,我が国でも近年,冷感効果を謳った製品の使用による接触皮膚炎が報告され,その原因としてイソチアゾリン系抗菌剤の可能性が指摘された。これら家庭用品の使用により,皮膚炎のみならず,気道過敏性の亢進等シックハウス様の症状が引き起こされる可能性も考えられる。
著者
神野 透人 古川 容子 大河原 晋 西村 哲治 香川(田中) 聡子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20064, 2011 (Released:2011-08-11)

【目的】室内環境中の化学物質が発症の原因あるいは増悪因子となり得る疾病として、いわゆるシックハウス症候群や気管支喘息等があるが、その発症機序の詳細には未解明な部分も多い。本研究では主に塗料や粘着剤・接着剤、アクリル樹脂等の原料として利用されており、既に呼吸器/皮膚感作性が確認されている物質も含まれているアクリル酸及びメタクリル酸とそのエステル類について、侵害刺激受容体であり気管支喘息にも深く関与することが示唆されているTransient Receptor Potential (TRP) A1及びTRPV1 に対する活性化作用を検討した。 【方法】ヒト後根神経節Total RNAよりRT-PCRによってTRPA1及びTRPV1 cDNAをクローニングし、それぞれを安定的に発現するFlp-In 293細胞を樹立した。得られた細胞株の細胞内Ca 2+濃度の増加を指標としてTPRA1及びTRPV1イオンチャネルの活性化を評価した。 【結果】アクリル酸及びメタクリル酸とそのエステル類14物質について、ヒトTPRA1及びTRPV1に対する活性化能を評価した。その結果、TRPV1に対する活性化能は本研究で対象とした14物質には認められなかったが、アクリル酸ブチル及びメタクリル酸ブチルがTPRA1を活性化する作用を有することが明らかになった。我々はこれまでに家庭用品から放散される揮発性有機化合物の評価試験を実施し、パーソナルコンピューターやテレビ等多種多様な家庭用品からからある種のアクリル酸エステル類・メタクリル酸エステル類が放散することを見いだしている。本研究結果から、これら家庭用品から放散されるアクリル酸エステル類・メタクリル酸エステル類がTRPA1を介した感覚神経あるいは気道の刺激を引き起こす可能性が考えられる。
著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 田原 麻衣子 川原 陽子 真弓 加織 五十嵐 良明 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.P-163, 2014

【目的】近年、生活空間において“香り”を楽しむことがブームとなっており、高残香性の衣料用柔軟仕上げ剤や香り付けを目的とする加香剤商品の市場規模が拡大している。それに伴い、これら生活用品の使用に起因する危害情報も含めた相談件数が急増しており、呼吸器障害をはじめ、頭痛や吐き気等の体調不良が危害内容として報告されている。本研究では、柔軟仕上げ剤から放散する香料成分に着目し、侵害受容器であり気道過敏性の亢進にも関与することが明らかになりつつあるTRPA1イオンチャネルに対する影響を検討した。<br>【方法】ヒト後根神経節Total RNAよりTRPA1 cDNAをクローニングし、TRPA1を安定的に発現するFlp-In 293細胞を樹立した。得られた細胞株の細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度の増加を指標として、MonoTrap DCC18 (GLサイエンス社)を用いて衣料用柔軟仕上げ剤から抽出した揮発性成分についてTRPA1の活性化能を評価した。また、GC/MS分析により揮発性成分を推定した。<br>【結果】市販の高残香性衣料用柔軟仕上げ剤を対象として、それぞれの製品2 gから抽出した揮発性成分メタノール抽出液についてTRPA1に対する活性化能を評価した。その結果20製品中18製品が濃度依存的に溶媒対照群の2倍以上の活性化を引き起こすことが判明した。さらに、メタノール抽出液のGC/MS分析結果より、LimoneneやLinallolの他に、Dihydromyrcenol、Benzyl acetate、<i>n</i>-Hexyl acetate、Rose oxide、Methyl ionone等の存在が推定され、これらの中で、Linalool 及びRose oxideがTRPA1を活性化することが明らかになった。これらの結果より、柔軟仕上げ剤中の香料成分がTRPイオンチャネルの活性化を介して気道過敏性の亢進を引き起こす可能性が考えられる。
著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.W3-4, 2015

生活環境化学物質がシックハウス症候群や喘息等の主要な原因あるいは増悪因子となることが指摘されているが、そのメカニズムの詳細については未解明な部分が多い。著者らは生活環境化学物質による粘膜・気道刺激性のメカニズムを明らかにする目的で、ヒトTransient Receptor Potential (TRP) V1及びTRPA1をそれぞれ安定的に発現するFlp-In 293 細胞株を樹立し、その活性化を指標にして室内環境化学物質の侵害刺激について検討した。これまでに評価した238物質のうち、50物質がTRPV1を、75物質がTRPA1を活性化することを明らかにした。なかでも溶剤として広く使用される2-Ethyl-1-hexanolやTexanolをはじめ、一般家庭のハウスダスト中からも比較的高濃度で検出されるTris(butoxyethyl) phosphate、溶剤や香料成分として多用される脂肪族アルコール類、実際に室内環境中に存在する消毒副生成物や微生物由来揮発性有機化合物がイオンチャネルを活性化することが明らかになった。特に、可塑剤等DEHPの加水分解物であるMonoethylhexyl phthalateがTRPA1の強力な活性化物質であることを見いだした。また、塗料中に抗菌剤として含まれ、室内空気を介してシックハウス様症状を引き起こすことが報告されているイソチアゾリノン系抗菌剤や、呼吸器障害を含む相談件数が増加している高残香性の衣料用柔軟仕上げ剤もイオンチャネルを活性化することが判明した。シックハウス症候群の主要な症状として皮膚・粘膜への刺激があげられるが、本研究結果は、室内環境中に存在する多様な化学物質がイオンチャネルの活性化を介して、相加的あるいは相乗的に気道過敏性の亢進を引き起こす可能性を示唆しており、シックハウス症候群の発症メカニズムを明らかにする上で極めて重要な情報であると考えられる。
著者
堀籠 啓太 伊藤 聖学 大河原 晋 相川 利子 今田 悟 宮澤 晴久 下山 博史 高雄 泰行 下山 博身 渡部 晃久 森下 義幸
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.77-83, 2020 (Released:2020-02-28)
参考文献数
18

症例は61歳, 男性. 糖尿病性腎症による慢性腎不全により, 週3回の血液透析 (HD) 中であり, 透析後半に頻回の血圧低下を起こしていた. 身体所見や心胸郭比, 循環血液量モニタリングからは適正な体液の状態と判断していた. 本人の同意を得たうえで, 脳内局所酸素飽和度 (rSO2) のモニタリングを行った. HD中のモニタリングでは, HD開始120分後まで緩徐に平均血圧が低下した際, 右前額部において脳内rSO2の低下が観察された. 脳内の虚血性病変を疑い, 核磁気共鳴画像を撮影したところ, 右内頸動脈の高度狭窄が確認された. 単一光子放射断層撮影では安静時の脳血流は保たれていたため, 手術には至らず, 現在も経過観察中である. HD患者の脳内rSO2のモニタリングは脳内虚血性疾患の診断に寄与する可能性がある.
著者
湯田 淳一朗 本間 りこ 深瀬 幸子 大河原 晋 大本 英次郎 後藤 敏和 鈴木 昌幸
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.100, no.8, pp.2247-2249, 2011 (Released:2013-04-10)
参考文献数
10

コレステロール塞栓症は動脈内の粥腫状プラークが剥がれ末梢動脈を閉塞して組織および臓器虚血をきたす疾患である.症例は66歳,男性.入院当初,血尿,蛋白尿を伴う進行性の腎機能障害と発熱があり血管炎症候群を考えたが,腎生検によりコレステロール塞栓症と診断した.ステロイド投与後,炎症反応は改善した.本例は,血管炎症候群様の臨床所見を呈した非典型的なコレステロール塞栓症であった.
著者
大河原 晋 大牟礼 勝 森谷 太郎
出版者
公益社団法人日本セラミックス協会
雑誌
窯業協會誌 (ISSN:00090255)
巻号頁・発行日
vol.64, no.722, pp.65-73, 1956

三石蝋石32%, 同質シャモット40%に, 猿投木節と蛙目粘土をそれぞれ24%および4%ずつ結合剤として加え, 加水, 成形後, これを1400°, 1時間焼成して製作した実験用小型坩堝を用いて, 2種のガラス, すなわちソーダ石灰ガラス (Na<sub>2</sub>O・CaO・3SiO<sub>2</sub>) とソーダ鉛ガラス (Na<sub>2</sub>O・PbO・3SiO<sub>2</sub>) の予めカレットとしたものを, 1200°と1400°に熔融し, この温度に達した直後のもの, 2, 3, 4時間後のものを, 炉内から取出して空冷した際に, 各ガラスがそれぞれの坩堝を侵蝕している状態を鏡検してその機構を考察した.<br>その結果によれば, いずれのガラスでもほぼ同様な侵蝕過程が認められ, 坩堝素地のアルミナ成分の熔解がムライトの熔解にやや先行する結果, 1200°では坩堝素地中の粘土とカオリン質蝋石の各〓焼部分周辺のガラス中に少量のネフェリンを混入したカーネギエイト結晶層が析出しており, 時間の経過と共にこれらの結晶は粘土〓焼部分の周辺から消失し, カオリン質蝋石の〓焼部分周辺に顕著な増加を示す. しかるに, 1400°ではいずれのガラスでも, 最初ダイアスポア仮像周辺のみにカーネギエイトを少量混入したネフェリン結晶の析出が認められ, 時間の経過するにつれて, 結晶は徐々に消失していって, 逆にガラスが坩堝素地内部に浸入し, 外観が白色の極めて薄い侵蝕層を形成するに至る. すなわち, 坩堝素地の表面で若干の成分交換が行われ, それ以後はガラス中への坩堝素地の熔解が, 常に侵蝕層を間にして進んでゆき, 時間が経過するにつれて侵蝕層は少しずつ素地内部に後退してゆく. 全般的に見て, ソーダ石灰ガラスよりもソーダ鉛ガラスの方が侵蝕の度合が強い.
著者
吉田 泉 駒田 敬則 森 穂波 安藤 勝信 安藤 康宏 草野 英二 大河原 晋 鈴木 正幸 古谷 裕章 飯村 修 小原 功裕 高田 大輔 梶谷 雅春 田部井 薫 NIKKNAVI研究会
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.909-917, 2010-11-28
被引用文献数
1

われわれは,透析患者の除水による循環血液量の変化をモニターする機器(Blood Volume Monitoring system:BVM)を日機装社(静岡)と共同開発し,多施設共同研究において臨床的にドライウエイト(DW)が適正と判断された患者の循環血液量の変化(BV%)の予想範囲を設定し,すでに報告した(Ther. Apher. Dial. in press).本論文では,その予想範囲が適正な除水量設定に有用か否かを検討した.維持透析を行っている9施設の144名を対象とし,採血日を含む3回の透析日に,BVM搭載装置を用いて透析を行った.DWが適正と判断された患者のBV%予想範囲は,上限ライン:BV%/BW%後=-0.437t-0.005 下限ライン:BV%/BW%後=-0.245ln(t)-0.645t-0.810.BV%は循環血液量変化率,BW%後は透析による除水量の前体重に対する比率,tは透析時間(h).今回の検討では,DW適正の可否を問わずに144例を抽出し,430データを集積した.プロトコール違反の94データを除外した336データを解析対象症例とした.各施設の判断によりDW適正と判断された230データで,BVMでも適正と判断された適正合致率は167データ(72.6%)であった.臨床的にDWを上げる必要があると判断された45データで,BVMでもDWを上げる必要があると判断されたのは10データ,逆に臨床的にDWを下げる必要があると判断された61データで,BVMでも下げる必要があると判断されたのは37データであった.その結果,BVMによる判定と臨床的判定の適合率は63.7%であった.不適合の原因としては,バスキュラーアクセスの再循環率(VARR),体位変換,体重増加量が1.0kg以下などであった.PWI(Plasma water index)による判定との適正合致率は71.6%で,適合率は58.0%であった.hANPによる判定との適正合致率は68.8%で,適合率は48.7%であった.循環血液量のモニターは,透析患者の除水設定管理の一助になり,われわれが設定したBV%予想範囲は臨床的にも妥当性が高いと考えられた.